第一章〜入学式、その後〜
魔法などの設定はまだ漠然としか解らないと思います。話が進むうちに理解できるかと……。
入学式はどんな学校に行ったとしても、必ず行われている行事であり、決して楽しいものではない。
いや、この世界に楽しい入学式などあるわけがないだろう。
それは西暦2070年を迎えた今でも変わることなく、むしろだんだんとつまらなくなってきている。
まあこの学校が国立である以上、改善は望めなさそうだ。
「…やっと終わった」
入学式も終わり、1年E組の教室へと戻ってきた―――正確に言えば初めて来た、薫は、机に顔を伏せながら覇気の無い声を出していた。
だがそれは薫だけでなく、ほとんどの生徒がそうだったようで、教室は何とも言えない空気に包まれていた。
「なぁ!なんか遊んで時間潰そうぜ!」
もちろん例外もいるが―…。
薫はやけに元気な結城の声を聞き流そうかとも考えたが、まだ出会って1日目、しかもほんの2時間しかたっていないのにそれは失礼だ。という結論に至り、嫌々ながらゆっくりと顔を向けた。
「遊ぶって何して?」
「んー…そうだな、何しようか?」
考えてなかったのかよ…。呆れてものも言えないな。
結城は必死に頭を悩ませて考えこんでいたが、薫はその時間が勿体ないと思い、再び机に顔を向けるのだった。
「あ!!」
たが薫の安眠は横で美味しそうにイチゴ牛乳を飲んでいた歩夢によってまたもや妨害された。
イチゴ牛乳とは…さすが癒し系。
などと考えながら顔を向けると、そこには飲み物をこぼして慌てている歩夢の姿があった。
どうやら蓋を開けたまんまのペットボトルを倒してしまったらしく、床と机に小さな水溜まりができていた。
「ど、どうしよう…」
「ちょっと離れて」
いきなり薫にそんなことを言われた歩夢は、不思議な顔をしながら席を立った。
歩夢の離席を確認した薫は、机に突っ伏したまま魔力を水溜まりへと放出した。
すると、赤い光の粒子が煌めいた一瞬にして、イチゴ牛乳がつくりだした水溜まりはそこに最初からなかったかのように綺麗に消え去っていた。
ふぅ…これでまた優雅に休憩を過ごすことができるな。
「ね、ねぇ!今のって魔法なの!?」
そう思った矢先に、よほど目の前で起こった出来事が信じられなかったのか、かなり興奮した面持ちの歩夢が薫の体を揺すりだした。
現代における魔法は、全てが法式によって作られている。
法式とは、その魔法がいかなる効力を持っており、いかなる動作によって発動するのかを人為的に定めた、いわば道筋のようなものだ。
魔法使いは法式に組み込まれた道筋を理解し、利用することができなければ魔法を使用することなど到底無理なのだ。
「いや、違うよ。今のは魔力をただ外界に垂れ流しただけの現象。それに、魔法の無断使用は禁止のはずだろ」
だが、たった今、薫が行ったのは魔法ではなく魔力そのものが持つ特性によるものだ。
魔力とは大体の人が想像しているとおり、魔法使いが魔法を使うために消費する力の源である。
「なるほどね、炎式の持っている吸収の特性か」
何して遊ぶか考えていた結城は2人の会話にいつの間にか入っていた。
「そういうことだね。俺は吸収より摩擦って言ったほうが正しいと思うんだが…」
「確かに炎式は吸収より摩擦だよね。それが炎式の所以なんだし、炎式の力なんだからね」
そもそも魔力とは人間が本来持っている力のことではない。
この世界の空気中には魔力子と呼ばれる魔力のもとになる見えない粒子が浮かんでいる。人間はそれを呼吸によって体内へと取り込み、圧縮しながら蓄積している。それを魔力と呼んでいるのだ。
また圧縮された魔力子は、外界へと放出されると光の粒子となって肉眼で捉えることができるようになる。
その光の粒子は見る人を魅了してやまない、幻想的な魅力を秘めているのだ。
「でもよ、炎式は魔力の摩擦で空気中の魔力子を吸収してんだから間違いではないだろ?」
「うーん…まぁ、そうなんだけど…」
それから3人は、炎式の特性が吸収と摩擦のどちらが正しいのかという、終わりなき題材を延々と語り続けるのだった。
ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ
「さて、諸君。私が君たちの担任になってしまった西条 一歩だ」
休み時間も終わり、授業が始まる。
この明らかに偉そうな態度をした、20代後半の男子教師はE組に入ってくるなりそう言った。
この若さで国立の魔法高校になれるぐらいだ。きっと優秀な魔法使いなのだろう。
だが、初登場で「E組の担任になってしまった」は生徒との間に険悪な空気を作るには十分だった。
「まあ細かい規則とかは生徒手帳でも読んどいてくれ。じゃあ次はクラス上げの説明をするぞ」
確実に先生は険悪な空気を感じ取っているだろう。しかし、特に気にする様子がないところを見るとこういうことはしょっちゅうあることなのかもしれない。
まあこの人に限ってのことだと思うが。
とりあえず余計な詮索は横に置いといて、この学校にはクラス上げというものが存在している。
新入生は入学と同時に、入試の成績がいい生徒からA組からE組へと振り分けられる。
各クラス30人に振り分けられた生徒は毎日勉学に励むわけだが、それとは別にクラス上げバトルというものがある。
これは生徒同士で魔法を使ったバトルを行って勝敗を競い、魔法使いとしてレベルの向上を目指すものだ。
さらに同じクラスの魔法使いに連続で5回勝利するか、D組ならC組、C組ならB組と、1つ上のクラスの魔法使いに連続で2回勝利すると、自動的に所属のクラスが1つ上がる。
だがもちろんそれなりにペナルティもある。
下のクラスに負けた生徒は強制的にクラスが下がったり、5連敗した生徒はその学期の魔法実技の成績が1つ下がったりする。
他にもあるのだがそれは後から説明することにしよう。
要するに今はE組の薫たちでも、勝利し続ければいつかはA組に行けるということが分かってもらえればオッケーだ。
「ところで落ちこぼれ共。お前らは魔法についてどれくらい知っている」
突然、本当に何の前触れもなく唐突に先生は語り出した。
「いや、この質問は正しくないか…。まぁいいや。俺はこれでも教師だ。そしてお前らは生徒。つまり俺はお前らを指導しないといけない立場なわけだ」
先生は語りながら生徒を見渡した。
あまりにもいきなりの話に、生徒たちはどこか緊張した面持ちで耳を向けていた。
すると先生は意味深にニヤッと笑った。
「俺は自分でも思うほどなかなか優秀な教師だ。それは間違いないだろう。だがいかんせん比べる相手がいない。だから軍に入ろうかと思ったこともある。しかーしだ、お前らも知っての通り今の日本はロシア、中国、アメリカと非常に危ない状況にある。いや、中国とロシアは現在進行形で戦争中だ」
西暦2010年から浮上していた普天間問題の影響で、日米の関係は最悪なものになっていた。
西暦2012年まで引き延ばされた移転問題は、二度目の政権交代によって無くなっていた。
いや、無くなったのではなく新たに政権を握った政党によって抹消されたのだ。それからわずか5年の歳月で憲法9条を廃止。さらに自衛隊を日本自衛軍として再編成した。
日本自衛軍として再編された軍隊は、日本の利益を害する全てのものに対して、利益を守るためという名目で戦争をしかけたのだった。
まず、北方領土と竹島を日本の領土として全世界に認めさせるために中国とロシアに対して宣戦布告。
西暦2020に開戦した中露連合対日本の戦争は10年もの年月をかかり、ようやく終戦を迎えたのだった。
「俺は軍に入って毎日命の削り合いなんてしたくもない。だが、自分がどれだけ強いかは知っておきたい。ってことで――」
そして一拍おいて言い放つ。
「お前ら俺と勝負しろ」




