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第二章〜病室〜

この作品はフィクションです。

ピッピッピッ。と、電子音が鳴り響く真っ白な部屋の中。


それほど広くない面積にも関わらず、そこには6人もの人が集まっていた。


だが誰1人として喋ることなく、ただ呆然と、あるものは面倒くさそうに部屋の中央で眠り続ける少年を見つめていた。


そう、ここは病室だ。


ベッドで寝ている薫は体のあちこちに包帯を巻かれ、一目で大怪我していることが分かる。


「ケッ、どいつもこいつも暗い顔ばっかしやがって。この部屋で葬式でもやってんのかよ」


そのなかで佐慈は悪態をつく。


非常に好戦的な性格で暗いことが大嫌いな佐慈にとって、この部屋の雰囲気というものは非常に居心地の悪いものだった。


「お前は相変わらず空気が読めないやつだな。少しは周りのことも考えて――」

「考えてるよ。考えてるから言ってんだ」


佐慈は刹那の言葉を遮って言った。


「薫の野郎は死んだわけじゃねぇし2度と目覚めないってわけでもねぇ。それなのにテメェらはお通夜状態だ。こんな空気おかしすぎて逆に笑えねぇんだよ」

「仕方ないだろ。何せあの秋津がここまでやられたんだ。みんな心配もするさ」

「ハッ、あの秋津…ねぇ」


と、佐慈は小馬鹿にしたように言った。


これにはさすがの刹那もピクリと反応した。


「何が言いたい…?」

「テメェがこいつを過大評価し過ぎだって言ってんだよ。いくらこいつがスゲェって言ってもそれは俺たちからしたらだ。しかも実際には俺たちと大差ないレベルだ。んなもん戦場を生き抜いてきたやつらからしたら赤子同然だ」

「ふっ…笑わせてくれる。そんなやつにお前は負けたじゃないか」

「そりゃそうだ。薫の法式の展開速度はピカイチだからな。だが魔力の許容量と圧縮率自体は俺とほぼ同等。いや、もしかしたらそれ以下かもしれねぇ。それなら展開速度の遅い俺が負けるのは当然だ」

「佐慈、自分で言っておいて矛盾しているぞ」

「人の話は最後まで聞けよ。薫の魔力の許容量と圧縮率はいたって平凡。なら力で押し通れば誰だって勝てんだよ。それこそ軍人なら余裕だろ?」


まさか、と刹那は驚いた。


まさかこいつは秋津を襲ったのが軍人だと言いたいのか!?


「それは絶対にない。もしそうだとしても秋津が襲われる理由がない」

「ところがどっこい、あるんだなこれが」

「……それは、いったい?」

「おおっと、もうこんな時間だ。学校に戻ろうぜ、生徒会の仕事がたまってやがるからな」


そこで佐慈はわざとらしく立ち上がって言った。


させるか、と刹那は佐慈に手を伸ばして、止めた。


1年も同じ生徒会にいた刹那は分かっているのだ。


こうなったら佐慈は絶対に喋らないと。


刹那は大きくため息をつくと、ようやっと立ち上がり、言った。


「邪魔したな。秋津が起きたらよろしく言っといてくれ」

「はい、分かりました」


と、皆を代表して桐埜が返事をした。


そして佐慈と刹那が去った病室に再び無言が訪れる。


誰も喋ろうとはしない。喋れないのではない、喋りたくないのだ。


詩織も桐埜も歩夢も結城も、誰1人として。


この5人の中で一番魔法を上手く扱えるのは恐らく薫だ。


確認したわけじゃないが皆そう思っているだろう。


だが、その薫が大怪我をして入院した。


そして入院から3日経っても目覚めることなく眠り続けている。


その偽りようのない事実が、たまらなく4人を不安にさせていた。


「奴さんは……誰と戦ったんだ?」


黙っていても仕方がない。結城はその重い口を開いた。


「誰と戦って…こんな怪我をしたんだ?」


もちろん誰も答えない。


いや、答えられない。


そんなの実際に見たわけじゃないから分からなくて当然だ。


だが、その無言の間が結城を無性に苛立たせる。


「なぁ……誰か何とか言えよ!!」

「ちょっと結城!」


思わず歩夢がなだめる。


当たり前だがここは病院で、隣の病室にだって違う患者が寝ている。


結城の気持ちだって理解できるが、さすがに大声を出すのはまずい。


結城もそれを分かっているから素直に謝った。


「わりぃ……みんなも同じ気持ちだってのに、俺は……」

「いいの、きっと薫ちゃんも嬉しいと思う。こんなに心配してくれる人がいて」

「東雲……」

「だから薫ちゃんは絶対に元気になるよ。だから皆で待っていてあげようね」

「ああ、そうだな」


あの薫がこれくらいの怪我で起きないわけがない。


今はただ疲れが溜まって寝ているだけなんだ。


だから待たなければならない。


薫が元気になって帰ってくるのを。


4人はそれ何も言わずにただただ薫の目覚めを待つのであった。







それからしばらくして結城と歩夢は帰っていった。


もちろん目が覚めるまで病室にいるつもりだったが今日から3日の間、四階家の会議みたいなものがあるらしくどうしても帰らないといけないらしい。


もちろん止める理由なんてないし、むしろそこまで薫のことを考えてくれているなんて、感謝してもしきれないぐらいだ。


「キリちゃんはどうするの?」


詩織は残った桐埜に聞いた。


「私は何もないから平気よ」


桐埜もあっさり返答する。そう、と詩織は軽く頷いた。


「ねえ、キリちゃん」

「なに?」

「薫ちゃんは誰に襲われたのかな?」

「分からないわ。私には検討もつかないもの。詩織は心当たりとかないの?」

「あることはあるけど……でも言わない」

「あら、ずいぶん信頼されてないのね」

「そ、そんなことないよ!」


慌てて詩織は否定した。


「ただ、自信もないし……それにきっと違うはずだから……」

「その根拠は?」

「薫ちゃんのケガ、お医者さんは軽度の火傷って言ったでしょ? その子、風式使いだから」

「まさかそれだけ!?」

「え、そ、それにその子には薫ちゃんを襲う理由なんてないし……」


そこで桐埜はため息をついた。


いくら詩織がお人好しだからって、ここまで人間を信頼しているのが信じられなかったのだ。


人間なんて些細なことで憎しみを抱くちっぽけな存在だというのに、何が詩織をこんなに信頼させているのか分からなかった。


「詩織は世間知らずなのかしら。それともお人好しなだけ?」

「どっちも違うよ。私はその子のことを信じたいだけなんだよ……」

「それをお人好しって言うのよ。いい? 詩織。人間なんて簡単なことで他人を憎むわ。悪口を言われた、無視をされた、たったそれだけのことでもよ」

「で、でも薫ちゃんは…!」

「分かってるわ。薫はそんなことをするような人じゃない。でも薫の気付かないところでやってるかもしれないでしょ? 知らないうちに誰かのことを傷付けてるかもしれない。詩織にそれを否定することができるの?」


そこで詩織は答えずに間を開けた。


否定できなかったからじゃない。ただ、答えていいか迷ったからだ。


「そういうところよ、詩織」

「え?」

「あなたは薫の全てを知っているわ。薫が気付いていないようなところも全部ね。それがダメなのよ」

「ダ、ダメ……?」

「あなたは薫の一番よ。彼が否定してもあなたが否定しても、周りから見たらあなたが薫の一番なのよ。でももし薫を好きな子がいたとしたらどう思うかしら?」


常に薫と一緒にいる詩織。


薫と心を通わしている詩織を見ていて、気分が良いわけがない。


「私だったら嫉妬するわ。さすがに今回みたいに襲撃なんてしないけれど、嫉妬で狂いそうになるかもしれないわね」

「キリちゃん…まさか……」

「例え話よ、本気にしないで」

「うん……でも、その子は薫ちゃんに恋愛感情は抱いてないと思うの」

「だから例え話って言ったのよ。詩織が思っている子が犯人じゃないとしたら、そういう子が犯人の可能性もあるでしょ」

「まさか」


ありえない、といった感じで詩織は呟いた。


だが桐埜は気にした様子もなく続ける。


「とにかく、詩織はもう1度考えること。薫を好きそうな子がいなかったとか、薫が誰かを傷付けるようなことをしてなかったかをね」

「……私には分かんないよ」

「私も手伝うわ。薫がやられっぱなしなんて気が晴れないもの。その子にはキチッと謝ってもらわないと」


そう言いながら桐埜は明るく笑っていたが、詩織には何となく分かっていた。


今の言葉は友達を思うものじゃない。


きっと詩織にしか分からなかったであろう、今の桐埜は人を好きになった乙女の顔だった。


そしてその人は詩織の想い人と同じ。




やっぱりキリちゃんは薫ちゃんが好きなんだ……。




詩織は何とも言えない表情で、ただただ桐埜を見つめるのであった。

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