第二章〜期末テスト〜
この作品はフィクションです。
7月。
生徒会主導による全生徒へのテロ教育も無事終わり、間もなく2ヶ月が経とうとしていた。
さらに、薫たち新入生が入学してからすでに3ヶ月あまりの月日が流れており、ようやく学校に慣れてきた今日この頃。
学校では新たな問題が浮上していた。
それは、どの学校……いや、地球に四季がある以上避けては通れない問題。
「あっちぃ〜」
夏の猛暑であった。
「四階、暑いって言うな。こっちまで暑くなるだろ」
「だってよぉ、お前さん。まだ7月だぜ? それなのに最高気温が30度を越えるなんておかしいだろ」
結城の他愛ない愚痴に、薫は「仕方ないだろ」と言い返し読んでいた本をパタンと閉じた。
「いくら地球温暖化対策が進んだとはいえ、人間が生活してる以上温暖化が進行しないわけがないからな」
「けっ、やだねぇ現実主義者は。ちっとは夢見させろよ」
「夢を見るも何も、自然相手に何を見ろって言うんだ。相手は俺たちでどうのこうのできるやつじゃない」
「んなこたぁ分かってるよ」
結城は、ふんっと鼻をならすと、またも「あっちぃ〜よぉ」と愚痴を溢し出した。
その様子を見ていた薫は、深くためいきをつくのだった。
「まったく、だらしないと言うかなんと言うか…それでも四階家の次期当主か?」
「ごめんね秋津君」
そんな薫に謝ったのは結城ではなく歩夢だった。
北川 歩夢。
四階家、次期当主である結城のプロテクショナー。
魔法使いとしてはかなり上位にあたるのだが、結城を警護するためにあえて落ちこぼれのふりをしている優等生。
「結城は毎年夏になるとこうなっちゃうの。夏の間はずっとこうだからあまり相手にしない方がいいよ」
「北川……何でお前が謝るんだよ。悪いのはあのくそったれだ」
薫はペッ、ペッ。と、結城に唾を飛ばすふりをしながら言った。
「そういう秋津君は何を読んでたの?」
歩夢が机に置かれた本に気付き、薫に聞いた。
「ああ、これか? これは『いかに夏を涼しく過ごすか』って本だ」
「お前さんも暑いって思ってんじゃねぇかよッ!!」
たまらず結城が突っ込んだ。
しかし薫は、結城とは対照的に冷静な態度で言い返す。
「誰も暑くないなんて言ってないだろ。それにもう7月だ、暑くないはずがない」
そう、もう夏なのだ。
この学校ももうすぐ夏休みに入る。
それまで我慢すれば、あとは1日中クーラーを浴びるなり好きにすればいい。
「はぁ…夏ねぇ………夏かぁ……ん? そうか! 夏か!!」
結城は突然そう言うと、嬉しそうに立ち上がった。
「そうだ! 夏だッ。海へ行こう!!」
「はぁ? いきなり何を言い出してんだ、お前は?」
「だってよ、もう夏だぜ? 高校生が夏に海で遊ばないなんてもったいないと思わないか?」
「思わん。別に海で遊ばなくても俺は問題ない。っていうか海に行くのがめんどくさい」
そこで、結城はわざとらしく「はぁ」と大きくため息をついて見せた。
「お前さんってホントに高校生? つーか学生? 言ってることが寂しすぎるんですけど?」
「ここにいるんだから間違いなく高校生だよ。っていうか四階、海に行く計画を立てる前に心配しないといけないことがあるんじゃないか?」
「んあ? ねぇーよ、そんなもん」
結城の返答を聞いた薫は、残念そうに首を振ると、ピンと人差し指を立てて言い聞かせた。
「期末テストだよ」
「と、いうわけでッ」
何がと、いうわけでッだよ……。
「東雲 詩織様による期末テスト講義を始めたいと思います! ハイ、みんな拍手ッ!!」
パチパチパチパチ。と、結城、それに歩夢は嬉しそうに拍手をおくった。
その横で、薫と桐埜が非常に冷めたような目をしている。
「ではまず、4人がどれほど勉強出来るのか知るために簡単な質問をしたいと思います。じゃあ最初は…薫ちゃん!」
「なんだよ……」
「A君の魔力許容量が200、圧縮率は70%。B君の魔力許容量が300、圧縮率が50%とするとき、2人が同じ法式を同時に展開すると、どっちが勝つでしょうか!?」
「んなもん魔力許容量が多いB君に決まってるだろ。あ、いや待てよ……圧縮率はA君の方が高いわけだから……ん? でもやっぱり最後は魔力許容量だよなぁ……ああッ、もう知らん!! 答えはA君だッ!」
と、薫が答えた瞬間、それまでわいわいとうるさかった空気が一瞬にしてピシリと凍りついた。
もちろんこの猛暑の中、本当に空気が凍りつくわけもなく、ましてや桐埜が氷式魔法を使ったのでもなく、ものの例えというやつだ。
だがその中で詩織だけがとても嬉しそうに微笑んでいた。
「さすが薫ちゃん。私の期待を裏切らない見事な回答だね」
「……そりゃどうも」
薫は非常に冷めた声で返事をする。
その横でようやく我に返った桐埜が声を上げた。
「ちょっと薫ッ! あなたもしかして今真剣に答えたの!?」
「そうだけど……?」
その言葉に、桐埜だけでなく歩夢と結城まで驚いていた。
それもそのはず。
今の問題は中学生が最初に習うような基礎的な問題だったからだ。
「まさか薫がこんなにバカだったなんて……ビックリだわ」
「確かになぁ。新魔法すらも編み出すやつだから頭良いのかと思ってたぞ」
「実技と筆記はまったく別物だから仕方ないだろう。俺はそんなに万能じゃない」
「で、でも」
そこで、歩夢が口を挟んだ。
「新しい魔法を見つけるってことは筆記も理解しないと絶対に出来ないことだよ? ってことは秋津君は筆記もできるはずなんだよ」
「うーん……なんて言ったらいいかなぁ。俺は魔法のことを理解しているわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
「魔法を知るには法式を知れ。それが世界の常識だと思う。だけど俺は法式を知らなくても感覚で分かるんだ」
「か、感覚……?」
薫の言う意味が分からずに歩夢は首を傾げた。
感覚で魔法を理解する人なんて聞いたことないし、ましてや新しい魔法を編み出すなんて不可能だと思っていた。
「でも俺には分かるんだ。この法式はこんな感じだとか、この魔法はどうすればいいかが感覚と直感ですべて流れ込んでくる。だから筆記は俺に必要ないんだ」
「そんなこと……」
と、思わず否定しようとしている自分に気付き、歩夢は口を閉じた。
どれだけ否定しようとも薫がそうだと言い張る限り、確たる証拠がない限り意味がないと気づいたからだ。
「ま、細かいことは気にするな。とりあえず勉強始めよう」
薫の言葉を合図に、みんながようやく勉強を開始した。
話し合いの結果、歩夢と結城は詩織に、そして明らかに学力の劣っている薫は桐埜の個別指導ということになった。
さてさて、今日の努力は実を結ぶのか…
来週に続く。
ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ
そして来週。
というかテスト当日。
午前中の筆記試験を済ませたE組の生徒たちは校庭に集まっていた。
「これから実技試験を始める。名前を呼ばれた者は試験対象になっている法式の中から好きなものを選んで実践しろ。じゃあ最初は秋津からだ」
「なぁんか久しぶりに西条先生を見た気がする……」
「うるさい。早くこいッ」
「聞こえてんのかよ……」と薫は呟き、慌てて駆け寄った。
そして試験対象の法式が書かれた紙を眺める。
「秋津君なら絶対A判定もらえるよね」
その後ろで、クラスの女子たちが至極当然のように薫のA判定を予想していた。
だが現実はそんなに甘くない。
薫には分かっていた。
壁式使いなど求められてないことを。
「壁式のニニ、多重守護障壁」
薫は非常に淡白な声で言葉を紡いだ。
ほほ同時に、いくつもの守護障壁が出来上がる。
無駄のない法式の展開。
展開速度も悪くない。むしろかなり速すぎるくらいだろう。
「おお〜ッ」と生徒たちから沸き上がった歓声が、その凄さを物語っていた。
薫はその歓声を聞き届けると、一礼し、その場を後にした。
「期待するなよ、秋津」
その背中に西条が言葉を投げ掛けた。
「お前の凄さは分かっている。だが…」
「分かってますよ」
と、薫は西条の言葉を遮って言った。
「良くてB判定、悪けりゃE判定。そういうことですよね?」
「……すまない」
「なんで先生が謝るんですか。それに俺は気にしてないですよ」
学校は壁式使いを求めていない。
ゆえに壁式使いの評価は自然に下がってしまう。
「それが学校のルールなら従うしかない。それが先生ならなおさら」
「俺も変えなければならないと思ってはいる。だがそう簡単にいかなくてな」
「別に無理に変えなくてもいいんじゃないんですか?」
「なに?」
「今ルールのせいで困っているのは俺と四階くらいですから。だけど学校側も四階を手放すわけにはいかないから自然と変わってくると思いますよ」
「ま、勘ですけどね」と、薫は肩をすくめながら付け足した。
「ふっ……そうかもな」
「じゃあ後ろも混んでるみたいなので」
薫は再び一礼し、結城と歩夢のもとへ向かった。
「いつ見ても見事な展開速度だね」
その途中で、一人の少女が薫に声をかけた。
「発動まで0,2秒か……私もまだまだだなぁ」
「君は、小諸 未央さん……」
「名前覚えてくれてたんだ。嬉しいなぁ」
「いや、まぁ……クラスメイトだからね」
とは言ってもたいして話したこともないし、名前を覚えたのもつい最近だ。
「なんで秋津君ってそんなに法式の展開が速いの?」
「なんでって言われても……練習したからかなぁ」
「練習? まさか魔法の!? すっごーい! 頑張りやさんなんだね」
未央は万歳のポーズをしておおげさに驚いて見せた。
リアクションの大きい子だ。
「私も法式の展開速度には自信があったんだけど、秋津君のおかげで自惚れだったんだって気付けたよ。ま、魔法には自信がないんだけどね」
と言って未央は笑った。
薫も「あはは…」と苦笑混じりではあったが笑って答えた。
「じゃあ北川さんと四階君が待ってるみたいだから、またねッ」
「あ、ああ……」
薫は終始未央のペースに巻き込まれっぱなしで会話を終えた。
結城と歩夢のもとへ戻ると、2人とも不思議そうな顔をして待っていた。
「友達?」
と、歩夢が非常に短く、だが要点をしっかりとおさえて訪ねてきた。
「いや、初めて喋った」
と、薫もそれに短く答える。
「じゃあ今日から友達かもね」
歩夢は薄く微笑みながら薫に言った。
「勘弁してくれ。これ以上、秘密が周りに知られるのはたまったもんじゃない」
だが薫は肩をすくめ、苦笑混じりに答えるのであった。




