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第一章〜後日談〜

この作品はフィクションです。

次の日。


生徒会室に薫と詩織、それから結城に歩夢、楓に刹那、そして汀。さらに生徒会役員である佐慈とエマと透が集まっていた。


他にもネイチャーズとして活動していた生徒が10人ほど集まっていたが、皆がネイチャーズではないのにこの場にいる薫と詩織、それから結城を不思議そうに見つめていた。


「さて、秋津。ネイチャーズの目的については昨日話した通りだが、何か質問はあるか?」

「いえ、特にはないです」


刹那の問いに薫は非常にあっさりとした感じで答えたが、その様子に昨日の出来事を知っているメンバーは目を丸くして驚いた。


少しとはいえ、薫と刹那は昨日の夜に殺し合いをしていたのだ。


それなのにこの2人はどれだけあっさりしているのだろうと。


「今日はその総仕上げを行う。まずネイチャーズが職員室を遅い職員を拘束したという放送を流す。もちろん本当にやる必要はない。それから教室に行き生徒を拘束して校庭に連れ出す。分かったか?」


刹那の説明は非常に簡単なものだったが、事の流れをつかむには十分だった。


それを証明するかのように皆が無言で頷き、肯定の意思を示した。


「よし。次に校庭に生徒を連れ出したあと始めに生徒を1人殺すと宣言して、誰かを無作為に選んでもらう…つもりだったが、こうして来てもらったのだから君にその役目をお願いしたい。どうかな? 東雲 詩織?」

「私……ですか?」

「イヤなのか?」

「私は別に構わないですけど……」


詩織は突然指名されて目を丸くすると、困ったように首を傾げた。


そして横にいる薫をチラッと仰いだ。


その視線に気づいた薫が代わりに口を開く。


「それは真似事なんですよね?」

「ああ、危害は一切加えない」

「じゃあ構いませんよ。好きに使ってください」

「分かった。では続きだ。そのあとネイチャーズが東雲に向かって法式を展開、発動する直前で3年生が助けに入る。まあ3年生は上級生だからな、格好いい場面をあげないとかわいそうだろ?」


刹那の言葉を聞き、なるほどな。と薫は納得した。


3年生が校外学習に出たのはこの場面を与えるためだったのか、と。


「よし。じゃああとは開始の合図を待っていてくれ。では、解散ッ!」


その言葉を合図に、生徒会室に集まった生徒はぞろぞろと出ていった。


しばらく経つと生徒会室には生徒会役員と薫と詩織だけになっていた。


「帰らないの、薫ちゃん?」


不思議に思った詩織は少し遠慮しながらも声をかけた。


薫は「ああ」と頷くと、クイッと楓を指差した。


「打ち合わせでもしてこいよ。待っててやるから」

「うん、分かった。行ってくるね」


詩織は素直にそれに従うとペタペタと楓のところに駆けていった。


薫はそれを確認すると、静かに刹那と向かいあった。


「会長、お願いがあるんですが」

「ん、聞こうじゃないか」


さて、どんなお願いが来るのだろうか。と、刹那は少しだけワクワクしながら構えた。


「今から学校を抜けてもいいですか?」

「はぁ?」


まったく予想もしていなかったお願いに刹那は思わずすっとんきょうな声をだしていた。


「ちょっと行きたいところがあるんですよ。お願いします」

「お前…生徒の模範であるべき私がそれを許すとでも思っているのか?」

「ええ、思ってますよ」

「はぁ……いったい何の用事だ。それは明日じゃダメなのか?」


刹那の問いに、薫は首を横に振って答えた。


「明日行くと詩織がついてきますから」

「ついてきたらダメなのか?」

「ダメなこともあるんですよ」


ふむ。と、刹那は唸った。


あの薫が詩織をつれて行きたくないところがあるとは思えない。


まさか女のところか?と思ったりもしたが薫に限ってそれはないだろう。


じゃあどこに行く?


刹那は悩んだがその答えたが出ることはなかった。


「分かった。特別に許可しよう」

「ありがとうございます」

「お前にはいろいろと世話になっているからな、その礼だ」


刹那は机の引き出しを開け、中から1枚の書類を取り出した。


「これは生徒会の外出許可書だ。警備員に見せれば出してくれる」

「分かりました。それじゃあ詩織のことお願いします」

「ああ。悪いようにはしないさ」


薫と刹那は顔を見合わせて笑うと、その手に書類を受け取った。


「薫ちゃん!」


ちょうどそのとき、楓との打ち合わせを終えた詩織が戻ってきた。


「終わったのか?」

「うん。ん、なにそれ?」

「ああ、生徒会への入会届けかな」


薫はなんとか誤魔化しながら、外出許可書を素早く折り畳み、ポケットに突っ込んだ。


「うに? 薫ちゃん生徒会に入るの?」

「まさか。紙をもらっただけだよ」

「ああ、そうだ。おい、秋津。言い忘れていたことがあった」


そのとき、後ろから刹那が声をかけてきた。


ニヤニヤと何やら意味深な笑みを浮かべた刹那は、ゆっくりとその口を開いた。


「生徒会への入会届けは絶対提出っていうルールになっているからな」

「…え?」


と、呟いて薫は固まった。


「今なら返却できるが一歩でも生徒会室から出ればそれも出来なくなる。それだけは分かってくれ」


クルッと刹那は薫に背を向けながらそう言った。


その顔には意地の悪い笑みが浮かんでいるのだった。




≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡




「外出? 今からか?」

「はい。生徒会の以来で」


薫はポケットから刹那にもらった許可書を取りだし、警備員へと差し出した。


警備員が一瞬だけ不可解そうな顔をしたので、薫は言葉を紡いだ。


「なんなら会長に確認してもらってもいいですよ?」


薫の自信満々といった態度に警備員は渋々ではあったが通行を許可してくれた。


まあなんと言うか、生徒会の権力に感謝といったところだ。


学校はすでに授業が始まっているところなので、詩織にバレる心配もないだろう。


そうでなくても後一時間しないうちにネイチャーズが動き出す。


そうなれば薫を探している暇などなくなるはずだ。


「詩織には悪いけど…たまには1人も悪くない」


薫はポツリと呟くと、タクシーをつかまえ、最寄りの駅を目指した。


タクシーなんて古風なものを、と周りの人には笑われるかもしれない。


だがインフラの整備がさらに進んだ現代においても、好きなところにピンポイントで向かえるタクシーの需要は、まだ存在しているのだった。


10分ほどタクシーに乗っていると、目的の駅へとつき、タクシーを降車した薫はそのまま改札をスルーした。


最近では新幹線すらリニアトレインへと姿を代えてはいるものの、ローカル線の電車は相変わらずといったところだ。


変わったことがあるとすれば動力となる電気が、バベルの塔から供給されていることぐらいだ。


「まったく、電力会社はたまったもんじゃないな」


と、誰のためになるのかも分からない愚痴を言っていると、ホームにアナウンスが鳴り響き、電車が入ってきた。


プシューッという特有のドアの開閉音が聞こえ、電車はゆっくりと動き出す。


この電車独特の音が薫は好きだった。


何故かと言われても理由は答えられないが、なんとなく好きだった。


小さい頃はこの音を聞いていたいがために、最寄り駅の切符で終点まで乗っていたこともあったっけ。


確かあのあと、改札で駅員さんに捕まって、帰りの電車にも乗せてもらったんだったなぁ。


迎えに来てくれた親にたんまり怒られたのは今でもしっかりと覚えている。


「懐かしいなぁ…そういえば詩織も一緒だったよなぁ」


と、昔の思い出に浸っていると電車は目的の駅へとついた。


改札をくぐりホームを抜けると目の前に青い海が広がっている。


日の光をうけキラキラと輝く水面には海鳥たちが気持ち良さそうにプカプカと浮かんでいる。


久しぶりにこの街にもやって来たが、景色がまったく変わっていない。


それはとても素晴らしいことなのかもしれない。


だが、薫の心にはチクチクと刺すような痛みを与えるのだった。


「ま、風情があるってことにしといてやるか」


薫はしばらくその変わらない景色を眺めたあと、目的地に向かって歩き始めた。


それほど発展していない街並みを通り抜け、少し歩くとたくさんのお墓が見えてくる。


そのうちの1つ、いたって普通のお墓の前で薫は立ち止まった。


墓石にはそのお墓が誰のものであるのかを表す家名が刻まれていた。


“秋津家ノ墓”


墓石にはそう刻まれている。


「久しぶりだね、父さん……母さん……」


そう。このお墓には薫の両親、それに先祖が眠っているのだ。


「1年ぶりかな……ずっと来れなかったから、今日はキレイにして帰るよ」


薫は箒を取りだしお墓の周囲をキレイに掃除する。


そして水を汲んでくると、それを墓石にかけ洗い流した。


時間にして10分ほどだったが、薫は一切話すことなくただ黙々と作業を続けた。


「よし、こんなもんかな」


来たときとは見違えるほど綺麗になったお墓を眺め、薫は満足そうに言った。


「と、こんなことをしに来たんしゃなかったっけ。父さん、母さん。今日は報告があります」


薫はお墓の前に屈みこむと、静かに語り出した。


「実は、四院家とケンカしちゃいました。最初はそんなことなかったんだよ。俺も仲良くやろうと思ってたんだけど、裏切られたって言うのかな。まぁそれも俺が何も知らなかったせいなんだけど、それでついカッとなっちゃって……」


と、そこで薫は言葉を切った。


薫は何かあるたびにこうして両親のもとを訪れて報告している。


だからきっと、あの事故が四院家によって引き起こされたものだと知っているだろう。


だが、何も語ることのできない死人に話をして何になるのだろう。と、薫は悩んでいた。


「炎式まで使っちゃったよ。詩織には怒られなかったけど後悔してる。それに、きっと父さんと母さんは怒ってるよな。あれほど他人を傷付けるなって言われてたのに、これじゃあ意味がないよなぁ」


そして薫は空を仰いだ。


そういえば、何であのとき俺は怒っていたんだろう。


本当に父さんと母さんのためなのか?と、薫は自分に問いかける。


「違う……そんなのただの言い訳だ。俺は……」


俺は…2人のために戦ったんじゃない。


「俺は、守りたかったんだ。もうこの世にいない父さんと母さんのためにじゃなく、今を生きる人のために……」


死人のために戦っても何も生まれない。


誰も誉めてはくれない。


「ダメだと思ったんだ。この世界じゃ幸せになんて生きれない、過酷な未来しかない。あいつの……結菜の生きる未来のために……」


そこまで言って薫は立ち上がった。


その目には、過去なんて写っていなかった。


「俺は守る。詩織を……結菜の生きる未来を、たとえ間違っているとしても」


しっかりと、両親の墓前で薫は誓いをたてた。


それはとても過酷なものであり、同時に幸せを求める無垢な誓いでもあった。


「何が結菜の生きる未来を守るよ……パパとママを殺した女の犬のくせに…」


その後ろ姿を、1人の少女が憎々しそうに睨み付けているのだった。




第一章 Complete


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