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第一章〜真相〜

この作品はフィクションです。

「なんで……なんで2人が…」


薫はたった今まで死闘を繰り広げていた相手が自分の知り合いだと分かり、呆然としていた。


対する歩夢と楓は下唇を噛み締めるような表情で薫を見つめた。


「ずっと……騙してたのか、北川?」


だが、歩夢は答えない。


「俺を殺すために生徒会に入れようとしたのか、楓さん?」


そして楓も答えない。


否、2人とも答えないのではない。答えられないのだ。


薫は2人が何をされても答えないことを悟り、後ろを向いた。


そうだ、こいつもだ。


こいつも2人の仲間ならきっと俺の知り合いだ。


結城は男だからありえない。詩織はもっとありえない。


ならキリノか?


いや、あいつはさっきまで俺と一緒にいたから違う。


「まさか……先輩?」

「バレたなら……仕方ないよね」


残ったピエロ仮面がそう言いながら仮面を外すと、そこには薫の予想通りの顔があった。


「あなたも俺が狙いだったんですか?」

「さあ? どうかしら?」


汀のどこか小馬鹿にしたような態度に、ついに薫がキレた。


「ふざけるなよ……何が先輩だ…何が友人だ…何が……四院家だッ!!」


薫は怒声を上げると一目散に楓に向かって突進した。


「楓さんッ!!」


プロテクショナーとしての使命感が歩夢を動かしたのだろう。楓の目の前に立ち、その行く手を阻んだ。


だが薫のスピードはなおも落ちない。それどころかさらに速度を増していた。


「は、速いッ!?」

「邪魔を! するなッ!!」


薫は速度に対応しきれていない歩夢の顔面に拳を撃ち込んだ。


いつもの薫なら決して狙わない場所でもあり、知り合いを攻撃するのに少なからず手加減もしていた。


だが今の薫はそんな考えなど一切ない。ただ目の前の敵を排除する。それだけだ。


歩夢は薫の一撃を喰らい、勢いよく吹き飛び、そして悟る。


先ほどまでの薫とは一撃の重さが違う。この薫こそ、本気を出したときの力なのだということを。


「L―2!?」

「逃げてください、楓様!」


なんの前触れもなく、とつぜん歩夢に名前を呼ばれて楓は固まった。


いつもの歩夢なら、楓のことは三呉さんと呼ぶはず。


それが名前に様までつけて呼んだということは、今の歩夢は四院家を守るための存在、プロテクショナーとして発言しているということになる。


「こちらが不利です。退却を!!」

「くっ…」


歩夢の言葉を聞き、楓は思わず下唇を噛み締めた。


こちらは3人がかりで薫と戦った。


ましてやプロテクショナーと四院家の人間まで動員しているにも関わらず撤退するなど、四院家としてのプライドが許さなかった。


だがしかし、今は歩夢の言葉に従うしかない。


もしここで楓が死ぬことはなくても大怪我でもしたならば、歩夢は楓のプロテクショナーではないが、その資質を疑われてしまう。


それはあまりにも可哀想だ。


「ごめんなさい……それからありがとう」


楓は覚悟を決めると、踵を返して撤退を開始した。


その背中に―――


「そうやって切り捨てるのか…あんたは」


薫が言葉をぶつけた。


「…え?」

「自分が生きるためなら他人すら犠牲にするんだな。それが四院家のやり方かよ」

「な、何を……」

「関係ない人まで巻き込んで、しかも殺して…。それでも何も感じないのか? 人として間違っているとは思わないのか!?」


薫は怒鳴り声をあげながらも、細く冷たい瞳で楓を見つめた。


「秋津君! それは違う!!」


薫が何を言おうとしているのか悟った歩夢が、慌てて止めようと声をあげた。


だが薫は止めない。というより歩夢の声が届いていない。


「また殺すのかよ!? あの脱線事故のように……俺の、父さんや母さんのように!!」


そして動き出す。


「待って秋津君!」


そこに再び歩夢が立ちふさがった。


「それは勘違いよ! あの事故に三呉家は関わってないの!」

「そんなこと俺の知ったことじゃない!」


薫は叫びながらクリスタルソードを凪ぎ払う。歩夢はその一撃をかろうじて回避し、法式を展開していく。


「水式の二三、水牢!」


歩夢のマポレツールに水色の粒子が煌めき、粘着力のある水を吐き出す。


これに捕まるとしばらくの間は行動がかなり制限されてしまう支援に特化した水式ならではの魔法だ。


だが薫はそれを回避するどころかクリスタルソードで切り裂いた。


クリスタルソードはクリスタルの能力をそのまま剣の形状に変換させた派生魔法。


その刀身からは常に高濃度魔力が放出されているのだ。


つまり―――


「水牢が消された!? 私が知らない魔法、あれはいったい何なの!?」


プロテクショナーである歩夢はいかなる魔法使いが敵になってもいいようにある程度の法式を記憶している。


だがあんな壁式魔法が存在しているなど見たこともないし、もちろん聞いたことすらない。


まさか新魔法!? あれが楓様が言っていた彼の本当の力なの!?


だとしたら本当に楓様が危ない。彼は本気で楓様を殺す気なのだから。


「待って! あの事故を引き起こしたのは二潟家よ! 他の四院家は本当に関わってないの!」

「違う! あれは四院家の権力争いで生じた軋轢が原因だ! 罪は四院家にあるッ」

「だからって他の四院家を恨むのは間違ってる! それはあなたのエゴよッ!」

「俺のエゴでなど……あるものかッ!!」


薫の叫び声に感化されたかのように、白刃が月光をうけて煌めき、その太刀筋を魅せる。


歩夢はその斬撃を回避しウォーターライフルを放つが、やはり守護障壁によって防がれてしまう。


「強すぎる……」


歩夢は思わず本音を漏らしていた。


プロテクショナーとしていろんな魔法使いと戦ってきたが、恐らく今まで戦ったことのないほどの強敵だ。


負けるかもしれない。


歩夢の脳裏にはそんな思いが浮かび上がっていた。


「殺人を犯したやつの家族が被害者一族に恨まれるように、テロを起こした組織そのものが恨まれるように、二潟家の罪で四院家全てが恨まれるのは当たり前だッ!!」

「そ、そんなこと…!?」

「それが、人間だッ。人間の心理だッ!!」


刹那、クリスタルソードを持っていない薫の左手が煌めいた。


間髪入れずにクリスタルが現れ、歩夢に向かって伸びてくる。


もちろん歩夢にそれを防ぐ術はない。


クリスタルはそのまま歩夢の腹に命中し、その体を吹き飛ばした。


「そしてこれが…世界の答えだッ!!」


薫は地面に倒れこんだ歩夢に接近し剣を振りかぶった。


「じゃあ何で…私や結城と仲良くしてくれたの?」


そしてピタリと止まった。


「そんなに四院家を恨んでるならどうして私たちと仲良くしてたの? この学校に入学したときにどうして突き放さなかったのよ! 秋津君だって私たちを騙してたんじゃない! 裏切ってたのは秋津君も一緒よ!!」

「……ふざけるな」


ふいに薫の手からクリスタルソードが消え失せ、歩夢の胸ぐらを掴んだ。


「俺はッ、信じたんだよ!あの事故は二潟家が勝手にやったことだ、こいつらは違うってな!!」


その言葉に、歩夢は金槌で頭を殴られたかのような衝撃を覚えた。


薫は信じていたのだ。


歩夢は違う、結城は違う。刹那や楓にしたってそうだ。


こいつらは二潟家とは違うと。


だが裏切られた。結局、四院家はどこまでいこうと四院家なのだ。


薫の中に絶望が広がり、それは憎悪へと変わった。


「だからさぁ……」


歩夢は自分の死を確信し、瞳を閉じた。


もう抵抗はしない。その権利が私にはないのだから。


「楽には殺さねぇぞ……四院家の犬が…」


薫は酷く冷たい声でそう言うと、法式を展開した。


同時に赤い光の粒子が煌めく。


「炎式の二九、ディアブロ…」


発動と同時に薫の腕に纏わりつくように炎の蛇が現れた。


「噛み殺せよ、ディアブロッ!!」


それは毒牙を歩夢へと剥きながら突き進む。


炎の蛇、ディアブロは対象に一度噛みつくと燃やし尽くすまで離さない死の蛇とも呼ばれている魔法だ。


それを歩夢に向けて使うということがどういう意味なのか、憎悪に支配されている今の薫にはそんなことを考えている余裕などなかった。


「風式の二七、パイルトルネードッ!!」


そんな薫に向けて、竜巻が迫っていた。


薫は慌てて多重守護障壁を展開し、なんとかその攻撃を凌ぐ。


「歩夢ッ!!」


だがそのわずかな隙をついて金色に輝く何者かが、薫の足元から歩夢を救出した。


「お前らはッ!」


その姿を確認して薫はさらに顔をしかめた。


「四階……それに会長…」

「何とか間に合ったみたいだな。朝以来か、秋津 薫」


刹那はシニカルに微笑むと、薫に向かってそう言った。


その背後で刹那に護られるようにして、結城が歩夢を抱き抱えていた。


「大丈夫か、歩夢?」

「ゆ、結城!? 何でここに!?」

「俺にも分からねぇ。ただ会長についてこいとだけ言われて来てみたらこれだ。いったい何があった?」

「それは……」


ダメだ。結城にはまだ言えない。


次期当主として正式な継承をまだ受けていない結城は、あの脱線事故の真相をしらない。


「あいつが、悪いのか?」


結城は答えない歩夢に業を煮やし、つい荒い口調になった。


「あいつが悪いんだな?」

「ち、違うの!秋津君は」

「あいつが歩夢をッ!!」


結城はすでに歩夢の声が届いていない。


それほどまでに怒っていた。


「雷式の二四、武装勇伝ッ!!」


発動と同時に結城の体を金色の光が包み込む。アップデートよりもさらなる肉体強化の効果があるこの魔法は結城に使える最高の魔法だ。


だがその力ゆえに魔力の消費量が多く、短時間しかもたない。


短期決戦用の魔法だ。


「秋津 薫ッ!!」

「……四階か」


薫は怒り狂った結城の一撃を軽々と回避すると、その腹を蹴り飛ばした。


「ぐッ!!」


今のスピードに対応してきた!? 何てやつだ……だが、


「その力が歩夢を傷付けたぁぁぁぁぁ!!」


結城は雄叫びを上げ、さらにスピードも上げる。


最早常人じゃついてこれないほどの速度で薫の背後に回り込むと、その拳を振るった。


「四階……いくら四院家とはいえお前程度で俺に勝てるわけないだろう!!」


だが薫は唸りを上げて撃ち込まれる拳をまたしても回避し、逆に結城に向かって手のひらをかざした。


「炎式の二十、ブレイクロック」


赤い光の粒子が煌めくとそれは炎の爆弾へと姿をかえ、結城の体に纏わりついた。


「炎式魔法!? なんでお前さんが炎式魔法を使えんだよッ!!」

「それは、お前たちのせいだ!!」


パチン、と薫の指が鳴り響くと同時に、ブレイクロックが破裂した。


威力が低いとはいえ爆弾が至近距離で爆発したのだ。


いかに肉体強化を施しているとはいえ無傷とはいかない。


「ぐッ……うぅ」


それでも、結城が気絶することはなかった。


「お前さんが炎式魔法を使えるのが俺たちのせい……?そいつぁいったいどういうことだ!?」

「そのままの意味だ、四階。秋津の両親を殺し、彼に吸収の魔力を与えたあの脱線事故を起こしたのは四院家なのだ」

「せ、刹那さん……」


刹那はフラフラになった結城に代わって薫と対峙した。


だがどこかおかしい。法式を展開する素振りが見当たらない。


「秋津……」

「何か?」


薫は酷く冷めた声で返事をした。尊敬の念などすでに欠片も残っていない。


「9年前の新横浜脱線事故、あれは間違いなく私達四院家が原因で起きたものだ」


ドクン、と刹那の言葉に薫の心臓が跳ねた。


「醜い権力争いだった…今でこそ対等な関係となった四院家だが、昔は違った」

「あんたは…何を言って……」

「当時の二潟家は四院家の中でも格段に発言力が低かった。まるで会社の一社員が社長に発言するくらいにな。だからこそ反発があった。今の四院家はおかしいと、何のための四院家なのだと。今になって思う、やり方は間違っていたが二潟家が正しかったのだと」


刹那の言葉に薫は耳を疑った。


それは薫だけでなくその場にいた全員が同じ様だった。


刹那の口から語られる内容は楓と結城にとって初めて聞かされるもの、というより今まで散々四院家によって否定され続けていたことなのだ。


ゆえに2人は言葉を失った。


刹那が語る内容が真実ならば、薫の両親を殺したのは……。


「本当に申し訳なく思う。君の両親に……犠牲になった人々に」

「か、会長……」


刹那の思わぬ謝罪に薫はどう反応すればいいのか分からなくなっていた。


だが慌てて首をブンブン振った。


「違う……」


薫は謝罪が聞きたかったんじゃない。


謝ってほしかったんじゃない。


「俺は…復讐を…恨みを……」

「秋津…復讐は何も産み出さない。虚しくなるだけだ」

「ッ!!」


薫は言葉を失った。


それは刹那に諭されたからではなく、そんな当たり前のことを改めて言われたからである。


そう、薫は分かっているのだ。


復讐が何も産み出さないことぐらい。


だから信じた。


この学校で出会った四院家を。


そして――――


「裏切られた……この気持ちは、どこにぶつけろって言うんだよ…」

「その話だが、私たちはお前を裏切ってない」

「そんな嘘、いったい誰が……」

「嘘ではない。そもそもネイチャーズなんてテロ組織は存在しない。いや、この学校にしかいないと言った方が正しい」


薫は刹那の言う意味が理解できずに首を傾げた。


刹那はそんな薫を満足そうに眺めると言葉を繋げた。


「今、世界で魔法使いがどういう扱いを受けているのかは知っているな?」

「ええ、まあ……それが?」

「ネイチャーズはまだ世界を知らない若者にその意味を教える役割を担っている。一歩間違えるとテロリストになり、一般人から嫌われる存在でもあり、そして魔法がテロ行為にも繋がるものであると認識してもらうためにな」

「それがネイチャーズだと?」

「そうだ。私たちはそれを分かりやすく伝えるために、学校ぐるみでネイチャーズを組織した。つまりテロリストの真似事だ。ネイチャーズは毎年この時期に活動し、新入生に対して教育を行っている。そのために3年生は校外に出て、2年生に後を託しているのだ」

「学校ぐるみの組織……毎年行っている……なるほど、だから先輩たちは大して気にした様子もなかったのか」


薫の呟きともとれる発言に刹那は頷いて答えた。


「本当なら秋津が生徒会に入ったときに説明するつもりだったのだが、断られたのでな。どうしようか悩んでいた」

「なるほど……これが生徒会の隠していた秘密ですか。確かに外に情報が漏れたらやる意味がなくなりますからね」

「信じてくれたか?」


刹那の問いに、薫は無言の返答をした。


それは肯定でもなく否定でもない。


「現状維持か……まあいいさ、もう少ししてから判断してもらっても私は全く構わない。それで信じてもらえるならな」

「そうですね……。まあ、また裏切られたら今度こそ殺してしまうかもしれませんけどね」


その言葉に、刹那はフッと笑みを浮かべた。


「炎式魔法か。やはり使えたのだな」

「ええ。本当はずっと使わないつもりだったんですけど」

「炎式魔法はどこまで使えるんだ?」

「さあ、どこまででしょうね?」


薫はどこかバカにしたように答えたが、刹那は特に気にする様子もなく飄々としていた。


本来なら怒っていたかもしれない。


でも分かる。


人には言いたくないことだってあるのだから。


「お前さん……」


突然無言になった刹那に代わって、今度は結城が薫に声をかけた。


その背後には歩夢と楓、それから刹那を呼びに姿を眩ませていた汀がいた。


「その、すまなかった。お前さんの親のこと……」

「いいさ、四階。気にするな」


薫は優しく結城に返事をした。


「で、でもよッ、知らなかったじゃすまされねぇことぐらい俺にも分かる!どう考えたって俺たちが悪いってことぐらい」

「だったら今のすまないで許すよ。いや、もう一度信じる。お前たち四院家をな」

「お前さん……」

「ご、ごめんなさ〜いッ!!」


そのとき、薫の胸にいきなり楓がタックルをしかけてきた。


「な、何が!?」


薫は突然の出来事に戸惑いながらも、なんとか返事をした。


「ごめんなさいなのね。私、何にも知らなくて、あんたの両親のこととか、事故のこととか……」

「いいって。楓さんは次期当主ってわけじゃないんだし、知らされてないことぐらいあってもおかしくないよ」

「じゃあ聞きます。炎式魔法が使えるのを黙っていたのは何故!?」

「切り替え早いなオイッ!!」


それでもキラキラと目を輝かせながら見つめてくる楓に、薫はため息をついて答えた。


「詩織と約束したんだ。炎式は出来るだけ使わないって」

「出来るだけ?」

「あー……出来るだけっていうか、なんと言うか……」


まさか詩織を守るときしか使わないなんて気持ちの悪いセリフを言えるほどの度胸なんて、薫にはないのであった。


「わけありなのねッ!」

「妙なところは鋭いんだな……」


半ば呆れながら言った薫だったが、思うことが1つあった。


それはさっきまで薫を支配していた復讐や恨みではなく、純粋な心からの気持ち。


もう一度、四院家を信じてみよう。


という新たな気持ちだった。




≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡




「炎式魔法の匂いがする」


自室へと戻った薫に、その帰りを待ち続けていた詩織が最初に放った言葉がそれだった。


「な、何言ってんだよ。そんなこと……」

「焦げた臭いがする。魔力の痕跡もある。これは……ディアブロだね」


鋭すぎだった。


っていうか、魔力の痕跡はあるかもしれないけど、臭いとそれだけで判断するなんて不可能だろ。


「何があったの?」


薫は一瞬だけ素直に答えるか迷ったが、結局ありのまま答えることにした。


たとえ詩織に嘘を言ったとしてもそれは通用しない。


薫の嘘を詩織が見抜けないはずがないのだから。


「実は……」


薫は先ほどの出来事をありのまま詩織に話した。


ネイチャーズの真意に炎式魔法を使ったこと。


それから―――


「そっか……使っちゃったんだね、でも家族の敵がそこにいたなら仕方ないよね」


四院家が真実を認めたことを。


「ごめん、詩織……」


もちろん詩織はあの事故が四院家によって起きた出来事だと知っている。


というより、詩織の力を借りて調べたのだから。


「なんで謝るの? 謝るのは私だよ。私のせいで薫ちゃんの両親は……」

「それは違うッ」


薫は慌てて否定の言葉を口にした。


それは違うのだと。


「俺の両親が死んだのは詩織のせいじゃないよ」

「薫ちゃんは優しいね。私を責めたことなんて1度もないもの」

「それは本当に詩織のせいじゃないからだ。絶対に、詩織のせいじゃない」

「優しい……優しすぎるよ薫ちゃん」

「本当に優しいのは詩織だ。詩織はあんなに小さかったのに分かっていたんだろ?俺の両親の関係が冷えきっていたことに」


あの頃の秋津家の関係はかなり冷めきっていた。それもかなりだ。


両親の仲が悪かったわけじゃない。


むしろ良すぎるくらいだった。


それがいつ頃かを境にして急激に悪くなりだしたのだ。


幼かった薫が気付かなかったのも無理はない。だけど詩織は気づいた、気付いてしまった。


そうなれば薫のために詩織が動かないはずがない。


その結果の旅行だったのだ。


そして、あの脱線事故が起きた。


「もし詩織が誘ってくれなくても、俺の両親は何らかの事故で死んでいたはずだ。そうでなくても離婚はしていたと思う。そういうのは絶対に変わることがない、絶対的な世界の流れみたいなものが俺はあると思うんだ」

「薫ちゃん…」

「だから詩織が気に病むことなんてないし、そんなことで遠慮もしてほしくない。詩織には笑顔が似合うから……って何かクサイこと言ってんなぁ、俺」


薫は自分が言ったあまりにもクサイ台詞を思い返し赤面した。


こういうのは苦手だ……会長ならサラッと言いそうだけど。


「まあようするに何でも言っていいってことだ」

「ホントに?」

「ホントに」

「ウソじゃない?」

「ウソじゃない」

「何でも言うこと聞いてくれるの?」

「何でも言うこと聞いやるよ……ん?」


ちょっと待てよ。


今なんか詩織の都合のいいように言葉が変わってなかったか?


「詩織、今のはやっぱり……」

「じゃあ一緒にお風呂に入ろうね、薫ちゃん」

「あ、お前ってやつは人の優しさを逆手にとりやがったな! ナシだッ。今のはナシ!!」

「ダメだよ薫ちゃん。男に二言はないんだから」


詩織は逃げ出そうとする薫の服を掴むと、女のものとは思えない力で風呂場に向かって引っ張った。


「詩織! 頼むッ、許してッ!! ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


人の話は最後までしっかり聞いてから返事をしよう。


この日、薫はさらに新たな教訓を身につけたのだった。

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