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第一章〜三渚 汀〜

この作品はフィクションです。

時間というものは誰にでも平等に与えられるものである。


誰がどれだけ足掻こうとも、1日は24時間しかない。それはどの国でも変わることはない絶対的なこと。


だが人間はその24時間を平等に使えているわけではない。


有効に過ごしている者もいれば、無駄に過ごしている者もいる。


それこそ不平等だ。


人間が24時ずっと集中出来るわけがないのだからそれは仕方がないことなのかもしれない。


だがやはり納得はできない。


まぁつまり何が言いたいのかというと。


「俺が美化委員? ウソだろ?」

「誰がそんなウソをつかなきゃなんないんだ。残念だけどマジだぜ、お前さん」


一体いつ俺が美化委員になったのだ? ということだ。


ちなみに今は放課後。帰宅しようとしているところだ。


「一週間前に決めたじゃねぇか。覚えてないのか?」

「一週間前……」


一週間前といえば模擬戦があった日だ。


それからはネイチャーズのことを調べることに夢中で何があったのかよく覚えていない。


それにあれ以来、ネイチャーズが姿を見せていないことが気にかかる。


何か目的があるのかそれとも準備が整わないのか……。


とりあえずネイチャーズのせいでクラスの話し合いなんてまともに参加していなかった。そのつけがこれか……。


「ったく……で、美化委員って何をすればいいんだ?」

「さぁ? とりあえず行ってみればわかるんじゃないか?」

「うーん、それもそうだな。じゃあ詩織に会ったらよろしく頼むよ」

「了解。じゃあ頑張ってこいよ」


薫はニヤニヤとバカにしたように笑う結城を一瞥すると、美化委員の集合場所になっている中庭へと向かった。


すでに他の美化委員は集まっており、どうやら薫が最後の1人だったらしく、先輩たちから少し睨まれた気がしたが、あえて無視することにした。


美化委員の仕事は各クラスに与えられた花壇の雑草をむしるという至極簡単なものだった。


説明を聞き終えた薫が1年E組の花壇へと向かうとそこは悲惨なものだった。


荒れ果てた花壇には花が1輪も咲いておらず、代わりと言ってはなんだが雑草がところ狭しと生え乱れていた。


「これ絶対に手入れをサボってたよなぁ……。恨むぜ先輩…」

「ごめんなさい……って言いたいところだけど、そうじゃないのよね」


思わず花壇を見た感想を漏らしていた薫に、突然後ろから声がかけられた。


「毎年終業式のあとは花壇が放置されちゃうから雑草だらけになるのよ。ほら、ここだけじゃなくて他の花壇も雑草しか生えてないでしょ?」


言われるがまま辺りを見渡すと確かに他の花壇も雑草だらけにだった。


「ホントだ……」

「分かったかな、後輩君?」


その女子生徒はニコッと微笑みながら言った。


後輩君と呼ばれたところから察するに、この女子生徒はどうやら先輩みたいだ。


だがどうしてここにいるのだろう?


まさか手伝ってくれるわけもないし…。


「君、秋津 薫君だよね?」


「さて何の用だろう?」と悩んでいる薫に女子生徒は確認の意味を込めて質問した。


「ええ、そうですけど。何で」

「キャーッ!! やっぱりーッ!!」


「知ってるんですか?」という薫の言葉は女子生徒の突然の抱擁によって遮られた。


ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる女子生徒に薫は唖然として動けなかった。


っていうか胸! 胸があたってんだよ!!


「ちょっ! 何々? いきなり何ですか!?」

「後ろ姿を見たときにそうじゃないかなぁって思ってたのよ! ずっと会いたかったんだからね!」

「知りませんよそんなこと! いいから離してください」

「イヤよ! 離せって言われて離す人なんているわけないじゃない」


それはそうなんだけど……仮にも俺は男で、しかもここは他の美化委員もいる屋外なわけでいろいろと不味いことが……。


「って違う! いいから離して!」


薫は女子生徒の腕を掴み、無理矢理その拘束を解いてなんとか胸から逃げ出した。


だが思わね至福の一時にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ満足した薫であった。


「っと、詩織は見てないよな……危ない危ない、あいつに見られたら何を言われるか分からんからな」

「ちょっとー、私のことを無視しないでよぉ」


女子生徒は頬を可愛らしくプクッと膨らませながら愚痴を言った。


はぁ……まためんどくさい奴につかまったなぁ…


「あなた、どちらさん? っていうか初対面ですよね?」

「ピンポーン! あなたと私は初対面。よろしくね薫君」


薫君ねぇ……


まあ先輩だから文句は言わないけどせめて抱擁だけはやめてほしかったなぁ。


「ところで薫君、もちろん私のことは知ってるよね!」

「…もちろん!」

「知ってるよね?」

「……少しだけ?」

「知ってるよね!?」

「………すいません、知りません」


いや、そこで悲しそうな顔をされても困るんだよ。


っていうか入学してから1ヶ月しか経ってないのに先輩のことまで知ってるわけないだろうが。


「私、これでも結構人気あるのになぁ。自信なくしちゃった…」

「あー…、それはすいません。でも俺、入学してからいろいろと厄介事に巻き込まれてたんで余裕がなかったんですよ」

「知ってるわ! 特にあの模擬戦! 私すっごくドキドキしたもの! 薫君ってE組なのにとっても強いのね」


E組なのには余計だ。


「はぁ…まあいいや。それで、あなたは誰なんですか?」

「私は2年C組の三渚 汀よ。改めてよろしく!」


C組かぁ……なんか中途半端だな。


「今C組は中途半端って思ったでしょ?」

「ブッ!」


思っていたことを言い当てられた薫は思わず吹き出した。


なんで分かったんだ!? まさか心を読まれたのか!?


「やっぱり。昔からよく言われるんだよね、顔は可愛いのにどうして魔法は中途半端なんだって」

「…そうなんですか」


自分で可愛いのにとか言うなよ


あれか、詩織と同類なのか?


「ま、お互いに聞きたいこともあるだろうし草むしりしながらお話ししましょ」


と言われても薫に聞きたいことはなかったのだが、手伝ってくれるなら断るのは勿体ない。


適当に返事をしておけば満足してくれるだろうし、どうせ大した質問は――


「いきなりだけど薫君て彼女いるの?」


――こないわけがないか。


「何ですかいきなり」

「だって気になるじゃない。あの生徒会長と渡り合うほどの魔法使いのプライベートなんてなかなか聞けるものじゃないわ。ねぇいいでしょ、教えてよ。っていうか教えなさい!」

「まあいいですけど、いませんよ。残念ながら」

「えー! 絶対ウソだぁ!」

「すいません、期待にこたえられなくて。そういう先輩こそどうなんですか?」

「私もいないわよ。だって彼氏なんてつくったら高嶺の花としての価値が下がりそうでしょ?」


なかなか計算高い女だった。


しかし計算高いのは結構なことだが、こういう場面でそれを発揮するのはどうかと思う。


まあ俺の知ったことじゃないが。


「そっかぁ。薫君は彼女いないんだぁ。じゃあさ、私なんてどうかな?」


そして何を言ってるんだこいつは。


「だってさぁ、高嶺の花に謎のE組男子。すっごい魅力的な組み合わせだと思わない? 私的にはベストな組み合わせだと思うの。学校中の興味を集められるはずよ」

「なるほど。先輩は有名人になりたいわけですか」

「うーん……そう言われると何か違う気がするんだけどまあいいわ。そういうことにしてあげる」


本当に厄介な人につかまったなぁ。


薫はかるーく愚痴をこぼしながらも、さっさとこの状況から抜け出したいがために必死に草むしりを続けた。


っていうか、この花壇には今は花を植えてないんだよな? 雑草しかないなら燃やしちゃっていいんじゃないか?


「こら! 手が止まってるぞ!」

「……あの、この花壇って今は雑草しかないんですよね?」

「ん、そうだけど?」

「じゃあ燃やしちゃっても問題ないんですよね?」

「そう言われてみればそうね、問題はないわ。だけどどうやって燃やすの? ここにはライターなんてないし……まさか魔法!? あ、いや薫君は壁式使いだからそれも有り得ないかぁ……」


薫は隣でぶつぶつと呟いている汀を無視しながら、花壇に向けて手を翳した。


「何するの?」

「魔力で燃やすんですよ。魔法の無断使用は禁止ですけど魔力は禁止されてないですからね」


口ではそう言っても薫はすでに2回も魔法の無断使用をしているので今更な話ではあった。


でも校則なんてただの飾り。バレなきゃ問題なんて1つもないからね。


薫はしっかりと自分に言い訳をしながら吸収の魔力を放出した。


赤い光の粒子は灼熱の炎へとその姿を変え、花壇に生え乱れた雑草を一瞬にして焼き消した。


ふむ。我ながら上出来だ。


薫は雑草1つ残さず焼き消す自分の技量に称賛の声を上げた。


「な、何で魔力を二種類持ってるの!?」


その横で汀は驚嘆の声を上げていた。


「ねえ! 何で!?」

「まあ昔いろいろあったんですよ」


悲しい身の上話は確実にネタにされる。


そう判断した薫はあえてはぐらかすように言った。


「やっぱり薫君ってすごいんだね! これはみんなに教えてあげないといけないね!!」

それでもネタにされる薫であった。


魔力を二種類持っていることをしつこく聞きまくってくる汀をなんとか振り切った薫は、体も心もクタクタになりながらなんとか寮へと戻ってきた。


「あ、おかえり薫ちゃん」


そこにさらなる試練が待っていた。


自室へと入った薫が最初に目にしたのはエプロン姿の詩織だった。


どうやら晩御飯を作っていたらしい。すでに嫁さんにでもなったつもりみたいだ。


ここまではいい。


ここからが問題だった。


「やっほーなのね」

「なんで楓さんがここにいるんだよ」


何故かは知らないが薫の部屋に楓がいた。さらに結城に歩夢、それから桐埜まで。


「オールスターじゃねぇか……」

「何のこと?」

「いや、何でもない」


薫は首を傾げる詩織の頭を優しく撫でてあげ、みんなのいるリビングに座った。


「意外と早かったなお前さん。草むしりならもう少しかかるかと思ってたんだが」

「知ってたのかよ…雑草なら吸収の魔力で燃やしてきた。あっという間だったぞ」

「応用のきく野郎だ」

「誉め言葉として受け取っておくよ」


ちょうどそのとき、詩織がキッチンから土鍋を持ってきた。


どうやら今日は鍋らしい。


まあ大勢で囲んで食べる鍋は格別に旨いからな。


それからしばらくは全員で鍋を食し、楽しい時間を過ごしていた。


桐埜と詩織は最初こそ楓に遠慮していたものの、楓の人懐っこい性格といじりやすさが幸いして(?)、いつの間にか仲良くなっていた。


歩夢もどうやら自分が結城のプロテクショナーであることを桐埜と詩織に話していたらしく、楓と最近の四院家事情について語り合っていた。


薫は「そんな大事な話をここでするなよ……」とか思いつつ、それなりに楽しんでいるのであった。


「じゃあそろそろ本題に入ろうか」


食事も終わりにさしかかった頃、薫はようやく口を開いた。


「楓さんは何の用があってわざわざ部屋に来たんだ?」

「用がないと来ちゃだめなの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……でも今日は何か用事があったんだろ?」


楓がいかに小さな体躯であろうとも一応は三呉家の一員であり、そんな人物が用も無しに部屋を訪れるとは思えない。


それに今はネイチャーズのことがある。


きっとそれ関係のことだろう。


「うにー。あんたって意外と甲斐性無しなのね」

「違います楓さん。この場合は鈍感って言うんですよ」

「おい歩夢。それはフォローになってないぜ」

「でも結城、甲斐性無しってのは頼りがないとか意気地無しって意味だから…」

「どっちでも構わないからいったいお前らは何しに来たんだ?」


目の前で繰り広げられる自分への侮辱行為に耐えかねた薫は、思わず口をはさんでいた。


「まさか本当に飯を食いに来ただけなのか?」

「な、何なのね! あんたの部屋にご飯を食べに来たらいけないのね!?」

「だからダメじゃないけど今がどういう状態か分かってるだろ? ネイチャーズとか出てきてるのに」

「うるさいのね! この鈍感! 木偶の坊! 女顔!!」

「ぐはっ!! 女顔はけっこう気にしてるのに……」


それからも楓の罵声は止むことを知らず、数分後に両隣からクレームが来たのはいうまでもなかった。



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