第一章〜ネイチャーズ〜
この作品はフィクションです。
「良い。実に良い動きだ、秋津!」
「いちいちうっせぇんだよッ!!」
刹那から放たれる風の刃を多重守護障壁で防ぎ薫は接近を試みる。
「! ぐがぁッ!!」
だがすぐに刹那の魔力の干渉が増大し薫は足を止めてしまった。
干渉を防ぐために守護領域を使えば風の刃が薫を襲い、風の刃を防ぐために多重守護障壁を使えば干渉が薫を襲ってくる。
《何故だが知らないが苦しむ秋津! 会長はいったいどういう手を使っているというのだ!?》
「チッ……あいつもうるせぇ」
薫は干渉と魔法の二重攻撃に苦しみながらも必死にスキを見つけようと躍起になっていた。
だが刹那は干渉と魔法の二重発動を決して止めようとはしない。その2つを駆使して的確に薫を苦しめていく。
こうなったら……。
薫は覚悟を決め、守護領域を展開する。
すると間髪入れずに刹那が風神蹂躙を放ってくる。
ここまでは先ほどと同じ。
そう、ここまでは!
「壁式の二二、多重守護障壁ッ!」
迫り来る風の刃を魔法を使い防ぐ。
二重発動で!!
「魔法の二重発動だと!?」
「使っちゃわりぃか会長さんよォ!!」
驚きで足の止まった刹那に、薫はすぐさま接近戦を持ち込んだ。
接近戦に持ち込めば分はこちらにある。
言うまでもなくそう判断したからだ。だが、それがいけなかった。
「やはり二重発動が出来たか、秋津!」
「何ッ!?」
その程度のことを刹那が予想していないはずがなかったのだ!
「風式の二七、パイルトルネード!!」
刹那のマポレツールが煌めき、接近してきた薫に向かって竜巻を飛ばす。
一直線に進む、すべてを抉りとる破壊の竜巻を。
薫はもろにパイルトルネードを受けとめ、勢い良く吹き飛ばされる。
さっきよりも威力の高いパイルトルネードだ。
これをモロに受けてなお立ち上がれる人間などこの世には存在しないだろう。
「そう……私の勝ちだ。秋津 薫」
《き、決まったぁ!!会長のカッコイイ台詞とともにこの超ハイレベルなバトルに決着がついてしまったぁ!これが会長!これが一色家次期当主の力だぁ!!》
刹那はピクリとも動かない薫を一瞥すると、生徒会役員の待つ自軍のベンチへと歩き始めた。
あっさりとした結末。
周りからすれば刹那の快勝かもしれない。だが実際、刹那の魔力も底をつきかけている。
あと少し粘られていたらどうなっていたか分からないだろう。
「私が魔力を限界近くまで消費するとは……いやはや驚きだな」
「何勝ったつもりでいんだよ……」
聞こえてきたのは男の声。
さっきまで戦っていた薫の声だった。
「まさか、まだ気絶していないのか!?」
刹那は慌てて振り向いた。
そして驚愕した。
そこにはズタズタになりながらもニヤリと微笑む薫がいた。
まだ目の光は衰えていない。
先程と変わることなく強い意思が見てとれた。
まだやるというのか、こいつは……。
「こっからが…本番だ。俺も本気だからなぁ」
薫は一瞬グラッとふらついたが何とか踏みとどまると重い右手を上げた。
「そんな体で……私の相手がつとまると思っているのか!!」
「なら、私がお相手します」
「何ッ!?」
ブワッと空から降ってきた何者かは、そう言うなり刹那に魔法を放った。
「水式の一三、ウォーターライフル」
マポレツールに水色の粒子が瞬いたと同時に無数の水弾が勢い良く刹那を襲った。
「風式の一三、ウインドーム」
反射的に刹那も風の防御壁をつくりだし、攻撃から身を守る。
今の攻撃……私の魔力に張り合っているだと!?
「何者だ、貴様」
「ネイチャーズ、とだけ申しておきます」
「……ネイチャーズ」
目の前にいる黒いフード付きのコートを羽織った人物は、淡々と名乗りを上げた。その容姿だけで十分異端なのだが、顔につけたふざけたピエロのような仮面がさらなる異様さを引き出していた。
《な、なんだ!?》
刹那の耳に実況の慌てた声が聞こえ一瞥してみると、そこには同じく黒いコートを羽織ったやつがいた。
他にもグラウンドを囲むようにして10人ほどだろうか。だがそれだけいれば十分だった。
「何が目的だ」
刹那は問う。目的を聞かなければ対処のしようがないからだ。
「目的はただ1つ。社会腐敗の原因である魔法使いの排除です。もちろんあなたたち生徒会のことですが」
確かに魔法使いの迫害は昔から存在している。だがそれはいかなる状況においても普通の人間によるものだった。
となると魔法使いが魔法使いを迫害しようとする原因はただ1つ。
「どこかの国に頼まれたのか……」
「お答えする義務はありませんッ!!」
ピエロ仮面は言い終わる前に動き出していた。
「今のあなたに魔法使う魔力は残っていないはず……水式の一三、ウォーターライフルッ!!」
「なめられたものだな。一色家次期当主ともあろうこの私がこのような事態を想定してないと思っているのか?」
「何ですって?」
「壁式の一三、守護障壁ッ!」
呆然と立ち尽くす刹那を撃ち抜くかと思われた水の弾丸は、突如目の前に現れた守護障壁によって霧散する。
「今の魔法はッ!?」
「千葉利 エマ。私の信頼するプロテクショナーだ」
プロテクショナー。
それは四院家の重要人物の周辺警護を一括して任された魔法使い。
守護者たる存在だ。
「バカなッ! 生徒会役員には別のメンバーが向かっているはず」
「おいおいおいおい。あんまりバカにすんじゃねぇぞテロリストさんよォ。俺を誰だと思ってんだぁ?」
振り向いたピエロ仮面の瞳に映った光景は、あまりにも予想外のものだった。
地面に組伏せられた仲間。その上に図々しく腰かける佐慈。その体は黄色に光輝いていた。
「雷式魔法か……」
佐慈が雷式魔法によって身体能力を強化させ、敵を倒したのだった。
奇襲戦における佐慈の優位性は絶対的であり、このような場面で敵を淘汰することなどあまりにも簡単なことなのだ。
「しかしまだ生徒が人質です。あなたが不利なことには代わりがありません」
生徒会長である刹那が生徒を見捨てることなんてできるはずがない。
「ふっ……やってみろ」
だが刹那の口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
「やったところでムダだと思うがな」
「何をッ!!」
なめられてる。
ピエロ仮面はカッとなり、生徒たちにマポレツールを向けている仲間に手で合図を出した。
それぞれのマポレツールに光の粒子が煌めき法式を展開していく。
だがやはり刹那は微動だにすることなくただニヤリ笑っていた。
「だからムダだと言ってるじゃないか……なぁ、秋津」
「俺に指図すんじゃねぇ!! 多重守護障壁ッ!!」
薫はピエロ仮面たちが法式を展開するよりも圧倒的に素早い速度で法式を展開する。その間、わずか0,2秒。
ピエロ仮面たちが生徒に向けてはなったいくつもの魔法は、薫によって生徒に届くことなく霧散していく。
「今のはッ!!」
刹那の目の前でピエロ仮面は唖然として立ち尽くした。
こちらが放った攻撃は20にも及ぼうとしていたというのに、薫はそれをたった一人で防いだのだ。
1ヶ所への集中攻撃ならまだしも、様々な方向への分散された攻撃を防ぐなんて常人にはできない。
超人的な視野と空間把握能力がなければなし得ない技だ。
それに多重守護障壁は多くても10ほどしか出現させることができないはず。
それは魔法使いの技量に関係なく法式によってそう決められているのだ。
それを越える量の守護障壁を出現させたということは……。
「まさか……同一魔法の二重発動!?」
バカな!! そんなことができる魔法使いなど国家兵器クラスの魔法使いしかいないはず!! それが一介の高校生にできるはずがない!!
しかし薫はやってのけた。
つまり国家兵器クラスの魔法使いだということ。
そうと分かればこれ以上の戦闘は益を見込めない。
「くっ…いったん引きます。全員退却を」
ピエロ仮面は甲高くそう宣言するとわき目もふらずに退却を始めた。
それに続いて他のピエロ仮面も撤退を始める。
「待ちやがれ!!」
「佐慈! 追わなくていい!!」
「けどよッ!!」
「ダメだ。それよりも生徒の安全の確保、それから今後再び現れるかもしれない奴らへの対策をたてる。模擬戦は中止だ。もちろん、歓迎会もな」
てきぱきと指示を出す刹那。その様子に佐慈はまともに反論することなく納得するしかなかった。
「まったく…タイミングを間違えてるな」
こうして薫と刹那の模擬戦は終了した。
ちなみに結果はドローだった。
ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ
時は過ぎ、場所は生徒会室。
会長の刹那は生徒会を代表して職員会議に出席していた。
佐慈と透は生徒会役員として未だに落ち着きを見せない生徒たちをなだめるため校内の見回りに行っている。
薫は佐慈が行っても逆効果だと思ったが、口に出せる雰囲気ではなかったので言うことはなかった。
つまり生徒会室には楓とエマ、薫と詩織の4人だけだった。
「ネイチャーズ……魔法使いにより世界の腐敗を防ぐために活動している組織なのね。だけどその本質は一般人による魔法使いの社会排除が目的なのね」
「だとしたら、何のためにあいつらは戦っている。魔法使いの社会排除が目的ならネイチャーズが存在する意味すら矛盾しているじゃないか」
「そこまでは私には分からないのね。ただ1つ言えることは」
「あの組織に大義名分はない」
「……千葉利さん」
「ネイチャーズは私利私欲のために活動する組織。つまりテロリスト。私たちに分かることは何もない」
エマの言う通り、テロリストの考えなど一般人に理解することなど不可能だ。
それが私利私欲のために活動するとなればなおのことである。
「だったら何でこの学校にやってきたんだろう? 魔法使いの排除がしたいなら学校じゃなくて軍を狙うべきだ」
「それこそ私たちには分からないのね」
「分からないで片付けてたら何にも前に進まない。分からないじゃなくて分かろうとしないと」
「あんた、なかなか生意気言うじゃないのね」
「諦めが悪いんだよ、昔から」
「ふぅん。まあ生徒会でも調べてみるからあんたたちも一回教室に帰るのね」
「そうだな。何か分かったら連絡してね」
「了解なのね」
楓の返事を聞き、エマに一礼して薫は生徒会室をあとにした。その後ろを心配そうな表情をした詩織が無言でついていく。
そして何かを決心したのかその重い口を開いた。
「薫ちゃん」
「ん? どうした詩織?」
「薫ちゃんはネイチャーズが襲ってきたらどうするの?」
「どうするって……戦うしかないだろうな。こっちに理由はなくてもあっちにはあるからな」
「炎式は?」
「使わない。使うわけがない」
「じゃあ……私が襲われたら?」
「……詩織?」
薫は詩織の質問の意味が分からずに言葉を濁す。だがすぐにその意図するところに気付きハッとした。
詩織は分かっているのだ。
自分が襲われたら静止を振りきってでも薫が助けに来てくれることを。
助けるためなら炎式を使うことも躊躇わないことも。
そして人を殺すかもしれないことを。
「詩織……」
「答えて、薫ちゃん」
詩織は何も言わない。何も言わずに薫の答えを待っている。
だから薫は言う。
「答えるも何も、今まで通りだよ。詩織を助けるためなら何だってしてみせる」
「薫ちゃん……」
「ただ……炎式は使わないようにするよ」
薫の答えを聞いた詩織は一瞬だけキョトンとしていたが、すぐに満面の笑みへと変わる。
詩織は試したのだ。
あえて質問の意図を分かりづらくすることで薫が自分の言いたいことを理解できるのかを。
結果、薫は理解してくれた。
やはり薫ちゃんは私のことを分かってくれている。誰よりも、一番に。
そのことがとても嬉しかった。
「えへへ。頼りにしてるよ、薫ちゃん」
「はいはい、ご期待に答えられるよう頑張ります」
詩織は満たされていた。
薫の気持ちに、そして何より自分の置かれている状況に。
ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ
2人は生徒会室からそれぞれの教室へと戻り、職員会議が終わるのを待っていた。
「お、北川。戻ってきてたんだ」
E組に帰ってきた薫は模擬戦の最中に姿が見えなかった歩夢を発見するなり言った。
「あ、うん。ちょっと用事があって遅れて行ったらもう模擬戦が始まってたからスタンドから見てたの」
「へぇ、セコンドにいないから何か厄介事に巻き込まれたのかと思ってたよ」
「ごめんね、心配かけて」
「いいんだ、無事ならそれで。それより四階、ネイチャーズって知ってるか?」
「それって模擬戦に乱入してきた奴らだろ?残念だけど俺も詳しいことは分かんねぇよ」
「そうか……四院家なら何か知ってるかと思ったけどそうでもなかったか」
四院家でも詳しいことが分からないとなるとネイチャーズはよほど情報規制が上手いということになる。
それか情報が出回るほど活動していないかのどちらかだ。
「あ、そうだ。北川は何か知らないか?」
「わ、私が知ってるわけないでしょ。何言ってるの秋津君?」
「まあこの際だから言うけど北川って四階のプロテクショナーだろ? 楓さんとも面識があるみたいだし。だったらそういう話は聞いててもおかしくないわけだ」
歩夢はしばらく渋るような表情をしていたが、観念したのか「はぁ…」と大きくため息をついた。
「そこまで分かってるなら隠しても意味ないよね。そうだよ。秋津君の言う通り、私は結城のプロテクショナーなの」
「だろうな。で、何か知らないか?」
「申し訳ないけど、私にも何も分からないの。普通ならテロリストとかの情報は嫌でも耳に入ってくるんだけど今回は何にも。実は私も結構戸惑ってるの」
「そうか……」
守るための存在であるプロテクショナーすらその存在を知らないとなるとこれはかなり異常な事態だ。
つい最近活動を始めたならまだしも楓の話を聞く限りそれはあり得ない。
だとしたらどういうことだ?
ネイチャーズはもしかして海外の秘密組織とでもいうのか?
だがその可能性は低いだろう。
奴らに日本、ましてや学校を狙う理由がない。
「まさか……日本の組織なのか」
そして国ぐるみでその存在を隠しているとすれば辻褄が合う。
そして学校を狙う理由もある。
だが、だとすればネイチャーズの本当の目的は生徒会ではなく……
「……詩織が狙われている!?」
「どういうことだ、お前さん?」
「え、ああ、何でもない。独り言だ」
「だけどだいぶ真剣な顔してたぜ?」
「いや、詩織が狙われてそれを助けたらドラマチックだなぁって思っただけだよ」
「ふーん、それならいいんだけどよ」
そうだ。詩織が狙われるわけがない。
あの事はしっかりと規制がかかっているはずだから。
薫は自分に言い聞かせながら、考えることをやめた。
いくら考えても答えはでないのだから。
ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ
さらに場所は変わり、日本某所。
薄暗い会議室のような部屋の中に数人の人影が見てとれた。
「隊長、総員セカンドフェイズの用意が完了しました。あとは隊長の指示を待つだけです」
いつか魔法高に現れた男が豪華な装飾の施された男にそう声をかけた。
「ウンディーネ……そうか。それは朗報だ。だが、一足遅かったみたいだ」
隊長と呼ばれた男はよくとおる声でどこか残念そうにそう言った。
「何かあったんですか?」
「なぁに、大したことじゃない。ネイチャーズが先に動き出しただけだ」
だがウンディーネは隊長の言う聞きなれない単語に首を傾げた。
「ネイチャーズ……聞かない名ですね。海外の組織ですかい?」
「そんなわけない。もしそうだとしたら俺は計画をサードフェイズまで繰り上げて実行している」
「ガハハ、そいつぁ違ぇねえ。だったらネイチャーズってのは何なんですか?」
「テロリストの真似事だ。いわゆるおままごとさ。学芸会のお遊戯って言ってもいいがな」
「あー……あれですか、もしかして魔法高に毎年現れるあのテロリストのことですか?」
「さすがはウンディーネ。分かっているじゃないか」
「伊達にサラマンダーの右腕をやっちゃいませんからね。それぐらい分かりますよ」
ウンディーネの皮肉ともとれる発言に、隊長……いや、サラマンダーは不適に微笑んで応えた。
ウンディーネの言うことはもっともだ。
もともとこの組織はサラマンダーとウンディーネ、それにシルフのたった3人で始まったものなのだから。
「まあいい。シルフと、それからノームたちに連絡しろ。セカンドフェイズは中止、現状を維持しろとな」
「合点承知。すぐに伝えます」
ウンディーネはそう言い残し、足早に部屋をあとにした。
1人部屋へと残されたサラマンダーは、おもむろに立ち上がり一枚の写真を手にとった。
そこには幼き薫と詩織が仲睦まじく写っていた。
「良かったな少年。君は少なからず生き延びることができた。だがそれもほんの一瞬だ。すぐに絶望を見ることになる。そしてそれは君もだ、日本魔法界新御三家が一つ、東雲 詩織……」
刹那、サラマンダーの手に赤い光の粒子が煌めき写真を灰に変えた。
まるで2人の未来を暗示しているかのように……。




