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第一章〜入学式〜

国立魔法学育成高校。通称、魔法高。


日本で最大にして唯一の国立魔法学科のあるこの高校には毎年150人の生徒が入学してくる。


公立の学校にも関わらず限りなく少ない数の生徒しかとらないこの高校は、毎年倍率が10倍近くあるため、かなりの狭き門となっている。


しかし一度入学してしまえば国家で最高レベルに値する魔法の授業をうけることができ、機密レベルの書籍すら閲覧することもできるのだ。これだけ魅力的な学校ならば倍率が高いのも頷ける。


そして今年、この学園にギリギリで合格した1人の生徒がいた。


魔法高、1学年第2寮。


その402号室に少年は住んでいた。


「か・お・る・ちゃん!朝ですよー!」

「ん…ぅん。あと5分…いや、一時間」

「うわぁお!初日から遅刻する気なのかしら?まあ私は薫ちゃんと一緒なら別にいいけどね」


少年は耳元から聞こえてくる甘ったるい……だけど確実に煩い声を聞いて目を覚ました。


まだ眠い!と訴えかけてくる無駄に重い瞼をこじ開け目を開いた。


「…おはよう詩織」


少年は自分の上に馬乗りになっていた少女を見ながら言った。


なんか体が重いと感じたのは詩織のせいかよ…。


「おはよう薫ちゃん!」


だがそんな少年の心のうちなど知るよしもない少女は屈託のない笑顔を向けながら朝の挨拶をかわしていた。


少年の名は秋津 薫。


今日からこの魔法高に通う、れっきとした魔法使いである。


ただ一つ欠点があるとすれば、低血圧のため非常に朝が苦手なのである。


いやいや、さらに言ってしまえば彼は頭脳も良いわけではなく、ましてや魔法の扱いに長けているわけでもない。


そして膨大な魔力量を持ってい「うるせぇ…」―――つまり彼はどこにでもいる平凡な高校生だったのだ。


「うるさい?私何にも喋ってないけど?」

「あぁ…いや、独り言だ。気にすんな。それより今は何時なんだ?目覚ましがなった気配もないが…」

「うん。目覚ましは私が止めたからね」


そしてさらりと爆弾を投下したこの少女の名は東雲 詩織。


薫と同じく今日から魔法高に通うのだが、頭脳明晰、容姿端麗、成績優秀。


言ってしまえば非の打ち所など微塵も感じさせない女の子だ。


「悪かったな…」

「薫ちゃん?」

「いやいや、本当に何でもないんだ。で、結局今は何時なんだ?」

「今ねぇ、8時10分だよ」

「そうか…8時10分か。寮から学校まで歩いて10分かかるけど、入学式が始まるのは8時30分からだからあと10分は寝れるなぁ…」


と、そこまで言って薫はいきなり固まった。


その姿が詩織にはツボだったのか、綺麗な口をその華奢な手のひらで覆い隠して必死に笑いを堪えていた。だがやはり堪えきれなかったのか肩がガタガタと揺れ出すと、ついに声を出して笑い出した。


「アハハッ!薫ちゃんったら急に固まってどうしたの!?ヒー…ハー…待って…私を笑い死にさせないで……プフッ!」

「ちょっと待て!!どこに笑ってられる余裕があんだよ!遅刻じゃねぇかよ!!」


薫は急いでベッドから抜け出すと制服のもとへ駆け寄り一目散に着替えを始めた。


「きゃっ!いきなり女の子の目の前で服を脱がないでよ」


詩織は年頃の女の子らしく顔を赤らめながら、急いで俯いた。


だが詩織の本性を知っている薫はそれを白い目でただ眺めているだけだった。


「お前が普通の女だったら遠慮するけど、人が風呂に入ってくるときに乱入してくるやつがいうセリフじゃないよね」

「自分がやるのとやられるのじゃ訳が違うのよ」


詩織はそう言ったが薫はなおも白い目を向け続け着替えを続けるのだった。




ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ




「はぁ…遅刻するかと思った…」


あれから急いで着替えをすませ、走って学校へと向かった薫たちは、なんとか遅刻せずに入学式の会場へと到着することができた。


だがやはり薫と詩織が最後だったらしく生徒だけでなく先生からも冷たい視線を浴びせられた。


「うっ…すいません、遅れました」


薫は隣で「私たち、大注目だねッ!!」とか妙なことで騒いでいる親友を尻目に、待ってくれていた全員に深々と頭を下げた。


「東雲さんはA組の先頭に並んでください。で、秋津はE組に並べ」


おい、ちょっと待て教師!


今俺の扱いが詩織に比べて雑じゃなかったか?


「わっかりました!」


薫が先生のぞんざいな扱い(?)に頭を悩ませていたが、詩織は全く気にする様子もなく元気に返事をしていた。


ふむ。どうやら俺の勘違い――


「お前もさっさと並べ!」


――ではなかったようだ。


薫は軽く教師を睨み付けるとまた小言を言われる前にE組の最後尾へと並んだ。


まったく…高校初日だっていうのに最悪な出だしだ。


たぶん今の出来事で俺は無駄に生意気なE組の落ちこぼれとして認識されただろう。

ただでさえE組は落ちこぼれ集まりとして忌み嫌われる存在だけに、学校生活をいかに有意義に過ごすかはどれだけ先生に気に入られるかによって変わってくるのだ。


「はぁ…」

「お前さんもいきなり厄介なことに巻き込まれちまったな」


最後尾に並び、これからいかにして過ごしていこうかと頭を悩ませていた薫の耳に、聞き慣れない声が聞こえてきた。いや、明らかに初めて聞く声だった。


顔を上げるとそこには、ワイルドと精悍な相反する2つの雰囲気を醸し出すほど綺麗な銀色に染まった髪の毛に、細い瞳をした少年が立っていた。身長は薫とあまり変わらない、つまり175cmほどあったがしっかりと鍛え上げられた肉体が身長を5cmほど底上げしていた。


そんな薫の容姿はいたって褒められたものではないことぐらい自覚していた。


まあ一言で言うなら女顔「それ意外と気にしてる……」―――中性的な顔立ちをしているということだ。


「まあ一緒に遅刻してきた奴が悪かったな。A組の生徒と一緒だろ?そりゃあお前さんがタブらかしたって思われても仕方ないよな」


この少年の言うことは間違いなく正解だった。A組の生徒が遅刻ギリギリに登校してくるなんてきっと前代未聞のことだろ。


だからこそ薫がぞんざいな扱いを受けたのにも納得がいっていた。


だがこうして、明らかに初対面の人間にビシッと言われるといささか不快感を覚えないわけではなかった。


「ちょっと結城!いきなりそれは相手に失礼だよ」


薫の怪訝な表情を読み取ったのか前から一人の少女が顔だけ後ろを向きながら、結城と呼ばれた少年に注意した。


少し赤の混じった茶髪はボブカットとでも言うのだろうか?綺麗に切り揃えてられており、やっぱり女の子は髪の毛を大事にしてるんだなと感じさせるほど、本当に些細な風にサラサラと揺られていた。


だが身長は150cmほどしかなく、どこか彼女に小動物的なイメージを抱かずにはいられなかった。


「ごめんね、秋津君。結城も別に悪気があるわけじゃないの」

「いや、特に気にしてないから大丈夫。それより何で名前を…?」


薫自身、そんなに他人から言われたことをいちいち気にするタイプではなかったが、さすがに今回は少しイラッときていただけに、慌てて話題を逸らした。


「さっき先生がそう呼んでたから。もしかして違った?」


少女に言われ、「ああ。なるほど」と納得した薫は、「合ってるよ」と短く答えるとすぐに少女を見つめた。


やはり…彼女は小動物だ。


さっきまで少しばかりイライラしていた心も、彼女を見ているだけで不思議と落ち着きを取り戻していた。


この癒しが詩織にあればな…いや、それは無理なお願いか。


自分の心の中で勝手に結論を出していた薫は、なんだか自分がもう一人いるような感覚に戸惑い、苦笑した。それを見ていた彼女は頭の上にハテナマークを浮かべ―――もちろん実際にそんなものは存在しない、首を横に傾げたのだった。


「ところで君たちは?」

「俺は四階 結城。お前さんと同じE組だ……って、ここに並んでるんだから言わなくても分かるよな」


そう言って結城はケラケラと愉快に笑った。だが薫は笑わなかった。


「私は北川 歩夢。よろしくね、秋津君」


そして本人の知らないうちに薫の癒し系ポジションを獲得した歩夢が自己紹介を済ませた。


ちょうどその時、体育館の中から「新入生、入場」という声が聞こえ、3人はお喋りを止めると列に並んだ。



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