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第一章〜動き出す歯車〜

この作品はフィクションです。

「じゃあ結局、薫ちゃんが新入生代表なのかな?」


その夜、詩織と桐埜は噂の真相を確かめようと第2寮を訪れていた。


「たぶんそうなると思うよ。秋津君、かなりイヤがってたけどね」


そこでことの説明を受けた詩織は、桐埜とは対照的にどこか暗い表情だった。


「あら?詩織は嬉しくないのかしら?」

「嬉しくないわけじゃないけど…薫ちゃんの性格だと今すんごく怒ってると思うんだよね」

「薫が怒るようなことなら今まで何回もあったじゃない。そんな心配は今更よ」

「そりゃそうだな。それに怒ったところで何かが変わるわけじゃねぇからな」


詩織たちは食堂に集まり、夕食をとりながら話を続けていた。


だがそこに、薫の姿はなかった。


「そ、そんなことないよ!薫ちゃんが怒るととっても怖いんだよ!!」

「それは興味がわくわね。どれくらい怖いのかしら?」

「……本気で怒ってたら近寄れないの」

「近寄れないの? なんで?」

「それは見た方が分かりやすいと思うけど……」

「じゃあ見に行きましょう」


桐埜は詩織の返事もまたずにスッと立ち上がった。


その横で詩織は「えぇーッ!!」と声を上げて嫌がる。


「いいじゃない。見てるだけよ」

「絶対にイヤ! 見つかったら怒られるのは私なんだから!!」

「問答無用!」


詩織の必死の抵抗もむなしく、両腕を桐埜と歩夢に引っ張られ、薫のもとへと向かうのであった。







薫は悩んでいた。


模擬戦を逃げ出すという選択肢が潰れた今、薫が考えているのはどうやって刹那と戦うかだった。


聞いた話によると刹那の魔力特性は振動。つまり風式だ。


風式使い自体との戦闘経験があまりないわけではない。っていうかありすぎるぐらいだ。だがそのどれもが、一切手を抜くことなく勝負したものなのだ。


リジェクトでどこまで防げるのか。それがまったく分からないのだ。


「つまるところ守護障壁…いや、守護領域までで敵の攻撃を防がないといけないわけか…」


だがもしそれでダメなら、多重守護障壁の使用も覚悟しなければならない。


あまり上位の魔法は使わずに終わらしたい、というのが薫の本音なのだ。


ああ…考えるだけでイライラしてくる。


なんで俺がこんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ!生徒会の行事なら俺を巻き込まないで他所でやってくれればいいものを!


ふと不条理な生徒会に対する怒りが加熱したその時、薫の体から赤い光の粒子が漏れだし発火現象を起こした。


「おっと…」


薫はそれを慌てて固定の魔力で消火するとまた一つため息をついた。


これが詩織の言っていた近寄れない原因である。


昔から薫は怒りがたまると、吸収の魔力が暴走したかのように溢れ出す癖があったのだ。


薫の魔力制御が下手なわけではない。吸収の魔力の制御が難しすぎるのが理由だ。


本来なら魔力は特性に関係なく御しやすいもののはずなのだが、薫の吸収の魔力だけはそれに当てはまらなかった。


理由は分からない。ただ薫の吸収の魔力は生成速度及び圧縮率と許容量が常人の倍近くあるのが原因ではないかと、医者には言われた。


結局、答えは分からずじまいといったところだ。


再び魔力のコントロールを取り戻した薫は視線を感じ後ろを向いた。


そこには案の定、詩織がいた。


いや、詩織だけでなく結城に歩夢、それに桐埜まで。


「どうしたんだ、こんなところでみんな揃うなんて珍しいな」


薫が声をかけると何故かびくびくした様子の詩織が口を開いた。


「怒ってないの? 薫ちゃん…」

「怒る?怒ってないけど…それになんで俺がお前に怒らなきゃないんだよ」

「だって…魔力が暴れてたから」


見られてたのか…。


薫は思わず舌打ちをすると、不自然に視線を逸らした。


その行為だけで薫が怒っていると感じた詩織は後ろの3人に何事か呟いた。


「よう、お前さん」


結城は止めるような素振りを見せる詩織を手で除けると薫に話しかけた。その力に詩織は「おっとっと」と言いながら思わず躓きそうになる。


それがいけなかった。


結城が瞬きをした一瞬にして薫の体から赤い光の粒子が溢れだし、結城に向かって来たのだ。


「おぉい!?」


結城は自分の体に火がつく直前に慌ててその魔力を消し去る。


「あっぶねぇなぁ。やっこさん怒ったらいっつもああなのか?」

「だいたいはね。でも今日は何か違う…」


詩織が何かを感じとり、心配そうな視線を薫に向けた。


だが薫は微動だにしなかった。


否、左胸を掴んだまま動かなかった。


「ぐ……あぁッ!!」


突然、薫は左胸を荒々しく掻き掴むと呼吸を乱し始めた。


「ど、どうしたの薫ちゃん!?」


詩織が慌てて近寄ろうとしたが、薫の体から溢れ出した魔力によってそれは出来なかった。


「あぁッ……ぐぁぁあああッ……」


その間も薫はかなり苦しそうに体を震わせていた。ガタガタと、まるで何かに怯えるかのように。


「左胸…まさか傷が痛むの…?」


近寄ることのできない詩織は、薫が苦しむ原因を思いだし呟いた。


「薫ちゃん!大丈夫、薫ちゃん!?」

「ぁぁぁああああああ!!」


せめて声だけでも。


詩織が声を届けようと躍起になったその時、薫の体を白い光の粒子が包み込んだ。


「まさか…また魔力の暴走か!?」


結城は先程味わった恐怖を二度と味わうものかと身構える。


「…違うわ」


だがそれを桐埜が否定した。


「これは…守護領域よ」


白い光の粒子はフワフワと幻想的な空間を作り出し、薫を取り囲む。それに混じるようにして漏れ出す赤い光の粒子は、外界にでてすぐに霧散して消えていた。


「魔力の暴走を自分で防いでるのか?」

「たぶんそうだと思うわ。それしか考えられないもの」

「秋津君、大丈夫かな…」


しかし詩織は違った。


薫が魔力の暴走を防ぐために守護領域を使ったのではないと直感で感じていた。


何か…別の理由があるはずなのに、それが分からない。


詩織がもどかしさのあまりイライラし始めたと同時に、薫の顔が上がった。


「か、薫ちゃ……」


だが詩織は声をかけられなかった。


詩織だけでなく、他の3人も同様に。


「どこの…どこのどいつだクソッタレ…」


そこにいたのは今まで詩織が見たことがないほど狂暴な顔をした薫がいた。


「魔力が俺に干渉してきやがる……誰が俺に向かって…魔力をビンビン飛ばしてきてんだよ…」

「薫ちゃん…」

「あぁ!? お前らか!? お前らがやってんのか!?」


薫はフラフラになりながらもなんとか立ち上がると、詩織たちに向かってその手をかざした。


「もういい…誰でもいい。全部…潰してやるよ」

「か、薫ちゃん!!」

「燃えて散るは我が目に映るその体…」


その詠唱に聞き覚えのあった詩織はハッとした。


あの詠唱は6年ぐらい前に薫ちゃんが覚えた炎式魔法…そうだ、全てを焼き尽くす不死鳥の魔法だ!!


「いけない!みんな薫ちゃんを止めるのを手伝って!!」

「止めるったってどうやって!!やっこさんは今守護領域を使ってんだ!それに訳のわかんない詠唱まで始めたんたぞ!」

「だからなの!だからとめないといけないの!!」


3人はしばらく顔を見合わせたあと、決意したかのように頷いた。


そしてほぼ同時に動き出す。


「無くすものなどこの世に残さん…」


だがその間にも薫の詠唱は続いていく。


「悪いけど全力でいくわ。氷式の三四、クールレーザー!」


桐埜の使える最強の攻撃魔法。


ましてや万全の状態で使われたその魔法は、交流戦の時よりも威力は上だった。


それを証明するかのように氷のレーザーは守護領域の中を突き進み、薫へと向かっていく。


だがそれはやはり薫の少し手前で霧散してしまう。


「全てを焼き…」


「守護領域が薄くなってる。ここを狙うぞ、歩夢!」

「うん!」


一呼吸置き、結城と歩夢は息をあわせて同時に魔法を打ち出す。


歩夢の水式魔法に結城の雷式魔法が重なることによって、威力が増大した魔法となり薫に襲いかかる。


普通は魔法の重ねがけなんて出来ない。


余程相手のことを知り尽くしてないとできない芸当だ。


だがその魔法をもってしても、薫に傷をつけることはできなかった。


だが守護領域に一筋の穴を開けることには成功した。


「蹂躙し…」


「薫ちゃん!!」


詩織は突風を巻き起こし、自らの背中に吹き付けさせた。


詩織の軽い体はそれだけで吹き飛び、薫に向かって飛翔する。


「止まって薫ちゃん!大丈夫だよ!私がいるよ!!」


そのままの勢いで薫の胸に抱き付く。そしてさらにゴロゴロと二人仲良く地面を転がった。


「殲滅せ……よ…?」

「…なんで疑問系?」

「…悪かったな、詩織」


なんとか元に戻った…。


詩織の胸に安堵の気持ちが込み上げ、思わずその胸に抱き付いた。


「おい、ちょ…詩織?」

「ダメなんです。今日は離しません」

「…はいはい。分かったよ」


迷惑かけたからな…仕方ないか。


「お前らにも…迷惑かけたな。悪かった」


今は素直に謝っとかないと。







「隊長、どうですか?」

「問題ない。少年は予想通り俺の干渉に反応した。安定稼働には到っているようだ」


学校敷地内にある廃れた小屋の中にその男はいた。


となりには部下が1人だけ立っており、他に人の姿はなかった。


「事は終始万全だ、帰投するぞ。それからそろそろセカンドフェイズに入ると伝えておけ」

「了解しました。でもまだ俺は未だに信じられませんよ。隊長の言っていたことが本当だなんて」

「俺は嘘は言わん。真実は隠すがな」

「そっちの方がタチが悪いですよ」


部下は「ガハハハ」と豪快に笑うと、魔法を使い、2人まとめて水のベールに包み込んだ。


「セカンドフェイズの後にサードフェイズ、それからラストフェイズに入るまで1年ちょっとしかない。準備は抜かるなよ」

「了解ッ!」


姿の見えなくなった2人は全くの無音で移動を開始し、学校の敷地内から立ち去るのであった。

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