第一章〜魔法人形と《I.Ma.Geドライヴ》+厄介事〜
この作品はフィクションです。
現代魔法が誕生して半世紀。
人間の魔法に対する固定概念は未だに定着していない。それは人々の思い描いていた魔法と現代魔法があまりにも違いすぎたからだ。科学によってその8割を解明された現代魔法は、法式によってその道筋を決められている。
そう。人々が思い描いていた魔法とは違い、自由度がまったくないのだ。
魔法を使うには法式を理解しないといけない。法式から外れると魔法は発動しない。そんな窮屈な魔法に誰が満足するというのだろう。
「なんだそれは。だったら自分で魔法を生み出せばいいじゃないか」
今の私の文を読み、こう言うであろう人物がいることは明白だ。だがしかし、現代魔法は科学だ。腐っても科学なのだ。
どうすれば科学知識のない私たちに魔法が作れるというのだ。生み出せるというのだ。そんなこと私には到底できない。
結局、私たちには窮屈な現代魔法のみで生きていくしかないのかもしれない。
ああ…神よ。私はあなたを恨みます。
このような力を生み出したあなたを…。
《ジャン・スペルマーニの独白》
258ページより抜粋
「……」
「……」
「……なにこれ?」
薫はその紙切れを右手に持ち、横に座っている詩織の顔の前でヒラヒラさせながら言った。
詩織は「うにー」と意味の分からない声を出して、そんな薫を見つめる。
「そんなに見たって何も出やしないよ。で、これ何なの?」
「何ってジャン・スペルマーニの独白だよ」
薫は惚けた顔で言う詩織の頭をペシッと叩いてやった。
「い、痛い! はっ!まさか今のがDVなの!?」
「どう考えても違うだろ。ったく…」
今はお昼休み。
寮の食堂で食事をとっていた薫は、今日からまた始まった1週間に苦痛を感じながらも、せめて昼飯はゆっくり食べようと思っていたのだが、詩織の登場によってそれは叶わなかった。
「お前さんは相変わらず楽しそうだな」
「どこがだよ。こいつ人が昼飯食ってんのに邪魔しかしないんだぞ?」
「ひ、ひどいよ薫ちゃん…。私は少しでも薫ちゃんと一緒にいたいのに……」
「昨日たくさん遊んでやったろ。学校の時ぐらい我慢しろ」
「そりゃそうだ」と薫の正面に座る結城は笑いながら言うと昼飯にがっつきだした。
その隣にはニコニコと楽しそうな笑みを浮かべる歩夢がいる。
まあなんと言うか、いつものメンバーって感じだ。
あ、いや。もう一人いた。
「あら、みんな揃ってるのね」
「あ、キリちゃん」
桐埜である。
あの交流戦以来、桐埜の代名詞となっていた不満面(薫談)もなくなり、5人はクラスを越えて集まるようになっていた。
桐埜は「失礼」と言って、薫の横に優雅に腰掛けた。
「桐埜さんはご飯食べないの?」
「呼び捨てでいいって言ってるでしょ、歩夢?」
「いやぁ、なんか呼び捨ては呼びにくくて」
当初は険悪だった歩夢と桐埜も3日も立てば仲良くなっており、今では名前で呼びあうほどになっていた。
「私はいいわ。あまりお腹が空いてないのよ」
「キリノ、そんなこと言ってないでなんか食ったほうがいいぞ。昼飯抜くと後から響いてくるからな」
「そうかしら?んー、でも薫がそこまで言うなら食べるわ」
桐埜はそう言うと席を立ち上がり、カウンターに向かって歩いていった。
冗談ではなく本当に何か食べるみたいだ。俺の一言ってスゲェな。
桐埜の後ろ姿を眺めながら薫は自分の発言力の大きさにひどく感動していた。
その横顔を詩織が不安そうに眺めているとも知らずに。
ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ
「じゃ、そろそろ教室帰るか」
昼休みも残り30分。
寮でのんびりと過ごしていた5人は、結城の言葉を合図に教室に向かって歩き出した。
寮から学校まで歩いて10分。
遠くもなく近くもない、食後の運動だと考えればちょうどいい距離だった。
そんな道中に、
「ケラケラケラ」
小さな人形が落ちていた。
「なんだこれ?」
それに気付いた薫は、ケラケラケラと愉快に笑っている小さな人形を手に取った。
「どうしたの薫ちゃん?」
「あ、いや。なんか人形が落ちててさ」
「あ!それ、ルイヴァじゃない?久しぶりに見たなぁ。まだ動いてるのあったんだね」
「ルイヴァ?」
聞き慣れない単語に薫は思わず呟きを返していた。
「うん、ルイヴァ。魔法人形とも呼ばれてるんだけど、薫ちゃん知らないの?」
「あー…名前は聞いたことあるかも」
「ホントに?」
「…ごめん、ウソ」
「やっぱり」
そう言って詩織はクスクスと笑みをこぼすと、薫のために説明を始めた。
「ルイヴァはね、何年か前に日本で限定1000個しか作られなかったすっごく貴重価値のある人形なんだよ。オークションにも出されたりして世界的にも注目されたんだから」
「限定1000個ってのが気になるな。なんか理由があるのか?」
「さっすが薫ちゃん。いいところに目をつけるね、って言っても私も詳しくは知らないんだけどね」
「それはね主機関が特別だからだよ」
「知ってるのか、北川?」
「まぁね。1000個しか作られなかったのは、ルイヴァの主機関、動力が普通の電気とかじゃなくて魔力だったからなの。《I.Ma.Geドライヴ》。さすがにこれは知ってるよね?」
「ああ、さすがにそれはな」
《I.Ma.Geドライヴ》
全世界に驚愕、脅威、驚嘆などさまざまな叫び声を上げさせたオーバーテクノロジーの塊。
日本で開発された画期的な発明品。
何がそんなにスゴいのかと聞かれれば全員がこう答えるだろう。
「魔力が生成できる機械の全てがスゴい」
本来、魔力とは人の体内でのみ生成することのできる特殊な力のことだ。だがこの《I.Ma.Geドライヴ》は、再生治療とクローン技術によって疑似人体を造りだし、その中に《I.Ma.Geドライヴ》を搭載するによって魔力を供給することを可能にしているのだ。
文字通りオーバーテクノロジーの塊。
しかしその力故に、各国が情報開示を求め、その技術を我が物とし魔法兵器の主機関にしようと企んでいる。
だがそれをよしとしない人物がいた。
それが《I.Ma.Geドライヴ》の設計者でもあり、世界一の魔法使いや炎帝と呼ばれ恐れられている神保 椥辻その人だった。
神保 椥辻は、
「この力は争うためにあるのではない。人々を助けるためにあるのだ」
として《I.Ma.Geドライヴ》の情報開示を拒否する。
度重なる日本政府からの要請にも答えることはなく、結局妥協した日本政府によって《I.Ma.Geドライヴ》を建造予定になっていた太陽光発電システム内蔵型タワーの主機関として採用。その名を太陽光発電システム内蔵型首都圏防衛タワーへと変貌させることになった。
「ルイヴァの《I.Ma.Geドライヴ》はその製作途中で造られた試作品。つまり《疑似I.Ma.Geドライヴ》ってところかな」
「ん?」と、そこで薫は首を捻った。
それほどの、国家ぐるみで取り合うほど貴重な《I.Ma.Geドライヴ》を、こう易々と人形に搭載するだろうか?と。
そんな薫の疑問を感じ取ったのか、歩夢はさらに言葉を続ける。
「ルイヴァの《I.Ma.Geドライヴ》は生成する重要機関を排除した《I.Ma.Geドライヴ》を搭載しているの。だから《疑似I.Ma.Geドライヴ》って呼ばれてるんだよ」
「なるほどね。一番大事な部分を排除したんじゃ分解しても意味ないもんな。あ……じゃあこいつは今どうやって動いてるんだ?それこそ分かんないぞ?」
「ふふ…さすが秋津君、いいところに目をつけるね。ルイヴァの《I.Ma.Geドライヴ》は魔力使いきり型なの。起動前に魔力を詰めこんで起動後はその魔力を利用して稼働する、捨てゴマみたいなもの。一度魔力を使いきるとその《I.Ma.Geドライヴ》は2度と稼働することはないの。停止後に魔力を詰めこんでも無意味。まあそれでも魔力を詰め込むなんて普通じゃ無理なんだけどね」
要するに《I.Ma.Geドライヴ》の重要部分を排除したことによる情報漏洩を極端に少なくした《I.Ma.Geドライヴ》ってことか。それでも魔力充填回路などの周辺部分は少なからず露見したと言っても過言ではないだろう。だがそれでも生成部分の最重要機関に比べれば痛くも痒くもない。
「それにしても詳しいんだな、北川?」
「ちょっとね…」
どこか誤魔化すような返事に薫が首を傾げると、
「こいつルイヴァ大好きなんだよ」
と結城が横から口を挟んできた。
「昔っからルイヴァ大好きでよ、歩夢も1つ持ってたんだよな。あれ、何だったっけ?」
「…清楚なルイヴァ」
「そうそう、清楚なルイヴァ。クスクス笑いやがるからウザいのなんの」
「ちょっと! 私のルイヴァつかまえてそれはないでしょ!」
そこから始まった2人の言い争いを見ながら、ホントに仲がいいなと思う薫であった。
結局、あの愉快なルイヴァと言うらしいルイヴァは一応職員室に持っていったのだが、職員室でゲラゲラ笑われても迷惑だということで歩夢に預かってもらうことにした。
歩夢は二つ返事でそれを了承すると本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて、愉快なルイヴァ抱き締めていた。
それから5人は各自の教室へと戻り、五時間目の準備を始めたその時、事件は起こった。
「た、大変だ!!」
「おおう、どうした委員長?」
結城に委員長と呼ばれた男子生徒は薫の姿を発見すると、息も整えずに駆け寄ってきた。
「大変だよ!秋津君!!」
「だから何がだよ」
「明後日に新入生の歓迎会があるのは知ってるよね!?」
「ああ、部活の紹介とか新入生代表と生徒会長が模擬戦したりするやつだろ?」
「その模擬戦が大変なんだよ!!」
「え?」
「なんと!なんとなんと!!生徒会長が対戦相手に君を指名したんだ!直々のご指名だ!もう断れないよ!!」
「はぁ!?」
薫は己の耳を疑い、思わず立ち上がって反応した。
「あの人が俺を指名した!?ウソだろ?」
「ウソじゃないよ。きっと今頃学校中がこの話題で持ちきりさ!」
「マジかよ…」
薫は頭を抱え、ふらふらになりながら席に座った。
ああ…やばい…気分悪くなりそう。
っていうかあの生徒会は何を考えてるんだ。昨日はいきなりケンカをふっかけてくるし、今度は正面から模擬戦だって?
「ふざけてる…俺を苦しめたいのかあの人たちは……」
「どうすんだよ、お前さん?」
「どうもこうもあるか。生徒会に直談判するしかないだろうな。ったく…会長さんは真面目な人だと思ってたのによ」
「それは全くの同感なのね!」
突然、教室の入り口から女の声が聞こえてきた。昨日ですっかり聞き慣れてしまった楓の声が。
「ヤッホーなのね」
「何しに来たんだよ、楓さん」
「俺もいるぜ」
その後ろには佐慈の姿もあった。
E組の教室のみならず、その廊下までもが突如現れた生徒会役員の登場により静まり返ると、その行方を固唾を飲んで見守っていた。
「あんたに話があるのね」
「またか…昨日のことなら諦めてくださいって言ったでしょ?」
「あの話はまだ保留のままなのね。今日は別の話なのね」
別の話…きっと今話題になった模擬戦のことだろう。薫には妙な確信があった。
「久しぶりだな、楓さん」
「…あなた四階家の…そうですね、お久しぶりですね」
「おいおい、ここは学校だ。ここじゃただの先輩と後輩で頼むよ」
「じゃああなたも敬語を使いなさい」
結城は「確かにな」と呟いて肩をすくめると、シニカルに微笑んだ。
「あら、あなた…」
楓は結城から視線をずらし今度は歩夢を見つめた。
「ああ、こいつは俺の親友の北川 歩夢だ。よろしくやってくれ」
「そう…そういうことならよろしくね」
楓は妙に納得したように頷くと、歩夢と握手をかわした。
結城は四階家の次期当主。楓と面識があっても不思議はないだろう。だが歩夢は何だ?今の楓の反応からして恐らく面識があると見て間違いないだろう。しかし接点が見つからない。
いや、あるにはあるのだが、それはここで言うようなことではない。
「それじゃあ本題に入ろうか」
佐慈が場をしきり、っというか生徒会の先輩が机にドカッと座れば誰も口が挟めないだろう。
「薫…刹那と戦え」
「いやですよ」
「まぁそうだろうなぁ」と佐慈は呟き肩をすくめた。
「そう言うとは思ってたがそうはいかねぇ。あいつはもうやる気だ、逃げ場はねぇぞ?」
「逃げ場ならたくさんあると思いますよ。風邪引いたとかね」
「チッ、相変わらず抜け目のねぇやつだ。だが刹那もそれは同じだ。あいつはたとえてめぇが地の果てまで逃げようとも追っかけてくるぜ」
「そうでしょうね。ああいうタイプの人は結構しつこいですから」
「分かってるなら、戦うしかないのね」
楓は薫の顎を撫でるようにして触ると、自分の方に振り向かせた。
「もし戦ってくれたらあの話についても考えてあげるって言ってたのね」
「それはそれは、魅力的だね」
薫は半ば呆れ返りながら皮肉を込めて言った。
「ここで逃げれば強制的に入らせて戦っても半ば強制的に入らせるんでしょ。どっちにしても結果は変わらないじゃないか」
「そんなことはないのね。本当に譲歩してあげるのね」
「最低限…だがなぁ」
そう言って佐慈はニヤリと笑った。
こっちは笑えないんだよ、バーカ。
薫は心の中で愚痴をこぼしながらため息をついたのだった。




