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第一章〜生徒会に入らないか?〜

この作品はフィクションです。

先ほど暴れた闘技場横の小さな広場から、なんとなんと生徒会室へと移動した3人は何も喋らずにソファーに座っていた。


正面には刹那とエマ、それから最後の生徒会役員である神谷 透が何も言わずにただただ3人のことを凝視していた。


「…ごめんなさいなのね」


ついに思い空気に耐えかねなかった楓が先手をきって謝った。


「私も止めようと思ったのね。でもやっぱり噂の秋津君の力が見たかったのね」

「言いたいことはそれだけか、楓?」

「ひ、ひぅ!!」


刹那のあまりの剣幕に楓はビクッと体を震わせると俯いてしまった。


「佐慈。君はトイレに行くと言ったはずだが?」

「あぁ?道に迷ったんだよ」

「苦しい言い訳」


刹那、エマ、佐慈の3人が無言の睨み合いを続けていると横から声がかけられた。


「まあまあ、3人とも落ち着いて…」

「雑魚は黙ってろ」

「…はい」


あっさりとやられた透を尻目に刹那はため息をついた。


「本当なら君たち…いや、佐慈とエマには報告書を書いてもらわなければならないのだが、今回は特別に見逃してやろう。今回は! 特別に! だがね」

「けっ…嫌味なやつだ」

「やっぱり佐慈には」

「へぇへぇ。ありがとうございます、会長様」


佐慈はかなり棒読みだったが刹那はそれでも満足そうに微笑んだ。そして再び真剣な表情に戻ると薫と向き合った。


「さて、初めましてだな秋津君」

「…どうも」

「手洗い勧誘を許してくれ。我が生徒会には不器用な者が多くてね」

「そりゃまぁ2人中2人に攻撃されましたからね」

「あはは、それはすまな……2人?」


その言葉に刹那は素早く反応すると、キッと楓を睨んだ。


「ち、違うのね!こいつが森を燃やそうとするからいけないのね!」

「吸収の魔力ごときじゃ火事はおきないよ。楓さんはそんなことも知らないの?」

「あ、あんた!調子に乗りすぎなのね!佐慈に勝ったからって調子に乗りすぎなのね!!」

「ちょっと待て楓!ここで何で俺の名前が出てくんだよ?ケンカ売ってんのか?あぁ!?」


また始まった口喧嘩に刹那が呆れ返っていると、エマが静かに手をあげた。


「どうした、エマ?」

「質問」

「言ってみろ」

「あなた壁式使い。なんで吸収の魔力を持ってるの?」


エマが言った瞬間、生徒会室が一気に静まり返った。


「た、確かにあり得ないのね!人間1つの魔力特性しか持てないはずなのね!」


それには口喧嘩をしていた楓も食い付いてきた。


「あり得ないと言っても実際ここにいるわけだ。理由があるのだろう?」


その瞬間、薫の顔に陰りが見えたのを刹那は見逃さなかった。


「すまない。野暮なことを聞いてしまった。忘れてくれ」

「いえ、いつか誰かに聞かれるとは思ってましたから。いいでしょう。お話しします、って言ってもそんなに大した話じゃないですけど」


薫はそう言って笑ったが、やはりどこか元気がなかった。きっと思い出したくないことなのだろう。


刹那はそう思い、本当に野暮なことを聞いてしまったと後悔した。


薫もまた覚悟を決める。


交流戦のあと、結城たちに同じことを聞かれた時にはただの特異体質だと言ってごまかした。しかし、今から話すことは真実だったからだ。


「小さい頃に家族で小旅行に行ったんです。熱海の方の温泉に。その帰り道、新幹線に乗ってたら脱線事故が起こったんです。知りませんか?新横浜脱線事故のこと?」


そう言われた瞬間、刹那の脳裏に一つのニュース番組が思い起こされた。


小さいながらにしっかりと教育されてきた刹那は、今でもまだそのニュースのことを覚えていた。


ただの事故として処理された、あの出来事を。


「あのとき、俺は心臓に鉄骨が突き刺さりました。まあ致命傷ですよね、心臓に鉄骨が刺さったんですから。あまりの大怪我に再生治療は間に合わない。そう判断した医者は移植手術を施しました。それ以来どういうわけか俺に吸収の魔力が生成できるようになったんです。きっとその心臓の持ち主が炎式の使い手だったんだと思います」


刹那は「なるほどな」と呟いた。


確かに心臓移植を受けた人間が魔力を生成できるようになったという事例は過去にも数件あった。


どれも眉唾物だと思っていたがまさか本当だったとは。


「ちなみにその心臓は誰のものだったんだ?」


刹那の問いに薫は首を振って答えた。


分からない。ということなのだろう。


半世紀前ならまだしも個人情報の規制が厳しくなってきた現代では心臓を提供してくれた人物の特定すら困難になっていた。


「なかなか信じられない話なのね。あんたにそんな過去があったなんて」

「楓!」


それは言い過ぎだ。と言わんばかりの口調で刹那は言った。


だが薫は特に気にした様子もなく軽い口調だった。


「それなら傷痕を見てもらって構わないよ。それとも親の墓でも拝んでみるか?」


「まさか…」


その言葉に楓は言葉を詰まらせた。


今の薫の発言から、行き着く先は1つしかなかったからだ。


「死んだよ、どっちとも。事故でポックリ逝きやがった。俺1人を残してね」

「ご、ごめんなさいなのね…」

「気にしないでよ、楓さん。もうあれは過去のことだ。過去に囚われるほど俺は弱くないさ」


薫は優しい口調だったが、それでも楓は今にも泣きそうな顔をしたまま俯いてしまった。


さて、どうやって慰めようか。


薫がそんなことで悩み出すと、今度は刹那が口を開いた。


「どんな過去があったにせよ、今のお前には関係ないのだな」

「はい。俺には関係ありません。ただ…」


不意に薫は優しい顔つきに変わる。


慈愛のこもった、全てを包み込むような優しさを持った表情に。


「詩織には、この話はしないでください。というか吸収の魔力について触れないで欲しいんです」

「1年の東雲 詩織のことか。それは構わないが何故なんだ…っと。これもまた野暮なことを聞いたな」

「いえ。そもそもうちの家族が小旅行に行ったのは詩織の誘いがあったからなんです。うちの家族と詩織の家族は仲が良くて、それで一緒に行かないかって。結局、事故にあって死んだのは俺の両親だけ。詩織とその両親はかすり傷程度でしたから」

「なるほど。君の両親が死んだことをひどく気にしているみたいだな。いや、自分のせいって思っているのか」


薫は無言で頷き、窓の外に見える学生寮を見つめた。


「あいつは優しすぎる……全てを1人で背負いこもうとしているんです。詩織には笑顔が似合いますから」

「ふっ……そういう君はずいぶんとその娘のことを大事にしているみたいだな。いや、それとも好意を抱いているのか」

「否定は…しませんよ」

「それでいいさ」


刹那はそこで1つ深呼吸をすると、再び薫を見つめた。


真剣な表情で。


「そんな君にお願いがある。この生徒会に入ってはくれないか?」


もちろん二つ返事が返ってくる。


刹那はそう思っていたが、薫の口から出た言葉は予想外のものだった。


「イヤです」

「何だと?」


思わず口調が激しくなったのに自分でも気付き、刹那は心を静めた。


ここで激しく反応してはいけない。冷静に対処しなければ彼はこちら側に靡かないと判断したからだ。


「理由を聞きたいな」

「簡単ですよ。俺が生徒会に入るメリットがないからです」


薫は軽々しく言ったが、刹那は聞き捨てならなかった。


生徒会に入ってメリットがないわけがないからだ。


「俺は詩織と平和に過ごせればそれで満足です。わざわざ自分から危ないことに突っ込んでいくほどバカじゃありませんよ」

「それはどういう意味だ?」

「そのまんまの意味です。ここの生徒会…いや、学校はなかなか危ないことをやられているみたいで。いやいや俺にはそんな恐ろしいことできませんよ」

「貴様…どこまで知っている!?」


刹那は思わず立ち上がり、激しい口調で言った。


いや、言わなければならなかった。


この学校の情報規制は完璧のはず。だがもしそれを薫が知っているとなれば、それなりの対応をとらなければならないのだ。


だがら刹那は願う。


ただのハッタリであってくれと。


「何をしているかは知りません。ただ何かをしているということは知っています」


そしてその願いは無事叶えられることになった。


「この学校の情報規制はだいぶ厳しいみたいで少し調べたくらいじゃ何も分かりませんでした。ただ、この学校の雰囲気と生徒会の異様さ。それに今の会話で確信するには十分ですから」

「なるほど、今の私のリアクションで確信を得たのか。なかなか君はズル賢いようだな」

「おかげさまで。人は疑ってかかれって教えられたもんでね」

「まったく…意外と厄介な性格をしているんだな」


刹那は精一杯の皮肉を込めて言ったつもりだったが、薫は肩をすくめるとシニカルに微笑んだ。


「できれば聞かせてもらいたいんですよ。この生徒会が何をするつもりなのか」

「聞けば生徒会に入るのか?」

「内容次第……ですかね?」

「入らないと言われて、見逃すと思っているのか?」

「見逃されなくても逃げ出しますよ」


さっきまでのしんみりとした空気から一瞬にして、生徒会室の空気が重くなる。


睨む刹那と微笑む薫。


2人は対照的な表情を浮かべしばらく見つめあった。


「やめとけよ、会長」


だが今にも飛びかかりそうな刹那をとめたのは意外なことに佐慈だった。


あの好戦的な性格の佐慈が戦いを止めるというありえない行動をしたことに、刹那は素直に驚いた。


「俺がそいつと戦ったのは知ってると思うけどよぉ…実はこてんぱんにやられたんだよ。あぁ胸くそ悪いこと思い出させやがってよぉ!!」


自分で言ってイライラしてきた佐慈は、たまらず横に立っていた透を睨んだ。


透はその剣幕に「ヒィッ!」と小さく悲鳴をあげると二歩ほど後ろに下がっていた。


なに八つ当たりしてんだぁ…俺。


「ちっ…まあ敗けたのは事実だ。手も足もでなかった。それに見たことのない魔法まで使いやがって…。こいつぁエマより優秀な壁式使いだぜ」

「見たことのない魔法だと?」


ピクリ、と刹那が反応する。


同時にエマが立ち上がり、薫の目の前へ歩み寄った。


「見たことのない魔法」

「ふぇ?」


いきなり何の前触れもなしに発せられた言葉に薫はすっとんきょうな声を返していた。


「見せて。見たことのない魔法」

「え、ああ。ここで?」


薫の問いかけにエマは無言で頷いて答えた。


どうやら彼女はあまり喋らない人種らしい。


薫は今のやりとりでそう判断すると「分かった」と言って頷いた。


「じゃあ行きますよ」


薫は自分1人に集中している視線に、耐えながら魔力を練り込んだ。


そして誰も知らない、薫にしか使えない魔法を使役する。


白い光りの粒子が奔流し、一瞬にして薫の手に白い結晶が握られていた。


否、それは白い光りを放つ剣だった。


そのあまりの美しさに生徒会の人間全員が言葉を奪われ見とれていた。


ただ1人、佐慈だけが「チッ」と悔しそうに舌打ちをした。


「これはあの時使った魔法じゃないんですけど、まあ似たようなものですね」


薫は当たり前のように言うと、2、3回その場で素振りをして見せる。


その度に剣が振られた道筋を白い光りが撫でていく。


「キ、キレイなのね」


ようやく我に戻った楓がたどたどしく言葉を紡いだ。


「それはいったい…何なんだ?壁式魔法なのか?」

「違う」


刹那の言葉を否定したのは薫ではなくエマだった。


「こんなの壁式魔法にはない。壁式魔法に攻撃魔法はないから」

「ん?先輩は壁式使いなんですか?」

「そう。あなたと一緒」


エマは無表情のまま、だがどこか嬉しそうにそう言った。


「だけどこんな魔法みたことない。これはいったい何?」

「これは、というよりそこの先輩との勝負で使った魔法は、守護領域のように短距離に高濃度魔力を散布して魔法を使えなくするんじゃなくて、高濃度魔力を結晶体として凝縮させ、単一方向に良く効くように改良したものですよ」

「魔力が結晶体になるなんて聞いたことがない」


エマはなおも無表情のまま薫に言った。だが薫は微笑むと、否定の意味を込めて首を振った。


「そんなことありませんよ。リジェクトだって守護障壁だって分かりにくいけど一種の結晶体です。その証拠に姿形がちゃんと見えるでしょう?それに気づいた俺はさらに魔力濃度を高めることで新しい魔法が作れると思ったんですよ。その結果が」

「それ?」


薫はエマの言葉に頷き、さらに言葉を繋げた。


「だけどただ結晶体にしたんじゃ魔法の効果が極限定されてしまう。だから俺はその結晶体から常時高濃度魔力が溢れ出るようにしました。結果、守護領域のような空間凍結能力を持った物理攻撃が可能な魔法が生まれたんです」


薫の話し方はまるでそれが当たり前であるかのようだったが、ここにいる全員がそれがいかに凄いことであるかを理解していた。


佐慈がこてんぱんにやられたというのも頷ける。


「短域系長距離魔法と言ったところか…」

「口で言うほど簡単じゃないですけどね。あ、なんなら教えてあげましょうか?」

「ま、待て。それほどの魔法、なぜ国際魔法会に提出しない!?確実に三十…いや、四十番台は貰えるぞ!!」


世界中の全ての法式が詰め込まれた国際魔法会の魔法ブックに、自らが生み出した魔法が乗るというのは魔法使いにとってとてつもない名誉になる。


それこそ生きていくのに不自由しないぐらいの富が手にはいると言っても過言ではない。


だが薫は静かに首を横に振った。


「詩織と一緒にいるのに、富や名誉は必要ありませんから」

「バカな…」


刹那は明らかに落胆した様子で呟くと、勢いよく腰を下ろした。


私には分からない。何故彼が富や名誉をいらないというのかが。


富や名誉など、決して持っていて損をするものではない。だが彼はそれすらもいらないというのだ。


だが薫は教えられたのだ。強すぎる力は争いをうむことを。


だから国際魔法会には提出しない。自ら編み出した魔法が争いに使われるなど薫は望んでいない。


「本当に、私には分からんよ」

「へっ、俺は好きだぜ。そういうの」

「……佐慈」

「いいじゃねぇか、富や名誉なんて。息苦しくて仕方がねぇ。自分が欲しいものだけ手に入れて生きる。はっ!素晴らしいじゃねぇか」


佐慈は熱のこもった口調で言うと席を立ち上がり、薫の前に立った。


「おめぇとはいいダチになれそうだ、秋津……いや、薫」

「まあ友達はたくさんいても困るもんじゃないからね」


薫は肩を竦めながら言うと差し出された佐慈の手を握り、握手をかわすのだった。




ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ




「まったくいやはや、良い意味で予想外過ぎる力を持ってるな。彼は」


結局、薫の生徒会入りについてはまた後日となり、生徒会室から薫の姿はなくなっていた。


「彼が生徒会に入らないと言ったのには驚いたが、それよりもあの魔法だ」


刹那はそう言って目をつむると、あの美しすぎる白い光りを放つ剣を思い出していた。


あの力、世に出さないには本当に惜しすぎる。


「何としてでも生徒会に入ってもらいたいものだ」

「それよりもまたあいつと一戦交えたいもんだ。さっきは油断したがあいつの力が分かりゃあ敗けはしねぇ」

「佐慈は口を開けばすぐそれだな。だが今回ばかりは私も同感だ。あの力…想像するだけで高揚してくるよ」

「こりゃまた珍しいこってぇ」


佐慈は目を丸くして驚くとバカにしたように呟いた。


あの刹那がこんなことを言うなど年に一回あるかないかぐらい珍しいことなのだ。


「ふっ…何だかんだ言っても私とて戦士だ。強敵を目の前にして武者震いしないほど落ちぶれてはいないさ」

「勝算はあんのか?」

「ないと言えば嘘になる。いくら彼が優秀でも所詮壁式使い。恐れるに値しない」


そう言った刹那の目にはかつてない闘志の色が見てとれた。


今にも食いつきそうな、貪欲なまでの闘志が。


「こういうときに、生徒会は便利だと思わないか?」

「てめぇ…まさか…!?」


その言葉を聞き、佐慈の目の色が変わった。


「俺の獲物を奪う気か?」

「君は一度戦ったのだ。一回ぐらい私に譲っても異論はあるまい」


そう。ここは生徒会。


学校の治安を守るために創設された、由緒正しき組織なのだ。


「楽しみだよ、秋津 薫。君と一戦交えるのが。私の人生でこんなに楽しみな出来事はきっと今までなかった。君に出会えたことを、私は神に感謝しよう」



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