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第一章〜生徒会との邂逅。なのねッ!!〜

この物語はフィクションです。

今年、創立29年を迎える魔法高の中央に位置する階段を上がり4階に行くと、そこには重厚な扉が待ち構えている。


扉を開けるとそこは広々とした全体会議室となっており、そしてそのさらに奥にある扉。そこにはこの学校の治安を維持していると言っても過言ではない生徒会室がある。


生徒会室はその名にふさわしくないソファーやテーブル、何故か甲冑が置いてあり、まるで西洋の屋敷のようなつくりになっていた。


「さっそくだが会議を始める。今日の議題は単純明快、1年E組の秋津 薫という生徒についての処遇だ」


そのさらに奥にある小会議室で、あまり良くない会議が始まろうとしていた。


「処遇ねぇ…はっ、どごぞの大罪人でも裁くつもりかよ。ずいぶんと物騒だなぁ、おい」


赤髪と切れ長の目が特徴的な寿 佐慈は、今にも食い付きそうな剣幕で呟いた。


「佐慈、すまないが今君の相手をしている場合ではないんだ。できれば私語は慎んでくれると私もありがたい」


だが、生徒会長でありこの場をしきる長でもある一色 刹那は特に意に介した様子もなく淡々と呟いた。


確かに刹那の言う通り、大事な会議をしなければならないこの場において、佐慈の発言は場を乱すだけの行為だ。


だからこそ刹那の言葉は逆効果だ。


「あぁ?やんのか、てめぇ…そういやぁお前との勝負も引き分けばっかだからなぁ、そろそろ決着つけてぇよなぁ!!」


好戦的な性格をしており、あり得ないまでに勝利と生に執着している佐慈にとってその言葉は挑発以外の何でもなかった。


「会議の邪魔」


だが今にもマポレツールを引き抜こうとしていた佐慈にポツリと声がかけられた。


千葉利 エマである。


「ちっ…まあいいさ。てめぇとの勝負はまた今度だ。さっさと処遇とやらを決めやがれ」


佐慈は舌打ちすると悔しそうな表情をしながら両手を広げ席についた。


佐慈は彼女には逆らえない。


否、やろうと思えば出来るのだがそれは時間を潰すだけの無駄になることを知っていたのだ。


その理由こそ、この会議の題材に薫が上がっている理由にも繋がっている。


「なに、処遇と言ってもそんなにたいしたことじゃない。ただ彼をこの生徒会に勧誘するかどうかだ」


「強制の間違い」

「はっ、違いねぇ」


佐慈はゲラゲラと愉快に笑ったが、エマの言葉を聞き刹那は苦笑した。


「私だって自分のしていることに納得しているわけではない。だが学校の伝統に従わないわけにはいかないのだよ。君たちなら分かるだろう?佐慈、エマ」

「おいおい、俺たちまで同罪にすんなよ、エセ生徒会長さんよぉ」

「言い過ぎ。…だけど同感」


刹那は2人の顔を見ながら盛大にため息をついた。


「やはり君たちは優秀だ。人としても、もちろん魔法使いとしても、だがね。だからこそわかってくれると信じている。優秀な壁式使いは戦闘においてとてつもないアドバンテージになることを」

「エマが生徒会に入ったのもそれが理由だったなぁ。お前、おかしいって思わなかったのかよ?」


佐慈はニヤリと意地悪く微笑むとエマに言った。


「別に。私は気にしない」


だがエマはとくに気にするようもなく淡々と言い返すのだった。


その態度が面白くなかったのか「へぇへぇ。そうですか」と言って首をふった。


「もうすぐ新入生が入学して2週間が経とうとしている。となると、何があるかは分かっているな?」

「んなもん特にねぇよ。いつも通り過ごしておしまいだ」


佐慈はそう言ったが刹那は首を縦には振らなかった。


「歓迎会」


その刹那に向かってエマがギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいの声でポツリと呟いた。


「その通りだ、エマ。まったく佐慈は本当に生徒会役員なのか疑いたくなる」

「うっせぇ……歓迎会までにその秋津 薫に生徒会に入ってもらいたんだろ。どうやんだよ?」


バツが悪そうな佐慈の言葉を聞き刹那は薄く微笑んだ。


「楓が接触に行っている」


その言葉によほど驚いたのか、佐慈の瞳がパッチリと開いた。


「楓が?直々に?嘘だろ?あいつがんなめんどいことを引き受けたのか?」

「引き受けたのではない。志願してきたのだ」

「…はっ!副会長様はよほどその秋津とやらが気に入ったみたいだな」

「気に入らないのか?」

「そういうわけじゃねぇ。珍しいこともあるもんだって言いてぇんだんよ」

「否定は…しない」


佐慈はニヤリと笑うと窓の向こうに見える学生寮に視線を移した。


「魅惑の薔薇、三呉 楓。こいつに目をつけられちゃあそいつもおしまいだな」


そう言った佐慈の目には憐れみと同時に、どこか楽しそうな色が宿っていた。




ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ




「はっ!」


自分の部屋でぐっすりと眠りについていた薫は、急に襲ってきた寒気に慌てて目を覚ました。


「なんだ…今の寒気は……」


薫はキョロキョロと部屋の中を見回したが、特に変わった様子はなかった。


いや、部屋の飾りが明らかに女物に染まってきているのだがそれは詩織のものだから特に気に止めていなかった。


「んー…薫ちゃん、うるさいよぉ」

「あ、悪い」


時計を見てみると時間はまだ午前8時30分。


せっかくの休日だというのに明らかに早起きだ。また寝ようかとも思ったが完璧に目が覚めてしまい無理だった。


「仕方ない、散歩でもしてくるか」


薫は詩織を起こさないようにソッとベッドを抜け出すと、ラフな服装に着替え部屋を出た。


この学校に入学して2週間。いろんなことがあった。


というより、A組との交流戦のせいで薫はかなり有名人になっていたのだ。


A組の生徒を倒した怪物とか、実は四院家から破門された天才児とか、政府が造った人造人間だとか、敵国のスパイだとか。


後半の噂話はもはやファンタジーじゃねぇか。


さらには噂だけではなくE組にまで見に来るうえに、薫が移動すればその背後にぞろぞろと付いて回ってくるため、薫の行動はかなり制限されていたのだ。


何とも息のつまる話だ。芸能人か何かと間違えてるんじゃないのかと疑いたくなってくる。


「ま、俺が蒔いた種だから仕方ないか」


あの時の薫には敗けるという選択肢ももちろんあった。


だがそれをしなかったのは桐埜自信に気付いて欲しいことがあったから、認めてもらわないといけないことがあったのだ。


それをしない限り、詩織と桐埜が本当の友人になることはなかっただろう。


だがそれも今となれば過去のはなしだ。


「なるほど…。詩織がキリノと親友になれたのはいいけど、まためんどくさいことになりそうだな」


薫はたどり着いた広場の中央で立ち止まると、ゆっくり瞳を閉じた。


精神を集中させると己の中に蓄積されている吸収の魔力を手に送り込んだ。


深く、深く。さらに深く。


―――いまだッ!!


カッと目を見開きその手を隣の森へと突き出した。


薫の手から放たれた赤い光の粒子は次第に灼熱の炎を発しながら森を焼き始める。


炎は木から木へと燃え移り、さらにその範囲を拡大させていく。ここに他者がいたら「火事だっ!」と騒ぎ出すことだろう。


だが薫は何もせずにただその光景を眺めているだけだった。


刹那、巨大な水の塊が森の中からあらわれ、燃える木々を消火し始めた。


それは一瞬にして炎を消し去ると、よくもやったなと言わんばかりに今度は薫を攻撃し始める。


薫は水の弾丸をヒョイッと避けたが、次々と向かってくる弾丸を回避しきれずにその身で受けた。


「ってぇなぁ……。いったい誰だよ、ったく…」


薫は水の弾丸を体で受けたにも関わらず、まるでダメージをうけていないと感じさせるぐらい軽い口調で言うと、頭を護るように動かしていた腕を解いて自らの体をチェックした。


ところどころ服は破けていたが、体自体にダメージはなかったようだ。


「あーあ。このシャツ詩織から貰ったやつなのに、怒られるじゃないか」


確か……去年の誕生日に貰ったやつだ。


あいつは何が楽しいのか分からんが誕生日やクリスマスには決まってプレゼントをくれる。


いやいや、プレゼントを貰えるのが嬉しくないわけじゃない。ただ何故だが知らないが普通のプレゼントの他にシャツがついてくるのだった。


「お前、詩織に怒られたらちゃんと弁護してくれよ」


薫は焼け焦げた森にいるであろう謎の人物に向かって声をかけたが、返ってきたのは無言による静けさのみだった。


ふむ。どうやらいないふりをするみたいだ。


なら…。


「また森燃やすけど、いいよな?」

「良くないのね」


ようやく観念したのか、それともまた森を燃やされたくないのかは分からないが、森の中から女の声が聞こえてきた。


「あまり感心しないのね。森を燃やすなんて大事な大事な地球様に対する愚行なのね。あんたは地球様の有り難みをちっともわかってないのね」

「生憎、地球に生まれて良かったことなんて数えるほどしかないんでね」


薫が肩をすくめながら自虐的に呟くと、森の中から1人の少女が姿を現した。


小さい…。


それがその少女の第一印象だった。


いや、小さいって身長とかその他諸々の発達も含めてだけどね。


身長は150cmないぐらい。胸だって全然発達してないし顔だって童顔。


どう見たって中学生…いや、小学生だ。


もしかしたら本当にそうなのかもしれないな。


「うん、きっとそうだ。間違いない」


「あんた、今絶対失礼なこと考えてるのね。私とあんた初対面なのに礼儀がなってないのね」


おっと、どうやらなかなか鋭い感性を持ってるみたいだな…って、んなこと考えてる場合じゃないか。


薫は首を横にブンブンと振ると、再びこの少女のことを凝視した。


やっぱり小さい……じゃなくて見たことのない人だ。


「君、だれ?」


悩むのはやめだ。


薫はそう判断するとあっさりと少女に向かって尋ねた。


「私?私は三呉 楓なのね。この学校の、偉大なる生徒会副会長様なのね」


楓はフフン、と鼻で笑うと胸を張りながら誇らしげにそう言った。


きっと本人にとってそれは精一杯の見栄をはるための行為だったのかもしれない。だけどない胸を堂々と張られても逆に寂しく感じるだけだった。


いや、それよりも三呉……か。


四院家三の字、三呉家で間違いないだろう。


だとすればこの敷地内にいて生徒会副会長を務めているというのも頷ける。


だが、もしそうだとすれば。


「その偉大なる生徒会副会長様が俺に何の用?」

「まぁ!年上に向かってタメ口とはなんなのね!教育がなってないのね!!」

「はいはい、すみませんでした。で、何の用なんですか?」


楓は「それでいいのね」と言い深々と頷くと、薫をビシッと指差した。


「聞いて驚くなかれなのね。私はあんたを生徒会に勧誘しに来たのね!」

「……」

「来たのね!!」

「……」

「…な、なのね!!」

「……」

「…う、うにーッ!!何か言ってくれないと寂しいのね!!」


ああ、ついに出てきたよ。この傲慢チックな展開。


相手がまだロリスタイルだったから良かったけど、これをキリノにやらせたら手も足もでないんだろうな。あいつ絶対Sだろうからノリノリでやるに決まってる。


その姿を想像した薫はあまりの恐怖に思わず身震いしたのだった。


「い、いつまで無視してるのね。いい加減怒っちゃうのね!」


さすがに楓も我慢の限界なのかその大きな目を涙でウルウルさせており、今にも溢れだしそうになっていた。


でもあれだ。こういうタイプは無視するに限るってだいたい相場は決まってんだよな。


「ん?ああ、もう9時か。そろそろ詩織を起こしてやらないとな。やっぱり休日だからって部屋でゴロゴロしてるのは良くないよな!」


薫は明らかに行き当たりばったりの嘘をつくと、楓に背を向けて歩き出した。


「ま、待つのね!せめて話だけでも聞くのね!」

「さて、今日は何をしようかな。そうだ。せっかくだから詩織を誘って街にでも遊びにいくか」

「うぅ…ぐす。お願いしますなのね。せめて話だけでも聞いてくださいなのね。……うぅっ…」

「……」


泣かれてしまった。いや、この場合は泣かせてしまったになるのか?


さすがに放置していくのは可哀想だ。


薫は歩みを止めると頭を掻きながらおもむろに振り返った。


「分かった。話聞いてあげるから泣き止んでよ」

「うぅっ…ありがとうなのね。あんた、意外といいやつなのね」

「そりゃどうも…」


めんどうなやつに捕まったなぁ…。


薫は青々と広がる空に向かって、1人愚痴を溢したのだった。




ΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞΞ




楓の泣きにやられた薫は、人目につきやすい中央広場からあまり人の訪れないと言われている(楓談)闘技場横の小さな広場に移動していた。


実技魔法部の部室兼グラウンドでもある闘技場は直径100メートルほどの円になっており、周囲を金網によって囲まれている。もちろん実際に競技を行う場合には、魔法による外部への影響が出ないように特殊な装置によって結界が張られている。


それにしてはちんけな結界だな。


薫は結界の存在を確認した瞬間、そう判断した。


結界とは大層な名前をつけたがおそらく三十番台の魔法にはその意味をなさないだろう。


それとも三十番台を使わないという前提のもとに造られたものなのだろうか。


「ま、どっちにしても安物にはかわりないか」

「ん、どうしたのね?」

「ああ、いや。この結界のこと。ずいぶんと安物みたいだけど、なんで?」

「よく気付いたのね!…って言ってあげたいけど、あんた魔法国体のこと知らないのね?」

「魔法国体…ね。存在は知ってるけど中身までは知らないな」


とりあえず国体の魔法使いが参加できるバージョンってことぐらいしか薫は知らなかった。


それは20年ぐらい前に始まった競技で、魔法使いにとってはありがたい、一般人にとっては魔法の力をまざまざと見せつけられるということで賛否両論が飛び交ったらしい。


結局、魔法使いだからといって差別するのはよくないということで可決になったのだった。


「ここはその魔法国体で唯一魔法使いによる競技が行われる実技魔法競技の会場をそっくりそのままコピーしたものなのね」

「実技魔法ね。参加するには実技魔法部に所属してないといけないのか?」

「そんなことはないのね。優秀な魔法使いを学校、というより生徒会が選んで任命するのね」


それじゃあ実技魔法部の面子が丸潰れじゃないか。


薫は一瞬だけそう考えたがすぐに納得した。


「つまり実技魔法部は魔法国体の前だけ活動する部活ってことか。なるほど、だからいつもはここに人が集まらないわけだ」

「その通りなのね」


だったらこの前の交流戦もここでやればよかったのに。先生は少しばかり頭が弱いみたいだった。


2人はそれ以上の言葉を交わさずに、ベンチに腰掛けた。


「じゃあ改めて自己紹介なのね」


楓はスッと立ち上がると薫の前で綺麗にお辞儀した。


「生徒会副会長、及び三呉家次期当主の妹、三呉 楓と申します。以後お見知りおきを」


そこにはさっきまでのふざけた(?)しゃべり方の楓ではなく、三呉家次期当主の妹としての楓がいた。


「あ、俺は秋津 薫って言います」

「存じ上げております」


楓は冷めた声でそう言うと優雅に一礼した。


「あの…その喋り方が素なんですか?」


薫の問いに楓は少しだけ顔を歪ませたが、静かに首を振った。


「…いえ、違います。ですがキチンとした場においてあの喋り方はいささか失礼かと思われましたので」

「だったらその喋り方やめていいよ」

「え?」


楓はかなり驚いたように目を見開くと、薫の顔をまじまじと見つめた。


「いや俺って堅っ苦しいの苦手なんだよね。できればさっきの方が気が楽っていうか…」

「で、ですがこれば、本家のしきたりでして…」

「あ、いや、別に告げ口なんてしないし…っていうか俺がそうしろって言ったんだからそうした方が意思を尊重してるみたいでいいんじゃない?」


楓はしばらくの間、薫の顔をジッと見つめた。


こんな人間…初めて会った。


今まで出会った人物たちは楓が三呉家だと分かった瞬間に媚を売り、取り入ろうとしてくる者たちばかりだった。


もちろん一色家次期当主である刹那や佐慈、エマなど権力に魅力を感じない人はその限りではないが、一般人では薫が初めてかもしれなかった。


そんな薫を目の前にして楓は思わず笑っていた。


「あれ、俺何か変なこと言った?」

「いや、何にも言ってないのね。お言葉に甘えてそうさせてもらうのね」


楓はなおも笑いながらそう言うと、薫の横に再び腰かけた。


「で、話って何?」

「だから最初に言ったのね。あんたを生徒会に勧誘しに来たのね」

「それだけじゃ…ないんだろ?」


その言葉に楓はまたしても目を見開いた。まさかそこまで分かっているとは思わなかったからだ。


「ただ生徒会に勧誘しにきたなら今年の最優秀魔法使いのキリノを誘うはずだ。それをしないってことは俺が、俺の力である壁式が欲しいってことになる。違う?」

「ふぅ。そこまで分かってるなら否定はしないのね。あんたの言うとおり、私は…私たち生徒会はあんたの力が欲しいのね」

「なんのために?」

「それは…」


楓が何かを言おうと口を開いた瞬間、何かを察知した薫は素早く楓を抱き抱えるとベンチから飛び退いた。


「え?ちょ、何なのね!?」


楓が未だに状況を飲み込めず慌てていると、さっきまで2人が座っていたベンチに雷が落ちた。


「今のは…!!」

「誰だか知らないけど…敵、みたいだね」


薫は楓を降ろすと、一歩前に出た。


「どうやら狙いは俺みたいだから楓さんは下がってて。っていうか逃げて」

「な、何言ってるのね!逃げるわけはないのね」

「……じゃあ下がってて。くれぐれも変なことはしないように」


薫は冷めた口調で言うと、辺りを警戒しはじめた。


今のは雷式の長距離魔法…。


俺が知ってる雷式使いは四階だけしかいないが、わざわざ魔法を吹っ掛けられるほど変なことはしてない。


となると…。


「いったいどこのどいつだ?」


刹那、頭上で雷鳴が轟いたのを薫は見逃さなかった。


降りかかる圧倒的エネルギー量を持つ雷をリジェクトで防ぎながら、薫はキッと一本の大樹を睨んだ。


「そこにいるのは分かってる。こそこそしてないで出てきたらどうだ?」

「まさか、今の一撃で敵の居場所を見つけたのね!?」


楓は素直に驚嘆の声を上げ、薫を見つめた。


「あれ?」


だが敵が現れたのは睨んだ場所とは全く違う樹の裏だった。


「やっぱハッタリは間違えると恥ずかしいもんだなぁ」

「だ、騙されたのね!私ったらまんまとあんたに騙されたのね!!」

「いちいちうるさい!騙される楓さんが悪いんだよ!!」


薫は声を張り上げながら言うと、一度だけ深呼吸をして敵を見た。


全身を黒のコートで包んだそいつは明らかな敵意を剥き出しにして、マポレツールを手に持っていた。


だがやはりなんと言っても目を引くのはその純白の仮面だった。


純白に染まった仮面の左目には雷を象ったような黒いジグザグの模様が刻み込まれていた。


「その異様さ。悪を気取るにはピッタリだね」


刹那、敵の体が黄色い光の粒子に覆われ姿を消した。


この魔法は四階と同じ、身体能力を強化する雷式か。


薫は背後から唸りをあげて撃ち込まれる拳を身を屈めてかわすと同時に後ろ蹴りをかました。


だがそれは粒子の奔流を捉えただけで、そこに敵の姿はなかった。


「…やっかい。ホントにやっかいな魔法だこと」


薫はそう呟くとギアを1つだけ上げた。


「もらったぜぇぇぇぇぇ!!壁式使いぃぃぃぃぃ!!」


雄叫びを上げ敵が拳を撃ち込む。だが今度は敵の拳が空を切った。


「な、何ッ!?」

「そこまでだ」


表情までは見えないが明らかに驚いた様子の敵の首根っこを力強く掴みながら薫は言った。


「何者か知らないけど、あんたの敗けだ。ここが戦場ならあんたは今頃、首を抉られてお陀仏だ。だがここは戦場じゃない。それにあんたには聞きたいことがある」

「…ここは、戦場じゃない、だと?」


その言葉を聞いた瞬間、敵を包んでいたオーラが明らかに変わった。


禍々しいまでの狂気へと変貌した。


刹那、敵の体を黄色い粒子が包み込んだ。


「これは…!?」


薫は身の危険を感じとり、敵の首根っこから手を離すとその場から飛び退いた。


「あめぇこと言ってんじゃねぇよ!!」


同時に黄色い粒子は突如としてその姿を雷へとかえ、一気に放電しはじめた。


「くっ…リジェクト!」


たまらずリジェクトを使い、薫はその雷をガードする。


雷は荒々しく鳴り響き、一瞬にしてその場を閃光で包み込んだ。


「あと少し判断が遅かったら黒焦げになってたな…」


自分が黒焦げになる姿を想像した薫は、あまりの恐怖に身震いした。


ったく、これだから雷式使いはイヤになる。


「何ぬかしてんだよ、ガキ。ここが戦場じゃねぇだと?ハッ。こっちはなぁ…戦う時はいつでも死ぬ覚悟でやってんだよ」

「だったらなおさら敗けを認めろよ」

「やだね。俺はまだ生きてる。生きてる間は戦わないといけねぇんだよ!!」


敵は薫と距離をとると、雷弾を放った。


だがそれは薫のリジェクトに軽々と弾かれた。


「どうしても戦うか…なら、圧倒させてもらう!!」


ホントは力で潰すのは美徳じゃないんだが、さっきの放電のせいで誰かに気付かれた可能性がある。


誰かに見つかる前に終わらせなければ。


薫は覚悟を決め敵に向かって急迫した。


「壁式は攻撃がねぇからなぁ、肉弾戦がご希望か!?残念だけど俺はそんなに優しくないんでねぇ!!雷式の二十、雷乱!!」


敵の声と同時に、何本もの雷が薫を穿とうと四方八方から飛来する。


「壁式のニニ、多重守護障壁」


だがそれはいくつも現れた守護障壁によって弾き飛ばされる。


「今のはエマと同じ…ちっ、厄介な野郎だなぁ。えぇ!?おい!!」

「あんたにとやかく言われる筋合いはない!」

「そりゃごもっとも!!」


敵が雷を放ち、薫がそれを防ぐ。


放ち、防がれ。


放たれ、防ぐ。


終わりなき攻防が永遠に続くかと思われたその時、不意に敵の攻撃がやんだ。


「やめだ。この一撃で決める。」


敵はそう言うと、法式の展開を始めた。


今までとは比べ物にならないほどの魔力を練り込まれた雷はゴロゴロと轟だす。


「あれは…ヤバい!」


直感が叫ぶと同時に薫は動き出した。


「邪魔すんじゃねぇ!!」


だが敵の放った雷乱によって前に進むことができない。


「魔法の二重発動まで!?つくづく優秀な敵だな」


薫は素直に称賛の声を述べた。


でも状況は最悪だ。


魔法の二重発動が使える敵に接近することはできない。守護領域もあそこまで魔力を練り込まれたら意味をなさないだろう。


なら、ならどうする?


どうやってあの攻撃を防ぐ?


結局、どれだけ悩んだところで今の薫には選択肢が1つしかなかった。


「死んだら来世でやり直しな!雷式の三一、ジャッジメント!!」


声と同時に突き出された敵のマポレツールから極太の雷が打ち出された。


直径3メートルはあるであろう圧倒的なエネルギー量を持ったそれは、地面すらも抉りとりながら薫へと向かってくる。


「あ、あんた!逃げるのね!」


不意に、今までその存在を忘れていた薫は楓に向かって微笑んだ。


精一杯。大丈夫だと。


「これはあんまり使いたくなかったんだが…仕方ないか」

薫は諦めたように呟くと、迫り来る極太の雷に向かって手をかざした。


「行け…クリスタル」


薫の手から見たことのない純白の輝きを放った結晶体が現れ、極太の雷へと向かって伸びていく。


それは恐れることなく極太の雷へと突き刺り、霧散させた。


「な、なんだ…なんなんだありゃあ!!」


敵は憎しみのこもった声で叫ぶと、ジャッジメントにさらに魔力を送り込んだ。


だがそれでも純白の結晶はとまらなかった。


「ぐっ……があぁぁぁ!!」



薫の手から伸びた純白の結晶は極太の雷を全て消し去ると、敵の腹に突っ込みその体を木に打ち付けた。


「さて、喋ってもらおうか」


薫は木にもたれ掛かったまま動かない敵へと近づき言った。


「もういいだろう?あんたの敗けだよ。それでもやるっていうなら…ホントに殺すよ?」

「…ッ!ちっ、分かったよ。喋ってやる」


そいつはフラフラしながらも自力で立ち上がると、おもむろに仮面を外した。


そこにあったのはまだ若い、薫と変わらないぐらいの年であろう少年の顔だった。


「俺の名前は寿 佐慈。そいつと同じ、生徒会の人間だ」


そう言って敵は…佐慈はニヤリと笑ったのだった。

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