第一章〜教師命令。一番手、秋津!〜
この作品はフィクションです。
「スゴいねキリちゃん!本当に勝負できるなんて思わなかったよ」
「生徒同士の交流を深めたいって言ったら先生もイチコロだったわ。さすがに反対はできないもの」
2人はA組の先頭を陣取り、嬉々と話を続けた。一方E組の生徒はいまさら先生に事情を説明されているところだった。
その中でただ1人、薫だけは明らかに怒った表情を浮かべて、詩織のことを睨んでいた。
「詩織、あなた薫ちゃんに睨まれてるわよ?」
「えーなにー何も見えない聞こえなーい」
「ああ、はい。無視するのね、分かったわ」
怖がるなら最初から賛成しなければいいのに。
桐埜は好きな人に会いたいがためにこの場に来た詩織の気持ちをわからないでいた。でもきっと桐埜でなくとも詩織の気持ちを分かる人など絶対にいないだろう。
それだけ詩織は異常なのだ。盲目でもない。ただ薫を見ていたいという純粋な気持ちなのだから。
「ま、楽しみなのは否定できないけど」
この勝負で薫が詩織に相応しいか見極める。相応しくない場合は全力をもって排除するのみだ。
桐埜はそう決心するとキッと薫を睨んだ。その視線に気づいた薫は再び深く大きなため息をついた。
なんかあの不満面にすっごい睨まれてるんですが……、全く心当たりがない。
確かに昔から詩織のことを狙っている男子に快く思われずにいちゃもんをつけられたことはあった。だが同性である女子からは初めての経験だ。
故にどう対処していいか分からず、薫を悩ませるのだった。
「悩んでもなるようにしかならないか…」
「よし、じゃあ交流戦を始めるとしよう」
西条からの説明が終了した瞬間、再び結城が手をあげた。
「なんだ、四階?」
「俺、一番にやります!」
元気よく、ハキハキとした声で高らかに言った。
「却下だ」
だがそれは西条に一蹴される。
「なんでッ!?」
「お前はまだ魔力が回復してないだろう。そんな状態で勝負してこてんぱんに敗けられたらE組の面子が丸潰れだからだ」
さっきの勝負からまだ10分ちょっと。そんな短期間で魔力が回復するほど人間都合よくできていなかった。
「一番手は大事だからな。俺が指名する。そうだな…秋津、お前がいけ」
「はぁッ!?」
薫は思わぬチョイスに声をあげて反論した。
「俺、やりませんよ。絶対に。魔法実技の評価が下がったとしても、絶対に」
「ダメだ。一番手はお前。これ決定事項。教師命令」
「なんで俺何ですか。俺みたいなカス野郎より優秀な魔法使いなんてたくさんいるでしょ!?ここは国立の魔法学校ですよ!?」
全くもってごもっともだ。反論の余地を残さず、薫は強く拒否の姿勢を見せた。
だが西条も一歩もひかない。それどころかなにがなんでも薫を一番手にしたいという強い意志が見てとれた。
「俺がやったらこてんぱんに敗けてE組の面子が丸潰れになりますよ!?」
「E組に面子なんてあると思うか?」
「あんたが言ったんだろ!!」
「心配するな。お前は自分で思ってるほど弱くはない」
「それはどういう…」
その時、目の前に立っていた西条がいきなり消えた。刹那、背後に熱を感じその場から回避する。
「なんのマネですか?」
薫は問いかける。
だが西条は答えない。
そのかわり、これが答えだと言わんばかりに炎弾を放ってくる。薫はそれを自らの身体能力のみで回避する。
周りの生徒は突如始まった争いに巻き込まれまいと、慌て逃げ出した。
「先生、いい加減にしてください。冗談が過ぎますよ」
「冗談?冗談などではない。俺がお前の力を引きずり出してやろうというのだ」
「引きずり出すぅ?」
「お前に新しい世界を見せてやると言ってるんだ」
「その必要はありません」
スゥッと透き通るような声とともに突き出されたのは、マポレツールの先端だった。
自分の身長よりも長いマポレツールをかざした詩織は、澄まし顔のまま薫と西条の間に割って入った。
「邪魔をするな。俺は今秋津と話をしているところだ」
「拒否します」
詩織はいつもの甘えた雰囲気ではなく、凛とした口調で言った。
「拒否…だと?」
その単語に西条はピクリと反応した。
やはり先生として生徒になめられるわけにはいかないのだろう。西条の口調が厳しいものにかわる。
「なぜだ?」
「薫ちゃんはあなたに指導を受けて魔法が上達するほど弱くはありません。あなたの指導で得るものは皆無です」
「ふっ…何を言っている。秋津は間違いなく出来損ないの魔法使いだ。その証拠にE組の生徒として入学してきてるじゃないか」
「入学試験が薫ちゃんのレベルにあっていないだけです。実戦ならば誰一人薫ちゃんに魔法をあてることはできません。その証拠に…」
そう言って詩織はニヤリと笑った。
「私は薫ちゃんに勝ったことがありませんから」
その言葉を聞いた生徒たちは、我先にと騒ぎ出した。
それもそうだ。A組の魔法使いがE組ごときの魔法使いに勝てないなど100%あり得ないからだ。
もちろん結城のように由緒正しき家系に生まれたのならあり得ないこともないが、なんせ薫はただの平民だ。
しかも詩織は超がつく美少女。そんな恵まれた人物が落ちこぼれに勝てないなどあってはならないのだ。
実際美人は関係ないけどそれぐらいスゴいことなのだ。
「有り得ないな。そんな嘘を簡単に信じるほど俺はバカじゃない。だがそれでま本当だと言い張るなら、なおさら戦うべきじゃないのか?俺とじゃなくていい、A組の生徒と」
「そうですね。そういうことなら私は反対しません。むしろどんどんやって格好いいところを見せてほしいぐらいです」
「ね、薫ちゃん」と言って詩織は振り返った。
「ね、薫ちゃん。じゃねぇよ。お前止めに来てくれたんじゃないのかよ」
詩織はハッとした表情になり、しばらく考え込んだあと、「ごめんね」と言いながら舌をだした。
ごめんねじゃねぇよバカ野郎。
可愛いじゃねぇかバカ野郎。
薫は心の中で白旗を掲げると、大きなため息をついたのだった。




