血痕・死・漸々(ようよう)
時をかける愚か者たちの話。
まただ。何度目のタイムリープだろう。
恭平は目の前にいるウェディングドレス姿の莉央の顔を見てため息を吐きそうになった。
この後の夫婦生活で、莉央は二人の共通の友人である健二と不倫をする。
タイムリープをする度、恭平は愛する妻の不倫を止めようとした。
しかし莉央と健二は引き寄せられるように何度も不倫を繰り返し、そして恭平、莉央、健二が揃った瞬間、再びこの結婚式の日に戻される。
不倫を止められればこのタイムリープも終わると信じてきたが、何度タイムリープしても結果は同じだった。
莉央を愛しているのに、どうして、どうして。
繰り返される日々に疲弊した恭平は、段々と健二を憎むようになった。
あいつさえいなければ、と恭平は健二に対する憎悪を募らせていった。
そうして繰り返されるタイムリープの中、遂に限界が来た。
健二を殺そう。
どうせ殺してもまた時間が戻ってしまうのだ。
それなら一矢報いる為に一度くらい殺してしまっても良いじゃないか。
たとえ時間が戻らなかったとしても健二をこの世から消せるなら警察に捕まろうが構わない、と思うほど恭平の精神は壊れかけていた。
タイムリープしているのは自分だけ。
全てを知っているのは俺だけだ。
恭平はいつものように控えめに笑った。
***
まただ。何度目のタイムリープだろう。
莉央は目の前にいるタキシード姿の恭平の顔を見て思わず顔を顰めた。
この後の夫婦生活で、恭平には多額の借金がある事が判明する。
恭平は昔から羽振りがよく、金持ちだと思って結婚までした莉央はその事を知った瞬間から恭平と離婚して不倫相手の健二と一緒になるつもりだった。
しかし健二との不倫がバレてしまい、こちらが圧倒的に不利になってしまった。
慰謝料なんて払うものか。
しかし偶然か必然か恭平、莉央、健二が揃った瞬間、再びこの結婚式の日に戻される。
楽な生活ができると思って結婚したのに、何度時を繰り返しても結果は同じ。とんだ結婚詐欺だ。
莉央のことを愛してる、健二と別れるなら慰謝料は請求しないと恭平に毎日言われるが、金のない男に興味などない。反吐が出そうになる。
繰り返される日々に疲弊した莉央は、段々と恭平を憎むようになった。
あいつとさえ結婚しなければ、と莉央は恭平に対する憎悪を募らせていった。
そうして何度も繰り返されるタイムリープの中、遂に限界が来た。
恭平を殺そう。
どうせ殺してもまた時間が戻ってしまう。
それなら一矢報いる為に一度くらい殺してしまっても良いじゃないか。
たとえ時間が戻らなかったとしても、恭平をこの世から消せるなら警察に捕まろうが構わない、と思うほど莉央の精神は壊れかけていた。
タイムリープしているのは自分だけ。
全てを知っているのは私だけだ。
莉央はいつものように朗らかに笑った。
***
まただ。何度目のタイムリープだろう。
健二は恭平と莉央の結婚式会場の前で空を仰いだ。
二人が結婚した後、健二はほんの出来心で莉央と不倫をした。
しかし暫く不倫関係を続けていた頃、職場で新しい彼女ができた。
彼女とは結婚も考えていたので早く莉央とは別れるつもりだった。
しかし偶然か必然か恭平、莉央、健二が揃った瞬間、再びこの結婚式の日に戻される。
何度時を繰り返しても莉央からは毎日のように健二と一緒になりたい、恭平と別れるから結婚してくれと縋られた。
そして新しい彼女の影を見つけるとより狂気的に健二に執着するようになった。
繰り返される日々に疲弊した健二は、段々と莉央を憎むようになった。
あいつとさえ不倫しなければ、と健二は莉央に対する憎悪を募らせていった。
そうして何度も繰り返されるタイムリープの中、遂に限界が来た。
莉央を殺そう。
どうせ殺してもまた時間が戻ってしまう。
それなら一矢報いる為に一度くらい殺してしまっても良いじゃないか。
たとえ時間が戻らなかったとしても、莉央をこの世から消せるなら警察に捕まろうが構わない、と思うほど健二の精神は壊れかけていた。
タイムリープしているのは自分だけ。
全てを知っているのは俺だけだ。
健二はいつものように明るく笑った。
***
「──それではお二人に祝福のメッセージをお願いします。」
司会の女性が笑顔で促すと、健二はマイクの前に立った。
恭平と莉央、そして参列者が見守る中スポットライトを浴びた健二が手紙を読み始める。
「ご結婚おめでとうございます。
昔から二人を知ってる僕としては何だか不思議な気分です。あの頃は──」
健二の言葉を冷めた眼差しで見詰める恭平、それとは対照的に健二を愛情の籠った目で見詰める莉央。
側から見ればとても感動的なスピーチで、参列者の中には涙を滲ませる者もいた。
「──以上です。恭平、莉央さん、本日はご結婚本当におめでとうございます。」
健二のスピーチが終わると、会場中で割れんばかりの拍手が起きた。
とても感動したとばかりに恭平と莉央は健二に駆け寄る。
その瞬間。
恭平はタキシードの内ポケットに潜ませていたバタフライナイフを、健二はスーツの袖に隠し持っていた果物ナイフを、莉央はブーケの華やかな花々の間に忍ばせていたアイスピックを手に取り、同時にお互いの首に深く刺した。
恭平は健二を。
健二は莉央を。
莉央は恭平を。
──なんで、お前が?
三人は憎しみと驚愕の表情でその場にゆっくりと崩れていった。
首から勢いよく噴き上がった血飛沫がライスシャワーのように三人に降り注ぐ。
会場は悲鳴と混乱に包まれた。
タイムリープはもう起きなかった。
〈終〉




