曜日別の彼女たちと共闘し、四股クズ男を社会的・精神的に除霊してやった話 〜女の敵は女じゃない、お前よ〜
「ヤマトくん、忙しいんだよね……。金曜の夜から土曜までしか会えないなんて、寂しいな」
そんな殊勝なセリフを吐いていた自分を今すぐシュレッダーにかけてやりたい。
私の名前はアオイ。現在浮気中という彼氏・ヤマトの部屋に合鍵を使って不法侵入……もとい、正当な「浮気パトロール」を敢行中である。
「金曜の夜にしか会えないのは仕事が忙しいからじゃなくて、他の女とシフトを組んでるからだって? 笑わせるわね」
友人から「ヤマトが知らない女と腕組んでパフェ食ってたぞ」というタレコミと写真。その写真の女は私じゃない。断じて私じゃない。
なので私は今日有給をぶん取ってヤマトのクローゼットの中に潜伏した。ここにいれば彼が連れ込んでくる「証拠」を特等席で拝めるはずだ。
ハンガーにかかったコートの隙間から、わずかに漏れるリビングの光。
狭い。暑い。防虫剤の匂いが鼻をつく。
手に持ったスマホの録画ボタンに指をかけ、私は奥歯を噛み締めた。
「本当に浮気してたら、その首、ギッタギタのメッタメタにして歩道に並べてやるわ……」
般若のような顔で息を潜めていた、その時だった。
「……ちょっと、さっきから私の右足、踏んでるんだけど。どけてくれる?」
闇の中から鈴を転がすような、しかし氷のように冷ややかな女の声がした。
「ひぎゃっ!?」
心臓が口から飛び出しそうになった。慌てて口を押さえる。
え、何? 幽霊?
この部屋、事故物件!?
脂汗を流しながら隣を凝視すると、そこには私と同じようにスマホを構え、膝を抱えて座り込む美女がいた。
「……え、誰?」
「それはこっちのセリフ。私は明日香。ヤマトの婚約者よ。ちなみに火曜と水曜担当」
「は……? 私はアオイ。えっと、私は、金曜と土曜担当……? じゃなくてヤマトの彼女よ! ……え、婚約者!?」
暗闇の中で二人の女の視線が激突する。
明日香と名乗った美女は、私のスマホの画面をチラ見して鼻で笑った。
「金土担当ね。なるほど、週末のメインヒロイン気取りってわけね。そうなると、私は平日を支える本妻かしら?」
「何よそれ! って、もしかして、あなたも浮気の証拠を撮りに!?」
「当たり前じゃない。あのクズ、最近やけに残業が増えたと思って調べてみれば、私以外にもあと三人、女を食い散らかしていたみたい。なのでぎっちり問い詰めようと先回りして潜伏してたのよ」
明日香と名乗った美女は暗闇の中で瞳をギラリと光らせた。
ヤマトは私に「金土以外はプロジェクトが炎上してて、会社に泊まり込みなんだ」と死にそうな顔をして言ってた。それがどうだ。火水はこの美女、明日香とイチャついていたというのか。
さらに浮気相手が三人もいるという衝撃の事実に、私は動揺を隠せないでいた。
「金土は貴方で火水は私……。あいつ、Googleカレンダーでも使って女のシフト管理してんの? 計画的すぎて吐き気がするわ」
明日香の拳がクローゼットの床をミシミシと鳴らす。私も怒りは最高潮、限界突破だ。
「ねえ、明日香さん。ただ飛び出して浮気現場を抑えるだけじゃ生ぬるいと思わない? あのバカ男を心底恐怖させて、精神的に追い詰めてから社会的に殺しましょうよ」
「いいわね賛成よ。あいつ、オカルト系に弱いのよね。実は私、本業は特殊メイクのプロなの。偶然にも仕事用のメイク道具を持っているわ」
「早速準備しましょう!」
私たちはクソみたいな男への「復讐」という一点において、最強のタッグを組むことになったのである。
明日香さんは手慣れた手つきでポーチからパレットを取り出し、私の顔に白塗りのドーランを塗りたくっていく。さらに目の周りをどす黒く縁取り、口元には裂けたような傷を描き込む。
特殊メイクのプロの手により私の顔は、鏡を見るのも憚られるほどガチな「怨霊」になっていた。
「完璧ね。……あ、ヤマトが帰ってきたみたい」
玄関の鍵が開く音がした。
カチャリ、という軽い音の後に続く、ヤマトのヘラヘラとした締まりのない声が聞こえてくる。
「あはは! 菜々緒ちゃん、今日もお肌プルプルだね〜。やっぱり若い子は違うなぁ」
「もー、ヤマトさんったらぁ! 本当に彼女いないんですかぁ?」
「いるわけないじゃん。僕の心の中には、菜々緒ちゃんという名の女神しか住んでないよ」
三人目の女、菜々緒の甘ったるい声。明日香さんの情報では最近付き合い出したとのこと。彼女はどうやら木曜担当らしい。
私たちはクローゼットの奥で無言でハイタッチを交わす。そして明日香さんがスマホの画面をタップした。
さあ、復讐劇という名のホラーショーの開演だ。
『……カン、……カーン、……南無阿弥陀仏……、南無阿弥陀仏……』
静まり返った部屋に突然重々しいお経の音が響き渡る。スマートスピーカーとの連動設定を解除し忘れたヤマトのミスだ。
「えっ!? な、なにこれ、壊れた!?」
「ヤマトさん、怖い……! 何この音おぉ!」
二人の動揺が伝わってくる。よし、次だ。
明日香さんがクローゼットの裏側の配線パネルを器用にいじった。リビングのLED照明がホラー映画さながらにチカチカと不気味に点滅を始める。
「ひっ、ひいいいっ! 停電!? 故障!?」
「ヤ、ヤマトさん! 誰かいる! クローゼットの隙間に誰かいるわよ!!」
菜々緒の悲鳴が合図だった。
私と明日香さんは代わる代わるクローゼットの隙間に顔を寄せ、髪を振り乱した怨霊顔を覗かせた。
「……ヤマトぉ、……約束、破ったわねぇ……」
「……誓いを……、忘れたのぉ……?」
地を這うような低音で囁くと、「ギャアアアア!」という情けない絶叫が上がった。
「ヒッ! 出たああああ! 幽霊!? 事故物件だったのかよここ! 不動産屋の嘘つきいいい!」
ヤマトは腰を抜かし、床を這いつくばって菜々緒を盾にするようにしがみついている。
「ちょっとヤマトさん! 私を身代わりにしないでよぉ!」
「あばばばば! 助けて! 除霊! 誰か塩を、塩を持ってきてえええ!」
菜々緒が泣き叫び、ヤマトの顔をバッグで殴りつける。口から泡を吹きそうな勢いで震えるヤマト。
その情けない姿を私はクローゼットの中で明日香さんとハイタッチしながら、バッチリ高画質で録画していた。
「(アオイ、いいわよ。次は血糊の出番ね……)」
明日香さんが不敵に微笑んだ、その時だった。
『ドガアアアアアアン!!』
玄関のドアが物理的に破壊されるような凄まじい音を立てて蹴破られた。
「……スケジュール帳とGPSの計算が合わないんだけどぉおお!! 誰よ、この部屋にいる女はぁ!!」
般若も裸足で逃げ出す形相で乱入してきたのは、手にフライパンを握りしめた四人目の女・夏帆だった。彼女はヤマトが「日・月」に会っていたはずの武闘派の彼女である。
夏帆はお経が流れ照明が点滅する異様な室内と、白塗りの化け物が這い出そうとしているクローゼットを見て一瞬フリーズした。だが、すぐに状況を察したらしい。クローゼットから這い出してきた私と明日香さんの「怒りに燃える瞳」を見て、彼女はニヤリと笑った。
「あなたたちも被害者? だったらこれ、貸してあげるわ。テフロン加工だからこびりつかないわよ」
差し出されたフライパンを受け取り、私と明日香さんは白塗りのまま立ち上がった。
「……え、アオイ!? 明日香!? なんで、なんでお化けが……、ひいいいいっ!」
「ヤマト、地獄へ行く準備はできたかしらぁ?」
もはやホラー演出は不要だった。ここからは、物理的な修羅場の時間だ。
「……はい、次。日月担当の夏帆さん報告どうぞ」
「はい。ヤマトは先週の木曜、『接待ゴルフ』と言ってましたが、実際は菜々緒さんと江ノ島にいたことがGPSで確定しています」
リビングの中央。ヤマトは正座をさせられ、その周囲を四人の女が囲んでいた。
最初は怯えていた菜々緒もヤマトが自分を身代わりにしようとした瞬間に百年の恋も冷めたらしく、今は冷徹な書記としてスマホを叩いている。
「ち、違うんだ! 僕はただ、君たち全員を愛していたからこそ曜日ごとに愛を分散させていただけなんだ! 誰も傷つけないためのスケジュール管理だったんだよ!」
ヤマトが涙ながらに吐いた意味不明な供述に、四人のフライパンと拳が同時に震えた。
「分散投資のつもり!? 恋愛をポートフォリオみたいに管理してんじゃないわよ!」
「私の特殊メイク技術を、まさかこんなクズの除霊ごっこに使うハメになるなんてね……」
「クズ男、女を舐めるなよ……」
私たちは容赦しなかった。
明日香さんが撮影した「浮気証拠写真」、私が録画した「情けなさすぎる失禁除霊動画」、そして夏帆が収集した「浮気ルートマップ」。これらすべてをヤマトの全SNSフォロワー、会社の上司、さらには田舎の両親が参加している親戚グループLINEへ一斉に送信(ライブ配信付き)した。
「あ、ああああ……、僕の人生が、一瞬でログアウトしていく……」
真っ白な灰になったヤマトをその場に捨て置き、私たちは部屋を出た。
そして翌日にはヤマトのスマホには全方位からの『終焉』が届いていた。
会社には「失禁除霊動画」と「四股浮気の証拠資料」が一斉送信され、コンプライアンス違反で即日解雇。
さらに実家の両親には、夏帆が送りつけた「曜日別・浮気相手一覧表」が届き速攻で勘当。
住んでいたマンションも実は明日香さんの父親がオーナーを務める物件だったため強制退去処分。
文字通り着の身着のままで路上に放り出されたヤマト。
SNSでは『四股失禁男』として特定され、デジタルタトゥーという名の消えない呪いを刻まれた。
――後日。
私たち四人は駅前の超高級焼肉店の個室にいた。
テーブルに並ぶのは、一皿数千円するシャトーブリアンと特上カルビの山だ。
「いやー、あのお経が流れた瞬間のヤマトの顔! 膝から崩れ落ちて『あばばば』って……、一生忘れそうにないわ」
「アオイさんの白塗り怨霊、明日香さんのメイクのおかげでマジでハリウッド級だったわよ。菜々緒さんの『私を盾にしないでよ!』っていうあのビンタも、いいキレしてたわ!」
「夏帆さんのフライパン捌きも惚れ惚れしたわよ。ヤマトの額に綺麗にロゴマークの跡ついてたわね」
ちなみにこの食事代は、ヤマトが「将来の結婚資金」だと嘘をついて私たちから少しずつ着服していた金を、明日香さんの知り合いの弁護士経由でソッコーで差し押さえ、さらに婚約破棄の慰謝料として一括徴収した軍資金から出ている。
「次はもっといい男捕まえましょう。週七日、誠実さだけで予定を埋めてくれるような人をね」
裏切り者のクズ男は、新しい「戦友」を結びつけるための最高のスパイスでしかなかった。
「「「「かんぱーい!!」」」」
四人でキンキンに冷えたジョッキを合わせ、高らかに勝利の乾杯を上げる。
カレンダーの新しいページには、もうクズの居場所なんて一ミリも残っていないのだから。
(完)
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