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白まねき

掲載日:2026/02/02

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやくんは、暮らしの中でどれだけ洗濯機を回す人だろうか?

 僕はここのところ数日に一回ってところだね。一人暮らししていて、出てくる洗濯物の量が限られているから頻繁に回すと水道代に響くんじゃないかと思ってね。

 ……ほう、つぶらやくんは毎日回している派か。

 いや、別にそのことを非難しようとかじゃない。ただ注意をしておいたほうがいいかも、と思ってね。洗う衣服などが少なく、ゆとりを持ってしまっている洗濯機。そこに混じりこむかもしれないリスクがあるってことさ。

 ……やれやれ、にわかに目が輝いてきたね。興味あり、てところかな。

 じゃあ、少し話をするとしようかな。


 洗濯による色落ちの経験、つぶらやくんにはあるかな?

 そのリスクがある衣類たちには水洗いを避ける表示がされる、危険性はゼロじゃない。家庭科でやったであろう内容がすっぽり抜けている人は、ふつーにいるだろうし、表示がなかったとて色落ちする可能性はゼロじゃない。

 最近の洗剤パワーはますます高まって油断できないところがあるし、汗や皮脂のつき具合によっては、ただの水洗いであっても、よもやの事態が起こるかもしれないしね。

 だが、それらは本当に水や洗剤、素材のみの仕業なのだろうか?


 僕も少し前までは、きみのように毎日洗濯機を回していたんだ。

 多少は服を着替えるといっても、しょせんは一人暮らしの一人分。冬場の厚着といえども洗濯槽の半分にも満たないほどのかさしかない。

 その中で、すでに何回も色落ち爆撃のへまをしてしまった僕は、余計に慎重になっていた。ちょっとでも別の色を含んだ洗濯物は、きっちり隔離。白は白のみで洗うようにしていたのさ。

 純白にのみ許された、ファーストクラス洗濯だ。自分でもちょっと贅沢かなあと思いつつも、もし爆撃を受けたときのクリーニング代を思えばささいなもの。そう信じて、彼らを白くあり続けさせるために手間を割いていったのだが。

 やがて異変に気付いたよ。それは白以外の隔離していた服たち。彼らが漂白されていくのにさ。


 最初は、それこそ色落ちと思った。何度も水をくぐらせているなら、染料のたぐいも限界を迎えて、手を放していってしまうのも無理ないだろう、と。

 けれど、ふと休みの日にそれらをみっちり手洗いしてみたのだけど、色はちっとも落ちた様子を見せなかったんだ。それこそ種々のせっけんや洗剤にひたし、こすりにこすったあげくのことだ。洗うというより、ほぼ拷問のごとき行いだったはず。

 それらに対し、びくとも色落ちしなかった面々が、いざ洗濯機にかけてみると薄まっていってしまう。僕が気づいたときには一回一回で、はっきりと色が薄まるのが実感できるほどになっていてね。これはなにかやばそうだと、服を洗濯機へ入れるのをやめてしまったんだ。


 それから手洗いにシフトしたのだけど、一度気づいてしまった色落ちはもう止められなかった。

 洗っている最中はいい。けれども外へ干して取り込むときに色が落ちているし、ならばと室内に竿を通して部屋干しを敢行しても、数時間たてば薄まってしまっている。

 不可解だったのが、色落ちであるならばその染料の混じった水滴が垂れそうなものだけど、それらの気配が一切ないこと。外干しのベランダの床、部屋干しの真下に敷いた新聞紙、いずれにもだ。

 すでに家の普段着からは、ほぼ色が失せてしまっている。さすがに気味悪くってさ、それらのほぼ色落ちした服たちをビニール袋に詰めて、次のごみの日に出してやろうと思ったのだけど、ちょっと遅かった。


 その日の晩。

 寝ていた僕は、犬に似た唸り声とビニールを破く音を聞いて目を覚ます。

 なにが起きていたのか。それは覚醒したばかりのなかばぼやける視界の中でも、はっきりとらえることができた。

 半身になった視線の先、この寝ている6畳間の隣にあるキッチン。その隅に置いてあるゴミ袋が無残に破られているとともに、目の前に床にボールのごとく丸まっていたものがいたんだ。

 そいつはすぐに体を広げ、四つの足でしゃんと立ち、尾を僕のほうへ向けて生やす。真っ白い犬が一頭、そこに立っていたんだ。

 僕が動くより先に、犬は前方へ走り出す。外の闇と部屋の闇を隔ててくれているドアは、正面から犬の衝突を受けて立ち、そして負けた。

 ドアの金具を散らばらせる勢いでもって飛び出した犬は、そのまま廊下の向こうへ消えていき、あっという間に見えなくなってしまったんだ。

 ようやく起きた僕は、犬のゆくえやドアの状態よりも先にゴミ袋を確かめた。穴の開いた袋からあの白い服たちを出してみると、どれもちょうど胸からお腹にかけて、まあるい穴が開いていたんだ。ちょうど、あの犬らしきものが丸まって出てこられるサイズのね。


 それから洗濯機を変え、服を洗う頻度も変えたんだけど、あのように異様な色落ちには出くわさなくなった。当然、あの犬らしきものにもね。

 つぶらやくんも洗濯をよくやるなら気を付けるといい。その頻度とゆとり、あの犬がごときものにとっては穴なり通り道なりになるかもしれないからね。

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