ひまわり・向日葵・火魔割蜊
今日は金曜。 しろかえでの「女のドラマシリーズ」です!
「どうかこれきりにしてください。もう!私達を許して下さい。」
「それって……十三回忌の法要にも来てはいけないと言う事ですか?」
交通事故で彼が亡くなって10年目。
お仏壇の前で、彼のお母様と交わしたこの会話によって……私は彼の月命日には墓参しかできなくなった。
そうして訪れた次の月命日の日、お墓をお清めしようと手桶に水を汲んでいた私の横をひまわりの花束が通り過ぎる。
「見つけた!!」
手桶を置き去りに花束の後を追った先は彼が眠るお墓。
季節を先取りしたひまわりの花束は本来は私と彼との思い出なのに……
彼のお墓にはこれまでにも何度かひまわりが供えられていた。
きっと今、彼のお墓に手を合わせているこの男の仕業だ!
「あなたは……どういったご関係の方なんですか?!」
怒りに震える語尾を感じ取ったのか、男はゆっくりと振り返る。
「菊池家の方ですか?」
「いいえ、そうではありません! けど……」
「山内……咲さんですね?」
「どうして私の名前を?!」
「私は……河野静子のゆかりの者です」
彼を殺した忌まわしい女の名前が男から発せられた次の瞬間、私は墓前のひまわりの花束を掴んで激しく男を打ち据えた。何度も何度も
「一体何の真似ですか?! 帰って下さい!!帰って!!!」
花束がボロボロになって辺り一面にヒマワリのかけらが飛び散っても男は微動だにしない。
「どうして!!??」
「あなたの気持ちが分かるからです。あの事故の日……あなたと私は……恋人を失った。 あなたは“事故”で、私は“自死”で……」
彼を轢いたその日に河野静子は……その罪の重さに耐えかねてビルの外階段から身を投げた。
そう!私はあの女に自分が犯した罪を一生涯負い続けさせる為に『人殺し!!』と罵ったのだ!
そしたら、あっさりと逃げられた。
今また、私の胸の内に憎悪がどす黒く渦巻き、哄笑となって零れ出る。
「私の気持ちが分かるですって!!それなら私もあなたの気持ちが分かる!あなたは私の事を殺したいと思っているでしょう?!」
「私は彼女の遺言に従っているだけです。あなたに不快な思いをさせてしまい本当に申し訳ございません。」
深々と頭を下げるこの男を見ていると……
今度は、どうしようもなく悲しい思いが胸にこみ上げて来る。
この男の手元にある百合の花束は……
きっとこれから会いに行くあの女の為の物だろう
それに引きかえ、私は……
この10年……誰からも取り残されただけだった。
だから私は、悪魔が耳打ちしてくれた言葉をそのまま口に乗せた。
「それならばとっておきの提案がある。お互いがお互いを復讐する方法! その百合の花を打ち捨てて私を抱きなさい! この10年、石女として生きて来たこの私を!!」
アジサイの花のみが彩る……雨に濡れた石畳に、不意に散りばめらた鮮やかなひまわりのかけらの様に
私の奥底に奇妙な火種が燻り始めていた。
おしまい
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