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転生少女、ギターで世界をぶっ壊す(と思っていた)  作者: かれら
“好きだよ”が、弦を震わせた
9/23

第八話

話数逆になっていました…修正しましたので第七話も是非お読みください…

セッションが終わった。


スタジオの空気が、ふっと静まる。

誰も言葉を発さずに、一拍だけ間があった。


その沈黙を破ったのは、ドラムの椅子に座ったままの響だった。


「……いいね、すごく」


スティックを膝にトンと乗せて、やわらかく微笑む。


「音、ちゃんと聴いてたし。入り方も自然だった」


「うん。空気、読めてたっていうか……最初とは思えなかったな」


歩夢も、アンプに腰かけて言った。


「いやいや……私、全然……」


澪は慌てて手を振ったけど、声はどこか浮いていた。


あのときの感覚が、まだ残ってる。

自分で弾いていたはずなのに、どこか借り物みたいな音。

でも、心の奥ではちゃんと鳴っていた気がする。


空は、ずっと何も言わず、ギターを抱えたまま澪を見ていた。


そして、静かに言った。


「やっぱり……あの音、だった」


「え……?」


「動画のときと、まったく同じ。荒削りだけど、一本芯が通ってる。

雑なのに、変に耳に残る。そういう音って、作ろうと思っても作れない」


澪は何も言えなかった。


ただ、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


「また、やってみようよ」


響が、軽く澪の肩を叩いた。


「今日だけじゃ、まだ全然わかんないけど……でも、私、澪ちゃんの音、好きだよ」


その言葉が、少し遅れて、澪の中に染み込んできた。


……好き、って。


誰かに、そう言われたの、いつぶりだろう。


澪は、そっとうなずいた。


「……はい」



―――



スタジオを出た帰り道。


空が先を歩き、響と歩夢は並んで話していた。

澪は少し後ろからついていく。


夕方の街は、やわらかいオレンジ色に染まっていて、

さっきまでのスタジオのざらついた空気が、少しずつ肌から剥がれていくみたいだった。


ギターのケースが軽く感じる。

足取りも、ほんの少しだけ軽かった。


——“私の音、好きだよ”


思い出すたびに、心の奥がじわっと熱くなる。


人と音を出すって、こんな感じなんだ。


怖かったけど、やっぱり……楽しかった。


ふいに、前を歩いていた空が振り返った。


「また連絡する。次も、来れる?」


「……うん。来ます」


その答えは、自然と口から出ていた。


空が小さく頷いて、また前を向いた。


空気が、少しだけ軽くなった。


そんな気がした。


―――



家に帰ってきて、ドアを閉めた瞬間——


どっと、現実が戻ってきた。


うわ、私いま、知らない人たちと音出してきたの!?

しかも、なんか褒められてたし!?

やば……これ……夢じゃないよね?


ギターのケースを床に置いて、ふぅっと長く息を吐いた。


全身がじんわり疲れてる。筋肉痛の予感。

でも、心はちょっとだけフワフワしてた。


「おそるべし、スタジオ……」


部屋着に着替えて、ピグノーズのスイッチを入れる。

赤いランプがぽっと灯って、小さくノイズが漏れる。


ギターを構えるつもりじゃなかったのに、なんとなく手が伸びてた。


チャラッ。


コードをひとつ。

それだけで、今日の音が脳内リピート再生される。


あの8小節。

指が勝手に動いた時間。


あれって、ほんとに私だったのかな。


「いや、でも確かに弾いたし。鳴ったし」


動画じゃなくて、生で、人と、音で、やりとりした。


……やば。


ギターって、やっぱ最強かも。


床に寝っ転がって、ギターを抱えたまま、天井を見上げる。


明日、また弾こう。

もっとうまくなって、今度はもうちょっとだけ、自分の音って胸を張って言えるように。


そんなことを、ちょっとだけ真面目に考えてた。



今回、本編並みに長い解説あとがきはありません。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

今回の話は、澪にとって“音で人とつながる”第一歩でした。

きっとまだ自信はないけど、だからこそ、その一音一音がまっすぐで。

そんな彼女のギターが、少しでも何か響いたなら、嬉しいです。


次話も、明日22時更新予定となります。

どうぞよろしくお願いします!


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