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第四話

気づいたら、投稿した動画の再生回数がじわじわ伸びてた。


数千回。コメントも、ちょこちょこ付いてる。

なんか、変な感じ。


私は誰にも見つからずに投稿したつもりだったし、正直、こんなの誰も見ないと思ってた。


でも、画面の中で誰かが何かを言ってる。私に向かって。


“すげー雑だけど勢いある”

“あのピック、トーテックスの黄色かな?”

“これ生音?むしろ好感もてるw”


笑ってる人もいるし、褒めてる人もいるし、ちょっと怖い人もいるけど——


なんだろう。


全部が、自分にちゃんと届いてるって、そう思えた。


画面の向こうに、人がいる。

私の音を聴いた誰かがいて、その人が、なにかを返してくれてる。


そんなの、もうずっとなかった。


音って、ただの振動じゃないんだなって思った。

ピックで弾いた弦が震えて、それがアンプに伝わって、空気を揺らして、それが誰かのイヤホンまで届くって……考えてみたら、すごくない?


やばい、なんか……


ギター、めちゃくちゃ楽しいかもしれない。


――――


放課後の校舎って、こんなに静かだったっけ。


いや、教室の騒がしさを知らない私が言うのもなんだけど。


今日、久しぶりに登校した。

先生から「進路のこと、少し話したい」と連絡が来て、重い腰を上げたら……話が長い。めちゃくちゃ長い。


「まだ時間はあるから、焦らなくていいよ」って言いながら、二時間以上話された。

時間があるなら、早く帰らせてくれ。


ようやく解放されて、昇降口に来たころには、すでに誰もいなかった。


私のローファーだけ、ぽつんと残ってて、なんだかちょっと笑えてしまった。


しゃがんで靴を履こうとした、そのときだった。


「やっぱり、来てたんだ。」


声がした。


顔を上げると、見たことのない子が立っていた。

制服の着崩し方が妙にサマになってて、目つきは鋭いのに、声はやけに落ち着いている。


「……誰?」


思わずそう言った。


「ごめん、いきなりで。動画、見たよ。Scuttle Buttin'の。」


胸の奥が、びくっとなった。


「……あれ、見たの?」


「うん。ギター、あの感じ……好きだよ。荒削りだけど、ちゃんと“鳴ってる”。」


その子はふっと笑った。


「焦げ跡のあるヘッドと、“息するように弾く”ってステッカー。なかなか見ない組み合わせだからさ。」


——あれ?


なんでそんなこと、知ってるの?


「君が誰かって、たぶん、最初からわかってた。」


「……は?」


「でも、今はまだ、それでいい。——また話そう。」


そう言って、彼はそのまま踵を返した。


私は、ただ呆然とその背中を見送った。


足音が遠ざかっていく。


誰、あれ……?



―――



家に帰って、制服を脱いで、ジャージに着替えて、速攻でギターを構えた。


いや、だって、気になるじゃん。

あの人、なんだったの?

なんであんなにギターのことわかってたの?


……とか考えてると、逆に落ち着かなくて。


だから、弾く。


もう、問答無用で弾くしかない。


豚鼻のスイッチを入れて、πのやつはOFF。

今日は歪みじゃなくて、豚鼻の音量を上げてクランチってやつでいく。


で、Funky Monks。イントロだけだけど。


チャカ、チャカ、ンチャ。

チャカ、チャカ、ンチャ。


うわ、たっのし!!


めっちゃくちゃ気持ちいい!!!


指とリズムがバチッと合うと、音が跳ねる。

アンプが生きてる感じ。

音が、踊るってこういうこと?


いやもうマジで、何この感覚。

音だけでテンション上がるとか……私、もしかして才能あるんじゃね?


やばい。

ギター、最高すぎる。


【Funky Monksとクランチのこと】

■ Red Hot Chili Peppers – 「Funky Monks」

アーティスト:Red Hot Chili Peppersレッド・ホット・チリ・ペッパーズ


アルバム:Blood Sugar Sex Magik(1991年)収録


ギター:John Fruscianteジョン・フルシアンテ


曲の雰囲気:スローで濃厚なグルーヴ、ファンクとロックの融合


■ 音の特徴

「ジャーン!」ではなく「チキチキ……グワッ」みたいな乾いたファンクリフ


歪みすぎず、でも生々しくてエグみのあるギター


ミュート・スライド・チョーキングがすべて**“間”で成り立ってる**


■ 澪の視点での描写イメージ

手のひらで弦を押さえて、右手でパーカッションみたいに叩く。

フレットを滑る音が、まるで誰かの息づかいみたいだった。

これは、音じゃない。

体がグルーヴしてるって、こういうことなのかも。


■ この曲を澪が選んだ理由(文脈的に)

「爆発」じゃなく「生々しさ」で心を鳴らしたかった日


Scuttle Buttin'の“衝動”とは真逆の、“じっくり染み込む音”


技術ではなく、間とタッチで「気配」を表現する曲


たぶん澪の中に、“姉が家で弾いてた記憶”がある。そんな曲


■ クランチとは?(ギター用語)

ギターの音の「歪み」には段階があります。


クリーン(歪んでいない、澄んだ音)


クランチ(軽く歪んだ、ザラッとした音)←これ


ディストーション(しっかり歪んだ音)


ファズ(潰れたような、暴れる音)


■ クランチの音ってどんな感じ?

軽く割れた感じの音。でも潰れすぎてない。


カッティング(チャッ、チャッって弾くやつ)が気持ちいい。


コード弾きしても、音が濁らない。だから歌に寄り添える。


「Funky Monks」みたいなファンク・ロックにぴったり。

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