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第三話

帰ってきた。


玄関開けた瞬間、思った。

——よし、弾こう。


ピックはポケットにある。

弦はもう張り替え済み。

私、今、最強かもしれない。


机の上にギターを置いて、豚鼻のスピーカーをセッティング。

ケーブルをぶっ刺して、電源オン。

スイッチの「カチッ」って音、もう聞き慣れてきたのがちょっと面白い。


で、だ。


ピックを構える。

涙型の、カメの顔がこっちを見てる。

いいよ、やってやろうじゃん。


コード、覚えてる。

指が勝手に動いて、ほら——


ジャラァン。


音が出た。

昨日より、ずっとクリアで、でも厚みがあって。


「っしゃあああああああ!」


思わず叫んだ。部屋の中で、反響した自分の声にちょっと引いたけど、まあいい。


だって、なんか、ちゃんと音になった気がしたんだもん。


これ、まじで……ギター、いけるかもしれない。


……で、気づいたらスマホを構えていた。


録音アプリ、起動。ギター、準備オッケー。


勢いって怖い。

でも今の私はノッてる。止まらない。


音源は……あれにしよう。


スティーヴィー・レイ・ヴォーンの、Scuttle Buttin'。

イントロだけ、ちょっとだけそれっぽく弾けるようになったやつ。

速いし、ゴリゴリで、わりとヤケクソな感じだけど、今の気分にめちゃくちゃ合ってた。


録音、スタート。


ガリッ、ガラッ、ジャキィィン!


指が暴れる。

ピックが弦に当たる音がやたらデカい。

でもそれが気持ちいい。


1分ちょっとで録音終了。

聞き返すと、まぁ……雑だった。

でも、なんか良かった。勢いだけで突っ走る感じ、嘘じゃない気がした。


ファイル名:「scuttlin_01.wav」


SNSのサブアカに、何となくアップロード。


#初心者ギター #弾いてみた #前世の記憶かも


タグつけて、投稿ボタンを押した。


すぐに後悔するかと思ったけど、意外とそうでもなかった。

それより、画面の中でじわじわ数字が増えていくのを眺めてる方が、ちょっとだけ面白かった。


「……ほんとに、なんでこんな曲知ってたんだろ」


そう呟いた瞬間、胸の奥が少しだけざらっとした。


――――


【動画コメント欄】


user_gearjunkie13

すげー雑だけど勢いあるな…スカットルの冒頭だけで走り切る度胸、嫌いじゃない。


nekopick082

あのピック、トーテックスの黄色かな?指先立てる癖あるっぽいけど、この感じ……誰かに似てる?


ampwarrior77

え、これ生音?マジ?むしろ好感もてるwww


anonymous59

ギターのステッカー……これ、どこかで見たことあるような。「I play because I breathe.」ってさ……


lowfreq_love

0:13でちょっとだけノイズ乗ってるの、逆にリアルで良い。


———



学校の帰り道。

イヤホンから流れてきたあの動画に、藤枝(ふじえだ) (そら)は思わず足を止めた。


走りすぎてて、粗くて、でも……


「……このギター」


目を凝らす。

画面の中、ヘッドの上部。


焦げていた。

まるで、誰かがタバコを押し付けたような黒い跡。


そして、ボディ。

「I play because I breathe.(呼吸するように、私は鳴らす)」


そのステッカーも、確かにそこに貼られていた。


心臓が一拍、遅れて跳ねた。


スマホを握り直し、もう一度動画を再生した。


——まさか、な。

でも。


もしも、もしもあれが。


「……もしかして、あの不登校の……」

登場人物

藤枝ふじえだ そらVo/Gt.

・直感型で、言葉に力がある人物。音に対しての向き合い方が“まっすぐすぎる”ほど純粋。

・SNSに投稿された澪の演奏を見つけ、バンドに誘う。

・笑った顔がどこか無防備で、でも目だけが本気。

・ギターの音も歌声も、どこか“今この瞬間にしか存在できない”儚さがある。




Scuttle Buttin'は、スティーヴィー・レイ・ヴォーンというギターの伝説が残した曲です。

手癖、リズム感、感情……それらが“一筆書き”のようにギターからあふれてくる。


「弾けるようになりたい」じゃなくて、「弾けてしまった」って思わせる曲。

だからこそ、澪の最初の衝動には、これがぴったりだったのかもしれません。

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