7、久しぶりの部屋
私は蓮の部屋に通され、部屋の真ん中にあるローテーブルを挟んで、蓮と向かい合わせで座ってる。小学生の頃に遊びに来たきりだった部屋は、昔とは違っていた。勉強机やベッドの位置は変わってないんだけど、貼られてるポスターがアニメのキャラクターからサッカー選手になっていたり、たくさんあった一緒に遊んだおもちゃが無くなっていたりした。蓮も大人になってきてるんだな・・。あ、大人といえば。
「・・・おい、何してるんだよ。」
ベッドの下を覗こうとしてバレてしまった。
「なんでもないよ〜。久々に来たら部屋の雰囲気が変わってて、ちょっと驚いただけ!」
まさかエッチな本がないかと思って覗いたなんて、口が裂けても言えない。
「・・・。」
「お、おばさんお茶を持ってきてくれるって言ってたけど・・まだかね?」
「そうだな。」
「ぶ、部活が休みなんて珍しいね!」
「そうだな。」
駄目だ。全然会話が続かない。蓮を見てたら・・あれ?顔が赤い気がする。熱を測ろうと思って、私のおでこと蓮のおでこに手を当てた。
「うぉっ!?」
蓮がのけ反る。そんなに驚くことかな。
「顔が赤いよ。熱でもあるんじゃない?」
「・・・に、西陽が入るんだよ、この部屋。窓閉めっぱなしだから暑い気がしてたんだ。」
蓮は立ち上がってベッドの横の窓を開けた。そんなに暑いと思わなかったけど。今秋だし。私も立ち上がって、窓の前に立ったままの蓮の隣に並んだ。
「蓮、小学生の頃、よく2人でこの窓から外を見てたよね。」
「そうだな。」
「昔は同じくらいの身長だったのに、蓮は大きくなっちゃったね。」
鼻で笑われた。
「当たり前だろ。」
2人で窓の外を覗いて、道行く人を眺めたり、明日の天気について話したりしたのを思い出して、懐かしい気持ちになった。蓮を見上げると、笑顔だった。私は蓮と過ごす、この時間が好きだったのを思い出した。すると急に美春ちゃんの顔が浮かんで、胸のあたりがチクリと痛んだ。そう、あの頃とはもう違って、私たちは高校生で、蓮には美春ちゃんが居るんだ。あれ?そうなると、私は今、蓮の部屋に居たらまずいんじゃ・・。
「愛菜。」
「ひっ・・・な、なに?」
蓮はちらっと私を見てから
「あの金髪に、俺の名前教えた?」
いきなりお兄さんの話をするから、私はびっくりした。
「ううん、教えてないよ。」
「じゃあ、コロのことは話した?」
「そんなこと、言う訳ないじゃん。なんで?」
しばらく黙ってから、蓮はさっきお兄さんとすれ違う時に名前を呼ばれた事、コロちゃんの事を聞かれた事を教えてくれた。
「蓮とお兄さんって知り合いなの?」
「いいや。まぁ、お前と話してる時に俺の名前を聞いてたんだろうけど・・・」
蓮は少し間を置いてから
「でもコロのことは、どうやって知ったんだ。あの金髪・・おかしくないか?」
「お兄さんをおかしいなんて!私を助けてくれたのに・・・それに、前に土手で話をした時に、この辺りに住んだことがあるような話をしてたよ。」
「じゃあ、向こうが俺を一方的に知ってるってことか?」
蓮が唸った。
コンコン。ドアをノックする音が聞こえた。
「お茶とお菓子を持ってきたわよ。」
「おいしそう!おばさん、ありがとう!いただきます!」
わぁ、私の好きなお菓子がある!中にとろっとしたミルクが入っているチョコレートのお菓子。包み紙を開けて口に入れると、甘い味が広がった。
「おいしーい!!」
「愛菜はそのチョコ好きだよな。」
「うん!蓮の家に来て良かった!」
ふっ・・と蓮に笑われた。子供っぽかったかな。急に恥ずかしくなってきて怒ろうとした所で、ふとお兄さんの言った事を思い出した。
「そういえば、助けてもらった日に家まで送ってもらってたら・・お兄さんは私の家がどこにあるのか知ってるみたいだった。」
「はぁ!?」
蓮が目を大きく開いた。
「愛菜は、おかしいと思わなかったのか?」
「いや、近所に住んでる人なのかな〜と思って・・・。」
「俺も一瞬そう思ったけど、今まで一度もあんな顔の奴は見たことないぞ。」
たしかに生まれてからずっとこの町で育ってるから、ある程度のご近所さんは知ってるけど、お兄さんに会った事は一度もなかった。それは私も気づいていたし、変だなと思っていた。
「愛菜の家まで知ってるなんて・・・余計に怪しいな。」
蓮が真剣な顔で私を見つめて言った。
「もうあいつには会わない方がいい。」