6、幼馴染みの想い
「なんで伝わらないんだ・・・!!」心底思う。
コーチが新婚旅行に行ったから部活が休みになった。今朝の愛菜の発言が気になった俺は、勇気を出して一緒に帰った。のんちゃんとかいう愛奈の友達から親指立てられてめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、別にいいんだ・・。だけど、この機会に告白して、もうスッキリしようと思うのに・・・なんで愛奈に好きだと言えないんだ!俺って本当にヘタレ・・。いや、っていうか気づけよ、いい加減!!それと、なぜ俺に一年のマネージャーの話をする!?そりゃ、少しは可愛いと思うけど、俺はいつだって愛奈のことしか考えてない!サッカーやってるのだって愛奈が「サッカーやってる人がかっこいい」って小学生の頃に言ってたから始めた訳だ。なのにマネージャーを好きなんでしょとか、いい加減うんざりする。あと愛奈のことを好きな俺に「好きな人が出来た♡」とか言うんじゃないっ!!!!!!
「あの〜、蓮、大丈夫・・?」
さっきから黙ってる俺に、愛菜が困ったように話しかけてくる。ゔっ・・困った顔もかわいい。今・・好きだと言うか?いや、そんな雰囲気じゃない。でもじゃあ、いつになったら言えるんだ!?
「あっ!こんにちは〜!」
愛奈が俺の後ろを見て嬉しそうにしている。振り返ると、金髪の男が立っていた。
こいつ・・・改めて見るとかっこいいな。俺より背が高い。175cmくらいってところか?芸能人みたいな顔してるし、大人の落ち着いた雰囲気もある。こんな男に助けられたら、そりゃ好きになるのも分かる気がするが・・。強い敗北感に悔しさが込み上げる。でもこいつの一番気に入らない所は、会う度、会う度にニヤニヤして愛奈を見てる。まさか・・・未成年相手に気があるのか!?
「こんにちは。また会ったね。」
愛奈を見ると、金髪に向かってこれでもかといわんばかりに顔が緩みきっていて、無性に腹が立った。ずっと一緒に居るのは俺なのに・・・こっちを見ろよ!
気づいたら愛菜の手を握っていた。
「きゃっ・・・ちょっと、いきなり何!?」
「行くぞ。」
「わっ・・勝手に行かないでよ!」
愛菜の手を強引に引っ張って金髪の横を通り過ぎようとした時だった。
「蓮くん。」
小さな声で、俺だけに聞こえるように言ってきた。
「コロは元気かい?」
俺は驚いて、金髪を見た。相変わらずニコニコした顔だった。だけど、金髪の茶色い瞳を見た時に嫌な感じがした。なんでこいつは俺の名前を知ってるんだ?それにコロのことを急に聞いてくるなんて・・。
コロは俺の家で飼ってる柴犬だ。俺が赤ちゃんの時に飼い始めたって聞いたから、17年は生きてる年寄り犬だ。だけど、なんで金髪が俺の家の犬の事を知ってるんだ?訳が分からない。
金髪の事は無視して、愛奈を引っ張って、気がついたら俺の家の前に来ていた。俺の家と愛菜の家は歩いて5分しないで着く。
「蓮、最近変だよ・・?」
「変じゃねーよ!」
「お兄さんとせっかく話せるチャンスだったのになぁ。」
「・・・悪かったな。」
下を向くと、愛菜と手を繋いでいる事に改めて気がついた。カッとなってしまって、後先考えずに手を引っ張ってきてしまった。痛かったかもしれない。そう思って、力を緩めた時だった。
「あー!コロだっ!久しぶりだねぇ。」
愛菜はパッと手を離して、家の庭にいるコロを門扉越しに眺めていた。「コロは元気?」と聞いてきた金髪の言葉が気になった。愛菜は振り返って懇願するように言った。
「ねぇ、庭に入ってもいい?」
かわいい。俺は口元を手で隠すと、目を逸らして返事をした。
「いいけど・・・」
愛菜と一緒に居る理由が出来て、俺は一気に舞い上がった気分になった。コロ、ありがとな。愛菜がコロに近づくと、気がついたコロはゆっくりと立ち上がって尻尾を振った。
「よくポチと一緒にお散歩したよね。楽しかったなぁ。」
愛菜は平気で犬に話しかける。俺は恥ずかしいから他に人がいる時は犬に話しかけないようにしてるんだが。
ガラガラッ。
ベランダの窓が開いた。俺の母さんが立っていた。げっ・・なんで居るんだよ。
「あら〜!声がすると思ったら、愛菜ちゃんじゃない!おおきくなったわねぇ、立派なお姉さんになっちゃって!!」
「おばさん、久しぶりです。」
愛菜はペコっとお辞儀した。コロちゃんと遊んでましたと嬉しそうに話している。
「良かったら家に上がっていく?ちょうど蓮の部屋掃除したから、良かったらお茶でも飲んで行って頂戴。」
なぜ俺の部屋に招待する!!?しかも勝手に掃除するなっていつも言ってるだろう!!
「わぁ〜、いいんですか?ありがとうございます!」
お前も上がるなよ!!いくら幼馴染みだからって無防備過ぎだろ!それより、好きな女の子を俺の部屋にあげるなんて・・・この後どうすりゃいいんだ?