4、恋しちゃいました!
「ここ、よく来るんですか?」
私は勇気を出して聞いてみた。
「そうだよ。気に入ってるんだ、この場所。大切な人とよくここに来たんだよ。」
優しい眼差しで私を見て教えてくれたけど、「大切な人」という言葉が、チクッと私の胸を刺した。そして一瞬のうちにじわじわと胸の中に広がっていく。「大切な人」が居たのか。
「・・・。」
私がうつむいて黙っていると、お兄さんの視線を感じた。そして背中をトントンと優しく叩いてくれた。
「友達に会うためにこの町に戻ってきたんだ。」
「そう・・なんですね。」
なにか話さないと。えーっと、えーっと・・
「もう行かないと。」
お兄さんは静かに立ち上がった。
「またね、愛奈。」
「それでね、心臓がドキドキし過ぎて止まるかと思ったの!!ねぇ、聞いてる!?聞こえてるよね、蓮!!」
「・・・。」
月曜日の朝、私の家の前で待っていた蓮に、お兄さんに恋をした事と河川敷での話をすると、蓮は何も返事をしてくれなくなった。さっきまで「よぉ」とか言って挨拶してくれた癖に、一体なんなの??
「蓮もさ、美春ちゃんとはどうなの?私たち幼馴染みなんだから、もうそろそろ教えてくれたっていいんじゃない?いや、無理にとは言わないけどさ。」
男の子って、恋愛とか友達に相談しないものなのかな。それとも私達って、私が思うほど仲良くなかったのかな。
「愛奈、おはよー!」
「あ、メグ!おはよー!」
後ろからメグが歩いてきた。
「杉本くんも、おはよー。」
「・・・。」
蓮は返事もしないで、さっさと先に行ってしまった。
「愛奈、あんたの旦那、随分機嫌悪そうだったけど・・・何かあった?」
「何もないよ。っていうか、旦那じゃなくてお母さんだってば。」
「それまだ言ってるの〜。」
「それより、メグ、聞いて!!私好きな人が出来たかもしれない!」
メグは目を見開いた。
「愛奈からそんな話、初めて聞くんだけど!相手は?」
「うん。実はね、」
私は声を小さくした。
「この間、私のことを助けてくれた金髪のイケメンを好きになっちゃったみたい・・。」
メグは「うん、うん」と相槌を打ちながら
「それ、絶対杉本くんに言わない方が良いよ。」
「なんで?さっき言ったよ。」
メグは急に立ち止まると、もう随分遠くまで歩いて点にしか見えない蓮であろうシルエットに手を合わせていた。いやいやいや・・・メグ、朝から蓮を拝まないでよ。何してるのさ。