最後にやり残したことはありますか?
誰も通らない路地の裏。
銃で撃たれて死にかけた少年の前に黒いワンピースを着た少女が立っている。
息も絶え絶えな少年を前にして、少女が声をかけた。
「こんばんは」
「こ……、げほっげほっ、こんばんは……」
「残念ながらあなたは4分32秒後に心臓が止まって死に至ります」
少女は金色の懐中時計を見ながら淡々と告げた。
それを聞いて少年は天を仰いだ。ビルの隙間に見える夜空に人工衛星の光が見える。
「そう、ですか。残念……です。僕の人生はここで……」
「そうですね、終わりです」
「あなたは何ですか? 人間……じゃないんでしょう? 死神ってやつですか?」
「まあ、大体そんなところです。あなたの魂を回収しに来たので」
「そう、ですか」
「そうです」
少年の焦点が徐々に合わなくなってくる。
少女はちらちらと時計を見ている。
「あと三分です。少し早く来過ぎましたね……。最後にやり残したことはありますか? ハンバーガーくらいなら買ってきてもいいですよ」
「ハン、バーガー、は好きじゃない……」
「そうですか」
「海……」
「はい?」
「海が見たい……」
「海は……遠いですね。私ではあなたを運べませんし……」
「海が……」
少年がうわ言のようにつぶやき続ける。
少女は顔をしかめた。言うだけ言って会話できなくなるとは。
少女は腕組みして、夜空を見ながら指でトントンとリズムを取り始めた。しばらくしてスマートフォンを取り出してポチポチし始めた。
「う、み……」
「ほら、海です。海ですよ」
少女はスマホで検索した海の動画を見せながら呼びかけた。
波の音がする。水しぶきが跳ねている。
「……海です。来ましたよ。海が見たかったんでしょ?」
「ああ……」
少年はそう言ってこと切れた。
心なしか少年の口の端がわずかに吊り上がっている、ように見えなくもない。
少女は少年の亡骸を見下ろしながらつぶやいた。
「海は見えましたか?」




