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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

最後にやり残したことはありますか?

掲載日:2023/10/19

 誰も通らない路地の裏。

 銃で撃たれて死にかけた少年の前に黒いワンピースを着た少女が立っている。

 息も絶え絶えな少年を前にして、少女が声をかけた。


「こんばんは」

「こ……、げほっげほっ、こんばんは……」

「残念ながらあなたは4分32秒後に心臓が止まって死に至ります」


 少女は金色の懐中時計を見ながら淡々と告げた。

 それを聞いて少年は天を仰いだ。ビルの隙間に見える夜空に人工衛星の光が見える。


「そう、ですか。残念……です。僕の人生はここで……」

「そうですね、終わりです」

「あなたは何ですか? 人間……じゃないんでしょう? 死神ってやつですか?」

「まあ、大体そんなところです。あなたの魂を回収しに来たので」

「そう、ですか」

「そうです」


 少年の焦点が徐々に合わなくなってくる。

 少女はちらちらと時計を見ている。


「あと三分です。少し早く来過ぎましたね……。最後にやり残したことはありますか? ハンバーガーくらいなら買ってきてもいいですよ」

「ハン、バーガー、は好きじゃない……」

「そうですか」

「海……」

「はい?」

「海が見たい……」

「海は……遠いですね。私ではあなたを運べませんし……」

「海が……」


 少年がうわ言のようにつぶやき続ける。

 少女は顔をしかめた。言うだけ言って会話できなくなるとは。

 少女は腕組みして、夜空を見ながら指でトントンとリズムを取り始めた。しばらくしてスマートフォンを取り出してポチポチし始めた。


「う、み……」

「ほら、海です。海ですよ」


 少女はスマホで検索した海の動画を見せながら呼びかけた。

 波の音がする。水しぶきが跳ねている。


「……海です。来ましたよ。海が見たかったんでしょ?」

「ああ……」


 少年はそう言ってこと切れた。

 心なしか少年の口の端がわずかに吊り上がっている、ように見えなくもない。

 少女は少年の亡骸を見下ろしながらつぶやいた。


「海は見えましたか?」

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