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秋の幸

作者: あり

清々しい秋空の中に少しだけ冬の寂しさを感じるようになったこの日、せせらぎ街道を北に、高山方面へと車を走らせていた。

近頃何かと忙しかったので、久々の旅行だ。夕食は奮発して良い料亭を予約した。


清流を横目に紅葉でカラフルに染まった山の間を走り抜ける。

同乗者は先ほど道の駅で買った栗きんとんを心底美味しそうに頬張っている。

普段はしっかり者だけど、美味しいものを食べている時は見ているこっちがにやけてしまうぐらいに嬉しそうな顔をする。

昔からそうだ。


「ちゃんと残してあるよ」

「...ありがと」


あとで栗きんとんにありつけるらしい。 

運転にも気合が入る。

助手席から視線を感じるが、右側の絶景を肴に栗きんとんを頬張っているのだろう。



ほどなくしてランチ予定のお店についた。

駐車場は砂利が敷き詰められており、少し脚をとられる。


丁度栗きんとんを食べ終えて降り、脚をとられそうな彼女を支えつつ、店の扉を開く。


暖かな空気に満ち溢れたログハウス調の内装。照明はステンドグラスと懐かしげなランプだ。小雑貨の一つ一つに至るまで絵本のようなこの空間を形作る大切なピースになっていた。


テーブル席に着いた。彼女は評判のキーマカレーと、モンブランのセットを2つ注文する。ここにきても秋の幸は外せないらしい。

丁寧ながらはきはきと店員さんにオーダーを伝える彼女は先ほど栗きんとんを頬張っていた人物とは思えなかった。

店員さんが一人で切り盛りしているようで、注文品が届くまでは時間がかかりそうだ。


テラス席もあるようだ。

ちょっとテラスに出てみようか。


視界いっぱいに広がる紅葉は車窓から見えたものとは違った良さがある。

彼女も目を奪われている。


少し冷たい秋風が吹いた。

紅葉のグラデーションが揺れる。彼女の髪がなびく。


着ていた上着を彼女の肩にかける。

ありがとと言って彼女は袖を通した。手も寒かったのかポケットに腕を突っ込む。


「またポケットに何か入れっぱなしだよ。」

忘れて洗濯しそうだからポーチに入れといてよと彼女はそれを引っ張り出した。

しまったと思ったが、もう遅かった。

夜に渡そうと思っていたのに。


細い指に指輪をはめると、栗きんとんを頬張っていた時とは違って涙混じりだけど、幸一杯の笑顔を見せてくれた。

秋の終わりをつげる風は、二人に幸を運んだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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