家族旅行
朝食を取っているときに父さんがある話を切り出した。
「今度仕事でヤマツに行くことになった」
「あらそうなの?」
ヤマツはエタナトから三週間くらい馬車で行ったところにあり、過去に勇者が伝えた文化が色濃く残る国と確か本に書いてあった。
「そんな遠くに行くんだ」
「あぁ、遠いから中々大変な旅になりそうだ」
父さんは仕事に乗り気では無いのか少し落ち込んでいる。
僕は余りエタナトから出たことが無いので父さんがヤマツに言ったら是非話を聞いてみたいと思った。
そんなことを考えていると母さんがある提案をする。
「そうだわ!せっかくなら皆でヤマツに旅行しに行きましょうよ」
「一応仕事で行くんだが...」
「分かっているわ、あなたも空き時間はあるのでしょう?皆でヤマツを観光しましょう」
確か、家族皆で旅行に行ったことは無かったのでかなり興味がある。
「リオンもヤマツに行ってみたいわよね?」
「うん、行ってみたい。独特な文化があるって本に書いてあったし見てみたいかな」
「ほら、リオンもこう言っていることだし。どう?」
「う~ん」
父さんは仕事でヤマツに行くのに家族を連れて行って良いのか悩んでる様子だ。
まだ陥落しない父さんを見て、母さんが次はエレナに話しかける。
「エレナも旅行したいわよね?」
「はい!皆で遠出してみたいです!」
「ほら、エレナもこう言ってるわよ?」
「ダメですかお父様?」
エレナの目からお願い光線が発射される。あれは僕でも防ぎきれない。
「そ、そうか〜。エレナも行きたいのか〜、仕方ないな。じゃあ皆で行くか!」
「そうと決まれば早速準備開始よ!」
この日僕たち家族がヤマツに行くことが決まった。
僕は改めて本でヤマツについて調べていた。下調べって大事だよね。
ヤマツにはショウユやミソといった独特な調味料、ジンジャという神を祭る神殿、ミコと呼ばれる神と交信する者など様々な独自文化があると本に書いてある。
「ショウユとかミソってどんな味がするんだろう?」
「なにそれ~?」
「ヤマツにある独自の調味料らしい」
「ふ~ん、美味しいのかな?」
ベルとお茶をしながらヤマツについて話す。旅行にはベルやセラ、マリアも着いてくる事になったので一緒にヤマツの事を調べている所だ。
「どうだろう?でもこのナットウって言う食べ物は臭いらしいよ」
「え〜!臭いのやだー!」
鼻を抑えながらそれは嫌だと言っている。僕は怖いもの見たさで少し食べてみたい。
食べる時はベルやセラの近くじゃ無いところで食べよう。
「あと、ヤマツまでは三週間掛かるらしいから野宿とかもあるって父さんが言ってた」
「任せてご主人様!野宿の支度もマリア様に教わったからバッチリだよ!」
「頼りにしてるよ」
そういいながらベルの頭を撫でてこの日を過ごした。
数日後、準備が整いヤマツへ出発する日が来た。
今回はかなりの遠出になるため大勢の騎士たちが同行する。
「リオン様方の事は我ら騎士団がお守りします」
「うん、頼りにしてるよ」
「はっ!」
少し騎士たちと話した後に馬車へ乗り込む。今回は長旅になるので疲れづらい馬車で行く。
馬車の中に入ると床にはカーペットが敷かれており、ふかふかのクッションが壁際の椅子に設置されている。
「これならお尻痛くならなそうだね」
「あぁ、長旅で一番辛いところだからな。金は惜しまん」
「このクッションふかふかです!」
エレナはクッションが気に入ったようだ。僕も早速座ってみるが中々に気持ちいい。
「にゃん」
「レーナはそこがいいの?」
どうやらレーナはクッションの上より僕の膝がいいらしい。僕が座っているといつも膝の上に乗ってくる。撫でやすいからいいんだけど硬くないのかな?
「ヴィンセント様、準備が整いました」
「よし!出発だ!」
こうしてヤマツへ向けて馬車が進みだした。
道中はエレナやレーナと遊びながら過ごしていた。
「お兄様!次はクマさんが見てみたいです!」
「いいよ、それ!」
僕は光の魔術で動物を再現してエレナに見せていた。少し複雑になるが動かすことも出来る。それで今はリクエストに答えてクマを作って動かしている。
「うわー!凄いですお兄様!本物のクマさんみたいです!」
喜んでくれたようだ、良かった。
「ご主人様、お飲み物はいかがですか?」
「貰おうかな」
この馬車にはセラ、ベル、マリアも同乗しているのでセラが僕たちの世話をしてくれている。ちなみにベルは外の景色に夢中だ。
「ベル、あなたも給仕の仕事をしなさい」
「見て見てマリア様!あそこにウサギがいるよ!美味しそ~」
相変わらずのマイペースさにマリアがため息を吐いている。
しばらく魔術で遊んでいるとエレナが聞いてきた。
「お兄様、私にも魔術は使えるようになりますか?」
「ん?う~んどうだろう、多分使えるようになると思うけど...」
「本当ですか!」
エレナは魔術に興味がある様子だ、期待の籠った目で見てくる。
「使ってみたいの?」
「はい!」
「じゃあ少し練習してみようか」
そんなことを話していた時、視線を感じたので辺りを見回して見ると全員がこっちを向いていた。
「?どうしたの?」
「リオン?それは私たちでも使えるようになるのかしら?」
どうやら皆魔術が気になっていたようだ。
「多分出来ると思うよ?練習してみる?」
「まぁ、ヤマツまで暇だしありかもな」
「そうね~、少し教えて頂戴リオン」
「はーい」
こうして皆に魔術を教えることになった。
まずは魔術の基本的な事から皆に教えていく。
「まず、魔術を使うには魔素を操る技術が必要なんだ」
「魔素ですか?」
魔術は魔素によって成り立っている。魔素を操れないと、いくら魔力操作が上手くても絶対に発動しない。
「そう、魔素だよ。この空気中に沢山の魔素が漂っていて、それを操ることが魔術への第一歩なんだ」
「この空気中にある魔素...」
そう言ってエレナは空に目を向けるが何も見えないのか眉を寄せて首を傾げている。
「何も見えません...」
「はは、魔素が見えるのは珍しいんだってさ。僕も父さんに聞いて初めて知ったよ」
「そうなんですね、お兄様凄いです!」
エレナが褒めてくれたので少し照れくさくなる。だがエレナには新たな疑問が生まれたらしい。
「魔素が見えなくても操れるんでしょうか?」
「う~ん確かに、試してみようか」
「はい!」
確かに僕は最初から魔素が見えていたから動かせたのかな?少し疑問に思ったので皆で動かしてみる事にした。
「まずはイメージしやすいように手を空中に向けて、魔力を動かす感覚で「魔素よ動け」って念じてみて」
「空中に手を向けて...むむ!」
そう言うと馬車に乗っている全員が空中に手を向け念じ始めた。
すると皆の手の前にある魔素が揺らいでいるのが見える。
「どうですかお兄様、動いていますか?」
「うん、全員動いてるね」
「俺も動いてるのか?」
「リオン、私は?」
「父さんも母さんも、手の前の魔素が動いてたよ」
やっぱり魔素が見えないと反応が分からないから微妙な感じになるよね。
そのあとしばらく魔素を動かす訓練を行ったが、やはり見えないと実感が無いのか皆首を傾げながら行っている。
「う~ん、やっぱ魔素が見えないと実感がわかないから訓練に身が入らないな」
「そうね~、私たちはやっぱり普通の魔法を磨いた方が良さそうね」
そう言って父さんと母さんがまずは脱落した。エレナは今も真剣に魔素を動かそうとしている。
「お兄様はこの魔素を動かす訓練をどれくらいしたのですか?」
「僕は一ヵ月くらいだったかな?」
「それくらい練習すれば私も文字を作れますか?」
「多分ね、見た感じエレナは筋が良さそうだから出来るようになるかも」
「頑張ります!」
エレナが集中して魔素を動かす訓練を行っているのを見て、僕は魔術が使えるようになりますようにと神クロノに祈った。
リオン、初めての外国です。




