魔法が使えない?
やっと魔法のお話です。
セラとベルがメイド見習いとして働き始めてから半年が経過した。
セラは真面目に働き、ベルは元気いっぱいだった。今日は庭園でリオンがお茶を楽しんでいる。
「見て見てごしゅじんさま!私のかれいなる紅茶さばきを!それ~!」
セラはいまだに敬語が苦手なため普通に話し、そのたびにマリアに注意されているが一向に治らない。
ただその代わりメイドとしての技量は五歳時にしては群を抜いており次々と仕事を覚えている。
今もリオンの前で天高く掲げたティーポッドから一滴も零さずに紅茶を注いでいる。
「おぉ!すごいよセラ!こぼれてない!」
「えへへ~すごいでしょ?」
「セラ、敬語を使いなさい」
「す、すごいでございましょう?」
「あははは!」
その様子を見てリオンが笑う。
「ごしゅじんさま、こちらのおかしもどうぞ」
「ありがとうセラ」
セラはしっかりと敬語で話し、メイドとしての仕事もベルと同じくらいである。
そんな談笑をしているとヴィンセントが姿を見せる。
「お、ここに居たのかリオン」
「とうさん?どうしたの?」
「ちょっとな。リオン、魔力操作してみてくれないか?」
「ん?わかった」
そう言い魔力操作をする。その様子を眺めていたヴィンセントは一つ頷く。
「うん、魔力も滞りなく動いてるしそろそろ使ってみるか?魔法」
「え、いいの!?」
「あぁ、教えてやろう!」
「やった!!」
ついに念願の魔法を教えてもらえると聞いて喜ぶリオン。その様子をメイド衆は笑顔で眺める。
「よし!早速練習してみるか?」
「やりたい!」
善は急げとばかりにリオンは席を立ち上がりヴィンセントの近くに寄る。
そこで魔法についての説明をヴィンセントが始める。
「既に知っていると思うが、魔法を使うためには詠唱が必要だ。そして詠唱とは、声に魔力を乗せて魔素に何をしてほしいか伝えるための手段だ。古い言葉で言霊と言ったりもする」
詠唱する際、声に魔力を乗せないと魔素が何をしていいか分からず魔法が発動しない。
そのため詠唱する際にしっかりと声に魔力を乗せることが重要である。
「リオンは既に魔力操作技術がしっかりしてるから声に魔力を乗せられるだろう」
リオンに魔力操作の訓練をしっかりと施していたのはこのためである。
「あと、詠唱はなるべく分かりやすくしたほうがいいのが一般的だ」
魔素に何をしてほしいのか分かりやすく伝えたほうが魔法が成功しやすい。
「ファイヤーボールなら、「火よ、敵を燃やす球となり爆発せよ」。ウォーターランスなら、「水よ、敵を貫く槍となれ」みたいな感じでな」
ヴィンセントから詠唱のイメージを聞き自分の中で固めていく。
「リオンは前に自分の魔力を青白いと言っていただろう?多分水属性だから、水属性の魔法を試してみよう。最初だしクリエイトウォーターがいいかな」
「わかった!」
リオンは早速とばかりに魔力操作をはじめ、声に魔力を乗せ詠唱を開始する。
「水よ、あつまりかたまりとなってけんげんせよ、クリエイトウォーター!」
詠唱が終わったが魔法が発動しない。リオンは首を傾げながらもう一度詠唱を開始する。
「水よ、あつまりかたまりとなってけんげんせよ、クリエイトウォーター!!」
しかし魔法が発動しない。
そんなリオンにヴィンセントは笑いながら話しかける。
「ははは、リオン。実は魔法って最初は中々発動出来ないんだ。イメージが足りて無かったり声に魔力を乗せられなかったりしてな」
そうなのかと頷くリオン。
「見た感じしっかりと魔力は乗ってるから後はイメージの問題か?ちなみに初めて魔法を発動させられるのは早くて一週間くらいだ」
「へ~、そうなんだ」
そんな説明を聞いて頷くリオン。ヴィンセントは内心別のことを考えていた。
「(リオンだから初めてでも少しは魔法が発動すると思ったんだがな...)」
「リオン様、大丈夫です。きっとすぐ使えるようになりますよ」
「そうだよごしゅじんさま!だいじょうぶだいじょうぶ!」
「きっとつかえるようになります。」
少し落ち込んだように見えたリオンを励ますマリアとベル、セラ。
それからもリオンは魔法の訓練を行っていたが、魔法が発動出来ないまま一週間が経過した。
少しリオンは不安になりつつも訓練を続けているがいまだに魔法は発動しない。
「う~ん、今日もできなかったなぁ~」
「大丈夫です、ごしゅじんさま。きっと使えるようになります」
「そうだよ!まだいっしゅうかんだよ?もうすぐ出来るって!」
「めげずに頑張りましょう」
「うん、ありがとう」
セラ、ベル、マリアの三人に励まされ気合を入れて魔法の練習に励む。
そこからさらに一週間経ったある日変化が起こる。
「水よ、あつまりかたまりとなってけんげんせよ、クリエイトウォーター。え?」
少し、本当に少しであったが一瞬だけ水が手の中に出来た。その証拠を主張するようにリオンの手は濡れていた。
「ご、ごしゅじんさま!いま水出てたよ!?」
それを眺めていたベルが驚く。
「う、うんもう一回やってみる。水よ、あつまりかたまりとなってけんげんせよ、クリエイトウォーター!」
すると掌に水が集まり塊を形成し、その様子を見ていたリオンは感動する。
「で、出来た...出来た!!」
「やったよごしゅじんさま!すごいよ!」
はしゃぐリオンとベルはそのまま両親へ報告しに行く。
「とうさん!かあさん!まほう使えるようになった!!」
「お!ついに使えるようになったか!!」
「あら、良かったわね~リオン」
「とうさん達に見せてくれるか?」
「うん!水よ、あつまりかたまりとなってけんげんせよ、クリエイトウォーター」
ヴィンセントたちに魔法を見せてほしいと言われたので自信満々に魔法を発動するリオン。
詠唱が終わると掌に小さな水の塊が現れる。
「おぉ、使えるようになってるな!」
「え、えぇそうね。使えてるわね?」
二人は少し怪訝な顔をしたがすぐにリオンを褒める。
ヴィンセントは少し考える仕草をしてからリオンに話しかける。
「リオン、聖属性の魔法も使ってみてくれないか?」
「せいぞくせい?」
「前に魔力が青白いと言っていただろう?多分聖属性も使えると思うんだ」
基本的には一人につき属性は一つだが極稀に二つ以上の属性を使うことができる人が存在する。
「分かった!せいよ、その光を用いて身をきよめたまえ、クリアライト」
詠唱するとリオンの身の回りに弱弱しく光る。
「できた!」
「おぉ、本当に使えたな(マリアの魔法に比べると弱い気もするが...)」
「凄いわリオン!」
「えへへ」
こうしてリオンは魔法が使えるようになったのである。
次の日ヴィンセントは執務室で魔法についての文献を調べていた。
リオンの魔法を見てヴィンセントとリーシャが感じたことは、普通と比べると些か弱弱しいという感想だった。
才能溢れるリオンであればもっと劇的な効果が出ると思っていただけに、意外であったヴィンセントは調べてみることにした。
内容は複数の属性を持つものについてである。そしてある文献を調べていると気になる記述を見つける。
「魔力操作はできるのに魔力を声に乗せることが苦手な人がいる、これは適正魔力が複数ある場合に起こりやすい...か」
リオンはおそらく水属性と聖属性の魔法を発動したことにより二つの属性があると思われる。そのため、リオンの魔法は弱弱しいのだと推測する。
そのことをリオンに伝えることにする。
「....って事で、リオンは二つの属性を持っているから魔法の効果が弱いらしい」
「あ~、やっぱりそうなんだ。なんか弱いと思ったんだよね~」
少しは落ち込むかと恐る恐る報告したヴィンセントであったが、リオンは別段ショックを受けた様子もなくのほほんと答える。
「でも、使えないわけじゃないんでしょ?」
「それはな、今もちゃんと発動は出来てるだろ?」
「そうだね、じゃあいっぱいれんしゅうするよ!」
にこりとほほ笑んでそう言ってのけるリオン。
こうしてしばらくの間リオンは苦難の道を歩む。
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