3・レティシアの見習い化粧魔導士 その3
ブラウンの髪、紫の瞳。
間違いない、小さな雨……涙雨の日に魔導館レティシアに訪れるあの人だ。
アンナはそう思った。
(待って待って。まずは挨拶とお礼と名前を聞きたい)
急な幸運にドキドキする胸を押さえて、アンナは震える足で涙雨の人の元に近づく。
名前も知らない人に恋をしたのは、ほんの3か月前だった。
アンナは、ハッと鞄の中を漁る。
そして、小さな袋を見つけ、大事そうに握った。
(そうだ、コレをまず見せなきゃ。大事にしていますって。ずっと持っていますって伝えて……。それから……)
一歩一歩、涙雨の人に近づくアンナ。
「あっ……あの」
震える声で、彼に呼びかけようとしたその時だった。
「ヒィイイイイン!!!」
すさまじい雄叫びが空から聞こえる。
それから風、大きな影。
「空中騎士団!」
アンナは思わず空を見上げる。そこにはペガサスに乗った空中騎士団が5騎、空を飛んでいた。
空中騎士団はこの国の最高峰の警察官だが、首都を飛ぶことはあまりないため会えるのはレアだった。こんな雨の日の飛行はさらに珍しい。さっきの雄叫びは彼らが操るペガサスの鳴き声だった。
「わあ、見るの人生で3回目だ。かっこいい~」
空中騎士団の姿を眺めたアンナは、すぐに涙雨の人の方を振り向く。
だが、そこには同じように空を見上げる通行人たちだけで、彼の姿はもうどこにもなかった。
「ええ~!」
空を見上げたのは、ほんの十数秒。
何度も何度も辺りを見回して走って探しても、彼の姿はもうない。
アンナはそっとため息をついて、握っていた小さな袋をまた鞄にしまった。
「大丈夫、きっとまた会えるよね」
そう呟いて、ぎゅっと前を見て急いで金の魔導石を手に入れるために中央魔導取引所へと走り出したのだった。
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