2・レティシアの見習い化粧魔導士 その2
「今日もお客さん、少ないねえ……」
赤い絨毯を歩きレティシアに入るお客さんを眺めながら、アンナはポツリと呟いた。
魔法王国「イルシャン」の首都「ロッテドルマ」。
人の心をも操る「化粧魔導士」と呼ばれる魔法使いたちが作った化粧魔道具を置く、老舗魔導館「レティシア」。
世界中の人々のあこがれの場所……。
のはずが、開店して30分、入って来たお客さんは両手で数えるほどだった。
(若者は、他の百貨店や中央の魔導具街で買い物するもんねえ)
レティシアは創業199年。来年は200年を迎える。そのため値段が他より高く、また流行りの物も置かない事から若者達に敬遠されていた。
でも、賑やかなレティシアを見てみたいとずっとアンナは思っていた。
(どうやったら若い人が来てくれるんだろう。ここの魔導具って高いんだよなあ~。もっと安くするためには原価の魔導石を安く調達するしかないんだけどなあ)
口元に指をあてて考えこむアンナ。これはアンナの癖の一つでもあった。
そしてハッと思いつき
「だから魔導石がたくさんある洞窟をレティシアが発見して購入すれば……」
キラキラした瞳で独り言を言うアンナ。
だが、その言葉の続きは無かった。
「ア~~~~ンンンナ~~~~~アアアアア~!」
後ろからはブライアン導士の地を這うような声が轟いてきたのだった。
「きゃあ!」
「きゃあ!……じゃない! 今日の材料の調達は住んだのか」
「あっ、はい。火喰いコウモリの爪が10個と、雫草が5束。あとは青の魔導石のかけらを20個、中央から持ってきてもらいました」
アンナがさぼっていると思っていたブライアン導士は、ぐぬぬと苦虫をかみつぶしたような顔になり、去り際に
「金の魔導石を1つ追加でな!」
と、アンナに別の仕事を押し付けたのだった。
「え? そんな……。今から、魔導具の呪術式のお手伝いでは」
魔導士の仕事の中に、道具に魔術を込めるという物がある。星の高い魔導士しか使えないその技を覚えるには見て盗むしかない。アンナは呪術式の仕事が大好きだった。
だが、ブライアン導士はそれを知ってか知らぬか、なかなかアンナに呪術式の手伝いをさせてくれなかった。
「いいか! アンナ! お前は見習い化粧魔導士だ。私が上に提言すれば、すー――ぐ、クビになる事もできるんだぞ! 星のない魔導士なんてこの世界では役に立たないんだからな!」
「……はい」
「その材料は、俺が貰う。さっさと行け!」
ブライアン導士の言う事はもっともだった。
アンナは持っていた材料をそっとブライアン導士に渡し
「では金の魔導石を1つ調達してきます……」
そう、しおしおと裏口に向かったのだった。
従業員専用の裏口通路は、ほの暗く、昼間でも真夜中のようだった。
アンナは錆ついた重い扉を開ける。
扉を開けた瞬間、柔らかな白い光の直線が暗い通路に描かれるように引かれる。
「わあ」
音の出ない小さな小さな雨が街中に広がって、白い霧を作っていた。
涙雨の日だった。
そしてアンナの目線の先には、薄いブラウンの髪に紫の瞳の長身の男性が映っていた。
今日は黒のロングコートを着ている。
「涙雨の人!」
ずっと会いたかった彼だった。
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