1・レティシアの見習い化粧魔導士 その1
魔法王国「イルシャン」の首都「ロッテドルマ」
ここには「化粧魔導士」と呼ばれる魔法使いたちがいた。
彼らは化粧道具に魔法を込める化粧魔導具を作り上げることができた。
そして使う人に、勇気や元気、時には性的な魅力を与える事が可能だった。
三ツ星の魔導士が作る上級魔導具は、国の未来をも左右すると言われ、重宝されていたのだった。
これは三ツ星を目指す見習い化粧魔導士「アンナ」のお話である。
化粧魔導具は、選ばれた魔導館でしか売っていない。
首都ロッテドルマンにある魔導館はいくつかあるが、その中でも「レティシア」は老舗で伝統のある魔導館。
白亜の大理石に赤い絨毯、ステンドグラスが美しい3階建てのレティシアでは、午前10時になると世界中から客がやってくる。
アンナは大理石のカウンターに魔法で布に記載されたチラシを置いていっていた。
だが、少し悩んだ後、すでに並んでいたチラシをもう一度整列させ、チラシが前後ろ交互になるように並べる事にした。
魔法でフワフワとチラシたちが空を舞う。
その時、ステンドグラスにぽつりと雨粒が落ちたのをアンナは見た。
「雨……! 今日は『涙雨の人』に会えるもしれない!」
さっきよりもウキウキしながらチラシを置くアンナ。チラシはくるくるとステンドグラスの上まで舞う。
だが、上機嫌なのもそこまでだった。
すぐに怒鳴り声がアンナの元に響いてきたのだった。
「アンナ! アンナ・ブラウン!」
アンナの上司、二つ星の称号を持つ化粧魔導士のブライアンだった。
「はっ、はい!」
アンナはびっくりしながらもブライアンに答える。ステンドグラスまで浮いたチラシは驚きのあまり、カウンターに散らばってしまう。
「あああ……!」
「お前は一体何をやってるんだ。開店まであと10分だぞ!」
「ブライアン導士。私、良い事考えたんですが、チラシって全部表を向けるように指示書にはありましたけど、表裏交互にしてはいかがでしょうか?」
ブライアンはそんなアンナの提案に苦々しい表情を見せる。
「お前は何を言っている。チラシは全部表だと決まっているんだ」
「でも、全部表ばっかりじゃ、同じ絵ばっかりになってしまってつまらないと思うんです。裏の写真も素敵ですから交互に置くことで、お客様の関心を……」
全部を言わないうちにブライアンの怒りはまた頂点になる。
「うるさい、うるさい、うるさーーーーーい!
いいか、これは伝統あるレティシアのチラシの置き方だ!
偉大な先人がやってきたことを真似てありがたーーーく、仕事をこなすんだ!」
その様子を見ていたのは、ブライアンの部下でもありアンナの先輩でもあるエリオットだ
った。エリオットはアンナを小馬鹿にするように笑いながら告げる。
「そうだよ。導士の言う通りだ。早く元に戻しなよ」
アンナは納得がいかないつつも、しょうがなく、
はーいと小さく返事をする。
その声に対し、ブライアンはまたギッとアンナを睨むのだった。
アンナが指をさすと、チラシたちはフワっと宙を舞い、すべてが表になって綺麗に整列した。
その様子を見て、ブライアンとエリオットは他のフロアに行く。
「チラシの裏側に書かれているイラストも素敵なのにね」
アンナはチラシを撫でて、寂しそうにつぶやくと、水晶時計が10時の音楽を奏でた。
「さて、今日もお仕事がんばりますか! 涙雨の人、来てくれるかな?」
アンナは笑顔でお客様を迎えるのだった。
だが、レティシアに来たお客はアンナの予想とは違っていたのだった……。
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