1,やっちまった(5)
「へぇ、ずいぶんと上手だね。それにとてもご機嫌だ。何かいいことでもあったの?」
背後から目の前に突如として現れた何者かに、気づくことができなかったのだ。
「うおおおおあああぁぁ“いっ、てえぇ」
驚いて後ろに下がろうとしても階段に座っていたので後ろは同じく階段だ。自分から鉄の塊に向かって広報頭突きをしてしまう形となり、結局黒縁の眼鏡だけがずり落ちた。
垢ぬけた視界には、ぼんやりと目の前の忍者を浮かび上がらせる。
なんか、頭部は白い。それだけはわかった。顔は見えないが声は男だ。一瞬だけ素顔をみたが、絶対関わってはいけないレベルの、アレだった。
「く、ふふっ、大丈夫? 慌てすぎだよ、ほら、立てる?」
裸眼では見えないが耳越しで悪魔のような笑い声を拾った。羞恥心はひとまず後回しだ、どうせすぐに特急でやってくる。まずは、状況の判断と、この伊賀者の正体を知らなければ。てか、こいつ今ぜってえほくそ笑んでやがるぞ、見えんけど。
俺を起こそうと手を出してくれているのだろうが、まずは自分の黒縁眼鏡を上にあげ、垢まみれの視界を取り戻す。目の前には、好青年そのものといった切りそろえられた白髪の髪型に深い青色の瞳、大きく優しい目つきは見るものを魅了するためだけに特化しているのではといった美麗さ。その瞳は、それ以上の美麗さを持つ端正かつ儚い顔立ちによって、その人物は芸術品の域へと到達していた。
だが、コイツ絶対性悪だ。俺のあまり役に立つことは無い直観はそう脳内に響き渡らせた。
はい、皆さんお察しの通りでございます。
俺は、近づくことは今からもこれからもないと心の中で宣言した歩く電波塔に、先端をのどに突き立てられている状態へとなりました。へるぷみー。 ・・・なんで、幸せってやつは対価がないと味わえないようになってんだよ。現金主義にもほどがあるだろ恨むぞ世界!!
これが、俺こと望月望と音無響との、運命的な出会いでも、幸運な導きによるものでもなく、ロマンもへったくれもあったもんじゃない、ただの油断が招いた、自業自得な喜劇の始まりだった。