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表裏別体の君へ  作者: いかゲソ
4/6

1,やっちまった(3)



 【緊急ミッション! 安息の場を求めよ】


 そう、ぼっちでいられるかつ俺を流出しても誰に認知されることのない唯一の居場所探しである。


 流石に、息をするだけで毎分毎秒ライフが減っていくというのは無理ゲーが過ぎる。どこの世界(RPG)でも休息は絶対だ。ちなみに中学の頃は体育館裏の倉庫内であった。・・・なんだよ、その目。悪かったな根暗で。他に俺に戻れる場所がなかったんだよ。


 そこは常時鍵が開いていたし、体育館からの死角にもなっていて立地が好条件であった。それだけの理由で俺は三年間、暗闇に満ちた牙城を根城にしていたのだ。幸い、その倉庫は物置小屋としては機能していない、ただの空洞置物となっていた。それでもたまに興味本位で開けようとしてくる外敵が存在したが、その場合めっちゃ頑張って扉を塞いだ。マンパワー(火事場の馬鹿力)である。お陰様で少しだけ筋肉がついたような気がしないでもないような。そして鍵がかかっていると勘違いをし、その場を幾度となく切り抜けてきたのだ。


 俺の犬の餌にもならない名誉のために発言するが、一応友達というものは俺にだって存在していた。流石に年がら年中我が牙城に引きこもれるわけはないだろう。昼飯の時はちゃんと友達とくっちゃべりながら過ごしていたし、休み時間の時でも次の授業について意見交換という名のプリント写しをしたりされたりしていたのだ。


 ただ、そこに『俺』は存在せず。

 『私』としての、不変普通を過ごしていた。


 だから、この矛盾が俺を狂わせる。私を維持し続けるためには、俺が機能していることが前提なのだ。だが、俺という潤滑油はあろうことか外へと吐き出さなければ機能不全となりやがる。結果、心のエンジンは焼き付いて、肉体面での燃料補給は滞りないが、精神面の内と外の齟齬に苦しむという自己犠牲というか、自己破滅というか、自業自得というか。


 要するに、ガス抜きというものが必須となったという訳だ。

 時たまこっそりと友達の目を抜け出しここへ駆け込み、俺を外界へ放り出す。それだけで、俺は何とかやってこれたのだ。


 ここまでくればもう偏屈通り越して頑固の域へと到達しているのだが、この頑固というもの、名前から察せられる通りすこぶる固い。ダイヤモンドだって加工できるほどの融通は聞くというのに、梃子を使おうと微動だにしない。


 こうして、俺はすこぶる扱いにくい愛すべき我が精神をなだめるために、まだ土地勘も地図もない危険極まりない冒険へと旅立ったのだ。初期装備の制服と入学おめでとうのしおり。たとえスライムにやられてしまうような雑魚勇者であろうと、俺を凌ぐ雑魚装備はそうそうお目にはかかるまい。


 人の目を気にしながらあちこちを探訪してみる。

 だが、思った以上に人の目はさほど多くはなかった。新入生に用意された本校舎の三階から下に降りても、人っ子は全て、俺と同じ皺を知らない制服と春色のしおりを握りしめた新入生のみでありまばらであった。後になって知ったことだが、この時すでに上級生は帰らされていたという。入学式には大勢の先輩方が我々新入生の門出を建前上は祝っていたはずなのだが。結論から言えば、「入学式終わって君たちは用済みだから各自帰ってね。あと、部活動とかは明日にしてね。面倒見るの面倒だから」という先生方の総意だったらしい。


 いや、かなり端折って説明したけどマジでこういうことらしいのだ。

 うんうん、人間味溢れる合理的な判断で恐怖を感じる今日この頃この学校。


 だが、俺にとっては好都合で有難いことこの上なかった。

 余計な索敵に時間を割かれることもなくなり、悠々自適に孤独探訪を再開する。

 二階から一階へ、そこから渡り廊下を歩き別棟の校舎へと移動する。俺のいた本校舎が俺たち学生の学ぶ場だとしたら、この別校舎は技術を身に着けるための場であった。つまり、調理室や実験室を主とした学生生活になくてはならない普段とは違う刺激を与えられる、みんな大好き移動教室のたまり場が別校舎という存在であった。一階には職員室、二階には理科室と実験室と区切られてはいるがもはや何の区切りもない融合部屋や、茶道部が使っているであろう和室の教室。三階には厳かな雰囲気の案外大きな図書室と、何故その隣に作ったのか理解できないちっぽけな放送室があった。他にもさまざまな学生生活必須教室があったが、それは今の俺にとって重要ではない。目的を見失ってはいけない。これでは本当にただの学校探訪になってしまう。


 別校舎二階の突き当りにぶち当たり、ため息を吐いて己の職務を思い出す。

 しかし、ここまでぐるりと見て回ってきたが特に死角となれる場所は存在しなかった。本校舎別校舎ともども屋上というものは存在していたが、あそこはどうやら常時開け放たれているらしい。両方とも、いとも簡単にドアが開かれ、俺のような確固たる目的を持たない先客達がこぞって景色を眺めていた。そりゃ、憧れるよな。校舎の屋上というものは、その言葉だけでも甘美な響きだ。特に学生の身にもなれば毒キノコをも凌駕する痺れを与えられる。こんなとこにはいられねぇ。俺は一人になりたいのであって、青風邪を引きたくはない。ぶえっくしょん。


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