1,やっちまった(1)
四月一日入学式、辺りの桜は満開で、義務教育最後の門出を彩り豊かに表している。
小桜市桜花町市立桜高等学校。
俺の入学した高校はこれでもかという程、とある花の名前に依存していた。いや、もはやここまで堂々とこすりまくっていると清々しい気分にもなる・・・・ような気がしないでもない。いや、やっぱりくどいな、どんだけ桜好きなんだよ。もうちょっと自重することを覚えた方がいいぞこりゃ。は?俺の名前? ちょっと今全力で目を逸らしてる道中なんで邪魔しないでもらえますか?
さすがに校舎は普通のザ・学び舎という印象であった。あぶねぇあぶねぇ。壁一面ピンク色だった日にはカップ麺を作ることすら億劫なこのめんどくさがり屋が転校を決意していただろう。ま、学校説明会の時にわかっていたことではあるけれど。
入学式が滞りなく終わり、各々決められた教室へと戻っていく。
その道中、やけに女子どもが盛りだっている声が聞こえてきた。あんな大きなひそひそ声って矛盾してるにもほどがある。別に聞くつもりはなかったが、入学式が終わったあとの入学生が一斉移動している最中、その女子グループと狭い通路で同じ階に移動する羽目になったのだから、必然的に聞いてしまう。俺には友達ゼロスタートなので話し相手もいないしねははっ。
「見た見た? 入学式の時皆の前で入学証書貰ってた白髪の超絶イケメン! あれって私たちと同じ学年ってことだよね!?」
「当たり前じゃん、あの人、2組らしいよ? 私おんなじクラスだったの! これって運命感じない?」
「うっそ、変わって変わって~。毎日イケメンのご尊顔を拝めるなんて羨ましすぎて死んじゃう~。・・・ってあれ、噂をすればちょっと前に歩いているのってそのイケメンじゃん!」
「え、どこどこ、、、アッホントだ! はわわぁ、歩いている姿も様になるぅ」
「え、待って。今こっち向いたよね? ちょ。ちょっと! 今絶対微笑んだ! え?私?私じゃない?」
「んもう、私たちの声がいつの間にか大きすぎたんだよ。ほら見て、周りの人たち私たちに釘付けじゃん」
「あ、ホントだ、ごめんなさーい。・・・でもやっぱり私を見てたと思うんだけどぉ」
「ハイハイ、そうだといいね。まぁ彼と一緒のクラスは私なんだけどぉ」
女ってやっぱ怖え。こんな短時間でマウント合戦だよ。女子だけ戦国時代で生きてんじゃねえの?いや、俺も女だけどさ、同じだからこそ部類が違いすぎて尊敬の域にまで到達しそうだわ。
にしても、やっぱ顔がいいってだけで話題総なめとは。現代社会は昔から相も変わらず外見主義のようですね。こんなくそな世の中、略してくそ中じゃ、迷惑を被って苦労してるやつとかいるだろうがな。イメージ通りじゃないと許さない、みてぇな。アイドルじゃあるまいし、お前らの勝手な都合をぶつけんじゃねえって話だけども。
ちょっと主観が入った。さっきのやつはどっちだろうなぁ。まぁでも、あんな歩く電波塔に近づく用事も勇気もねえし、この話はここでジエンドっつーことで。
俺のクラスは一年一組、非常にわかりやすくて結構毛だらけ毛むくじゃら。画数も必要最低限、無駄をそぎ落とした感じで大変宜しいクラスであった。
だが問題は、入学一日目にしてクラス全体が賑わっていることだ。おいおい、こういうのってもっと厳かな雰囲気に包まれているものじゃないのか? 誰も彼もが初対面だぞ?中学から一緒ってやつももちろんいるだろうけど、それでも数人ぽっちの小さな偶然だろう。だというのに、俺の苦手な空気が一日目で作り出されていた。
やべぇ、泣きそう。
はよ来い先公。あの賑わいの中心人物に立っている絶対野球部入るだろお前って感じの爽やか短髪運動系ボーイに見つかる前に早く! ハリーアップ!!