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表裏別体の君へ  作者: いかゲソ
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プロローグ


  


 「じゃあごめんだけどよろしくね。望月さん」

 「はい、わかりました。この教材を教室まで運べばいいんですね?」


  俺が廊下を歩いていると、最悪なことに担任の先公に見つかった。曰く、一人で運ぶには重すぎるので一緒に運んでほしいということ。のくせに自分は別の先公に呼ばれて俺一人で運ぶ羽目になった。普通にめんどくさい。

 この先公が何故俺に声をかけたかというと、推測される理由は二つ。

 一つ、俺はなし崩し的に学級委員という立ち位置になってしまっていること。

 二つ、本音を決して外に漏らすことのない、外面ばかりの良い子であること。

 自分でも、心の内と外で温度差がありすぎて、いつでも風邪をひいてしまいそうだが、この一六年間、一度も体調を崩したことのない健康優良児なのだ。

 一度くらい風邪ひけよくそったれ。おかげで小中学校皆勤賞貰ったわ。くそ真面目も甚だしい。滑稽なくせに笑えない。


 俺の名前は望月望。上から読んでも下から読んでも望月望という言葉遊びで名づけられた。うちの両親、メルヘンすぎて困っちまう。しかも調べてみると名前の意味もメルヘン重複すぎてもはや脳内インベーダーでも攻めてきているのではないだろうか我が肉親。

 性格はさっき説明したとうり、物凄い内弁慶かつ言葉遣いも荒々しい。もちろんそれは俺の中身の話。外面は眼鏡をかけて前髪を伸ばした、一度も染めたことのない黒い髪を携えている。おそらく常人より髪は長い部類だろう。真面目を体現したような風貌から、入学式後の学級会で、委員長という面倒極まりない雑用係に指名されてしまった。俺を指名したやつら、賛同したやつら、全員燃えろ。

 でも、俺は断れない。別に、嫌われてしまうから嫌だとか、好かれたいからこうするとか、そんな殊勝な心掛けは持ち合わせていない。単に、俺を外に出した場合、クラスメイトの興味の対象となってしまうのが嫌なのだ。あと、過去に一回だけ俺を出してみたら、ちびっこだった同い年に泣かれた。普通にショックだったあの日あの時。


 なので、俺は俺を出すことなく、不変普通のストレスまみれの学校生活を送っているのである。

 先ほどの先公の用事をささっと済ませて、いつもの場所へとひた走る。

 そもそも今は昼休み中だ。学生の時間は短きことこの上ないのに、自分でやれよっていう用事で無駄に浪費してしまった。お前らも一度は歩んだ道ならば、学生の気持ちをほんのちょこっとは汲んでくれ馬鹿野郎。

 全く、お陰様で貴重な六〇分の内一〇分を消費してしまった。てか、学食のパンもう残りあんぱんしかなかったし。誰かメロンパン寄越せ。

 全く、どんな話題沸騰の人気店でも、学食の不朽に適うことは無いだろうな。

 結局売れ残りのあんぱん一個携えて、俺で居られる安らぎの場所まで一直線。人気の少ない非常階段。別段しゃべれるやつは教室内にいるにはいるが、やっぱりしゃべるだけでも俺のフラストレーションはたまっていく一方なので、こうして身を隠して己の高血圧への道をなるべく塞いでいく。一人でいられるなら、誰かに気遣う必要もない。


 この上なく、一人というのは都合がよかった。

 だから、この場所を重宝していた。

 まあ、ごく最近までの話だったが。


 「遅かったね、また何か頼まれごとでも押し付けられた?」

 「ああ、全くもってその通り。その通り過ぎて気持ち悪ぃ」

 「君と知り合って一か月経つしね、そのぐらいは予測できるさ。・・・うーん、もったいない。君の難儀な性格は普通に面白いじゃないか。なんでそんなに隠すのさ」

 「知らん。お前の考察でどうぞ考えろ。あとそのメロンパン寄越せ。」

 「やーだ。でも、君がもう一度歌ってくれるなら報酬として考えるよ?」

 「前言撤回、お前のメロンパンは鳥のえさにでもすればいい。」


 この神経逆撫で変態サイコ野郎こと音無響(おとなしひびき)は、苗字と名前が打ち消しあっている俺レベルの極端な名の持ち主だ。俺と同じ学年の隣のクラス。入学式の際、俺のとあるしくじりにより、俺はこのバカの前でだけは自分を隠す必要がなくなった。いや、言い方を間違えたな、弱みを握られたの間違いだ。最初はどうしたもんかと焦りに焦った。何せこの男、顔がいいのだ。俺とは正反対の絹のような白髪、儚いくせにしっかりとした端正な顔立ち。身長は百七十五センチと俺より十五センチ上の高身長。

 察しがいい人はここで気づくだろう。学生生活で顔がいいというのは、それだけでカースト上位勢筆頭となるのだ。おかげで学園の王子様とか背筋も凍る響きを、この性悪くそ野郎は肩書に採用している。そして問題は、この性悪は、俺のしくじりのあと俺にやたらと構いだしたことだ。

 マジで勘弁してほしかった。逃げ回るのにどれほどの労力をかけたことか。それでもやめる気配は毛頭ないし、俺を知ってるという心臓鷲掴みレベルの弱みを握りしめているから無碍にもできねえし、周りの女子どもの目線が猛獣のように怖すぎたし。・・・あぁ思い出すだけで身体が圧縮される。精神的プレスを味わったのであった。このままだと女子の目線だけで体が紙化してしまうところだった。なので、とりあえずの妥協案として昼食を誰にも見られることないこの場所で、このバカ野郎と一緒に過ごすということを提案した。その提案をこいつは喜びを隠すことなく受け入れ、今に至るという訳だ。

 サヨナラ俺のサンクチュアリ。短い間だったけど、君と過ごした時間は何よりも誰よりも素晴らしかった。


 「また振られちゃったか。いつになったら折れてくれるんだろうねぇ。ま、そういうとこが好きなんだけど」

 「うるせえ性悪が」

 さらに厄介だったのは、こいつが臆面もなくストレートに毎回告白的なものをしてくることだった。マジでわけわかんねえ、勘弁通り越してもう金やるから許してくれ何の拷問だこれ。その乙女ゲー台詞は俺以外の女子に行ってくれマジマジで。


 「あはっ、顔そらした。やっぱストレートな言葉には弱いよね。()()()()()

 「下の名前とちゃん付けで呼ぶなくそったれ」


 望月望(もちづきつき)一六歳、重複しすぎな名前を背負った、外見は紛れもない女の風貌。

 だが、勘違いしないでほしい。

 別に、男性口調だからって男扱いしろ、なんて性別的な問題は一切ない。

 俺は単に、口が悪くて外面が良くて考え方が偏屈な、別にヤンキーに憧れている思春期真っ只中という訳でもない、ただの不器用な一女生徒であるだけなのだ。

哲学的に言えば、俺は俺だから俺なのである。


 そこんとこしくよろ。




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