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06 転職




 ダイケイブからの負傷者が激増して以降、タリアの店では雇い人を増加してこれに対応していた。ピートと、ルイダと、タリアの妹のタータだ。


 しかし最近では急患は相変わらず運ばれてくるものの、以前のような猫の手も借りたいくらいの忙しさとは違い、徐々に落ち着いてきているのが事実だった。


 いずれにせよピートとルイダが交代で毎日の泊まり番をしてくれているのは有難い。夜間の診療についても、ピートとルイダはある程度の応急処置程度なら出来るようになっていた。そのため俺とタリアの負担は一層軽くなっていた。


 ただ、人を三人も増やした結果として、店の利益が減っていることも確かだった。以前のような忙しさが毎日続いていれば問題なかったのだが、一日の患者数がピーク時の半分となっている現在では、経営的な部分が問題となってきているところだ。


 自然と従業員のリストラについて考えざるを得なくなってきていた。


 泊まり番ができるピートとルイダは残ってもらう必要がある。すると、タリアの末の妹タータをリストラするしかない。




 そんな事を俺とタリアが漠然と考えているのを察知したのかどうかは知らないが、ある日タータが俺達に言った。




「ねぇ、店も落ち着いてきたし、私がこの先もこの店で働く必要はないんじゃないかしら。もしそうだったら、私はこの店を辞めてもいいわよ」


 俺とタリアは顔を見合わせた。タリアが何も言わないので、俺が口を開いた。


「でも、そうしたら君は次はどこで働くんだい?」


「実はね、次に働きたいところがあるのよ」


「どこで働くの?」俺とタリアがほぼ同時に聞いた。


「私ね、この店で働いているうちに、冒険に興味がわいてきたの。いつか、私も冒険者のパーティに入って、冒険に出てみたい」


「ちょっと待ちなさいあんた。そういう危ない願望はやめてよね」タリアが言った。


「まさか戦士にでもなろうっていうのかい」俺はタータに聞いた。


「いえ、戦士は私には無理よ。私、魔術師になりたいの」タータは言った。


 そしてタータは俺に、ベアリクを紹介してくれないか? と頼んできた。まずは、魔術師になるためにベアリクの弟子となって勉強をしたいと言うのだ。


「薬草屋の娘が魔法使いになるなんて。全く……」


 タリアは呆れかえってため息をつきながらそう言ったが、タータは意に介していない様子だった。




 結局、俺はその日のうちにベアリクの所にタータを連れて行き、弟子にしてやってくれないかと頼み込む破目になった。


 ベアリクは最初は驚いていたが、話を聞きながらそのうち笑い出し、「薬草屋の娘さんが魔法使いに入門するとは」とタリアと同じことを言った。


「でもな、悪いがタータ。うちはこのとおり小ぢんまりやっている職場なんだ。とてもじゃないけど、年頃の娘さんの面倒をみてあげられる環境じゃないんだよ。」


 ベアリクが俺の頼みを断ってくれたので、ホッと一安心したのだが、がっくり肩を落とすタータを見て気の毒に思ったのか、ベアリクが再び口を開いた。


「タータが本気で魔術師を目指したいのならな、俺から東の魔術師のサチメラに頼んでやってもいいよ。どうする? 本気で魔術師になりたいかい?」


落ち込みかけていたタータが、再び目を輝かせた。


「もちろんよ! 私頑張るわ。サチメラに頼んでください! 」




 こうして、タータはベアリクの口利きで村の東の魔法使いのサチメラの所に弟子入りし、修行することとなった。サチメラの職場はベアリクの職場と違って広く、一日の患者数も多い。サチメラとしても、人手が増えることは好都合だった模様だ。



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