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42 夢




 ダイケイブ行きを翌日に控えた夜、俺は夢を見た。




 夢の中で、俺は見覚えのある薄暗い通路を歩いていた。


 しばらく歩くと、通路の先に扉が見えてきた。


 俺は扉を開けようとドアノブに手をかけた。鍵はかかっておらず、ドアは開いた。扉の向こうは、部屋だった。


 あの顔の無い男と対面した部屋だった。


 部屋の中央にテーブルがあり、テーブルには椅子が差し向いに二脚置かれていた。


 そして、テーブルの上には、以前と同じようにメモ用紙が一枚置かれていた。




 メモ用紙には、

“please wait”

 そう書かれていた。以前と同じだ。


 俺は、椅子に座り、待ち続けた。




 どれほどの時間、待ち続けただろうか。


 俺が入ってきた扉の向こうから、足音が聞こえてきた。分厚い絨毯に吸収された鈍い足音。足音は徐々に近づいてきている。


 誰かがこの部屋に向かってきているのだ。


 足音は、扉のすぐ近くまで近づいてきた。そして、立ち止まった。おそらく、扉の目の前まで来たのだろう。そして、コツコツ、と扉をノックする音が聞こえた。


「入っていいですか」扉の向こうから、声が聞こえた。


「どうぞ」俺は返事をした。




 扉を開けて入ってきたのは、顔の無い男ではなく、シンだった。


「やぁ、また会ったね」俺はシンに声掛けた。


「また会いましたね」シンは、そう言いながら、テーブルの向こう側に回り、俺と差し向いの形で椅子に座った。


「アイランドはどうだい」俺は聞いた。


「どうもこうも無いですよ。アイランドに入った途端に災難続きです」シンは言った。


「君は、ザウロスに乗り移られてしまったのかい」


「ええ……。その通りです。全くついてない。僕は、この世界に降りてきた途端にザウロスに捕まってしまったんですよ」


「今は大丈夫なの?」


「今は、ザウロスは寝ています。寝ている隙をみて、急いでここに来ました。そう、ザウロスはね、まだ完全に力を取り戻していないんですよ。僕は操られてはいるけど、こうして寝ている隙に抜け出すこともできるんだから。今のところ、ザウロスは穴だらけですよ。……でもどのみち、あまり時間がない。ザウロスが目を覚ます前に戻らないと」


 シンはそう言って、椅子を引き、立ちあがった。


「ザウロスは、護符を手にした事で力を取り戻してしまった。でも、まだ杖を持っていいないし、タカハシさんは呪禁の護符を持っている。まだザウロスの力は弱いです。いくらかタカハシさんにも勝ち目はあると思いますよ。ただ、急いだほうがいい」


「わかった。急ぐことにするよ。シンは大丈夫か」


「身体を支配されて操られる気分がわかります? 

 ……それはもう、最悪ですよ。タカハシさん、なんとかしてくれませんか。僕を助けてください」


「助けたいのは山々だが、どうしたら良いのか……」


「僕に会ったら、僕を殺してください。そうしたら、ザウロスから逃げ出すことができるかもしれない」


「俺が、シンを、殺すのか」


「そろそろ行きます。会えてよかったです。さよなら」


 シンはそう言って、元来た扉を開けて出て行った。




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