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25 事後連絡




◆『タカハシさん、お疲れ様です』


◇『やぁこんばんは。どうしたの?』


◆『最近は調子はどうですか?』


◇『今は、バクタに向けて馬車で旅をしているところだよ。もうだいぶ長いこと馬車に乗り続けていて、腰が痛いよ。あと数日でバクタに到着する予定だよ』


◆『それはお疲れ様です。ところでタカハシさん、今日はお話があります。これからしばらく、お時間大丈夫でしょうか』


◇『一緒に旅している仲間はもう眠っているから、時間は大丈夫だよ。どうしたんだい?』


◆『実は、今まで説明できなかったのですが、ある事象がこちらの世界で起こっています。今日はその報告と、今後の方針についてご説明したいと思います』


◇『なんだ? 込み入った話なのか? トラブルか?』


◆『はい。トラブルと言って良いでしょう。実は、一カ月前、タカハシさんが目を覚ましました』


◇『?』


◆『こちらの世界で意識不明で眠り続けているタカハシさんの身体を、私共は万全の体制で管理してきました。……一カ月前のある日のことです。眠り続けていたタカハシさんが、突然目を覚ましたのです』


◇『ちょっと待って? 俺は今もアイランドの中にいるけど?』


◆『わかっております。タカハシさんは、今もアイランドの中で過ごされています。目を覚ましたのは、タカハシさんの脳内で新たに作り出された、タカハシさんとは別の人格なのです』


◇『なんだそれ? どういうことだ?』


◆『長期間、抜け殻となっていたタカハシさんの脳が、自己修復を試みたようなのです。今、タカハシさんの身体には、シンという別の自意識が乗り移っています。シンさんは、今日もタカハシさんの身体を使って、食事を食べ、リハビリに励み、栗谷と会話をして過ごしています』


◇『全く意味がわからない。俺はここにいるのに。俺のコピーロボットでも出来ちまったのか?』


◆『コピーロボットは良い例えだと思います。そのとおりです。シンさんは記憶を全く持たずに覚醒しました。しかし、話し方や立ち振る舞いなどは、こちらの世界にいた時のタカハシさんそっくりです』




◆『……タカハシさん? どうされましたか?』




◇『すまん、しばらく考えてた。とにかく、よくわからないけれど、そっちの世界で俺の身体は、今俺じゃない誰かに乗っ取られているということかな』


◆『そういう事です。ご心配ご迷惑をおかけし、申し訳ありません』


◇『それで、これからどうするんだ? 俺の帰る場所はあるのか?』


◆『方法が一つだけあります。こちらの世界で覚醒したシンさんの意識をアイランドに転移させます。そして、それと同時にタカハシさんをこちらの世界に戻します』


◇『そんな事ができるのか?』


◆『はい。実は、この一か月間、そのための準備を進めてまいりました。シンさんとタカハシさんの入れ替わりは、システムの再起動のタイミングで行います』


◇『前に、再起動はリスクがある、って言ってなかったっけ?』


◆『確かに以前に言いました。システムの再起動には、リスクが伴います。しかし、今となっては、この方法しかありません。どうかご理解ください』


◇『嫌だよ。少しでもリスクがある事はごめんだよ。断る』


◆『しかし、このままでは、タカハシさんの身体はシンさんという新たな自意識に占領されてしまいます。タカハシさんがこちらの世界に戻れなくなります。再起動のタイミングで、シンさんとタカハシさんが入れ替わる以外に、方法はありません。それも、できるだけ早く行うことが必要です』


◇『嫌だ。それに、今は忙しいんだ。大事な用件で、バクタに向かっているところだ。こんなタイミングで、俺はそっちの世界に戻るわけにはいかない。もう少し待ってくれ』


◆『残念ながら、待つわけにはいきません。事後連絡の形になってしまって申し訳ありませんが、実はシステム再起動のカウントダウンはもう始まっています』


◇『なんだって! いつ?』


◆『今から三十時間後です。そちらの世界で、明後日のちょうど夜明けの時刻になります。明後日の夜明けに、システム再起動が開始され、タカハシさんはこちらの世界に戻ってくる手筈となっています』



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