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20 護符には護符を



 俺はドゥルーダの屋敷で夕食を御馳走になった。老いた魔術師は食べ物も質素なものであるようなイメージだったが、ドゥルーダは違った。とても豪勢で美味そうな料理が並び、ドゥルーダはそれを次々とたいらげていった。俺も同じく、料理に舌鼓を打ちながら、出されたメニューのあらかたを食べた。


 食事が終わり、俺とドゥルーダは応接間へと移り、話の本題に入った。




「護符の秘密はわかりましたか」俺はドルゥーダに聞いた。


「うむ、わかったぞ。あの不気味な護符には、やはりザウロスの怨念が込められている。そして、護符はザウロスの復活を助ける物だということがわかった。


 お主達がザウロスの胸にミスリルの剣先を突き刺したことで、ザウロスは死んだ。しかし死んだとはいっても、肉体が滅びただけだ。今、奴は、彷徨える魂の状態で、この世界のどこかにとどまっている。そして奴は、力を蓄えながら、次に宿主となるための肉体を探しておる。


 奴が新しい肉体を手にして、その上で、この護符を手にしたときに、奴は復活のきっかけを得ることになるだろう。


 危険な護符だ。しかし逆に言えば、この護符さえなければ、奴は完全に復活することは出来んだろう。


 ……つまり、この護符を、この世から葬ることが必要だ」


「では、そんな危険な護符は、燃やして処分してしまえば良いのではないでしょうか」


 ドゥルーダはにやりと笑って、立ちあがり、本棚に向かった。そして、仰々しい縁取りの施された木箱を持ってきた。テーブルの上に置き、木箱の蓋を開けた。


 あの不気味な護符が入っていた。


「プッピは触ってはいかんぞ」ザウロスはそう言って、護符を木箱から取り出し、テーブルの上に置いた。


「この護符はな、どうしたって処分することができないのだ。破こうとしても破けないし、燃やそうとしても燃えん。……試してみようか」


 そう言って、ドゥルーダは火箸で護符をつかみ、火のついていない暖炉の中に放り込んだ。そして、杖を片手に、一言つぶやき、杖の先端を暖炉に向けた。すると、暖炉にあっという間に火が灯った。暖炉の中で、護符は火にかけられていたが、ドゥルーダの言う通り、護符は全く燃える気配がなかった。


「この護符を処分するには、特別な方法が必要だ」ドゥルーダが言った。


「どのような方法なのですか」


「呪われたザウロスの護符を処分するには、この護符に対応する清められた護符が必要だ。呪禁の護符というものだ。

 ザウロスの呪いを清める目的で作られた呪禁の護符がある限り、ザウロスはたとえこの世界に復活したとしても、以前のような強力な魔力を発揮することはできん。

 呪禁の護符がこの世に存在するだけで、ザウロスの力は半減するだろう。そして、呪禁の護符があれば、ザウロスの呪われた護符を燃やして灰にすることもできるだろう」


 ドゥルーダは火箸を使って、暖炉の中から護符を取り出した。燃えカス一つついていないその護符を、ドゥルーダは元の木箱に戻した。


「その呪禁の護符という物は、どうすれば手に入りますか」


「呪禁の護符は、わしには作ることができない。それは祈祷師の仕事だ。しかし、ザウロスの護符に対応する呪禁の護符を造れる者となると、この世界には数えるほどしかおらん。少なくともわしに心当たりがあるのは、東の国バクハードの首都、バクタの街に住む大祈祷師ルベロだけだ。」


ドゥルーダは木箱を本棚に戻し、再び俺と差し向いに座った。


「プッピよ。おぬしに頼みがある。わしはルベロに手紙を書く。その手紙を持って、ルベロのもとの行ってくれぬか。そして、呪禁の護符の作成を頼むのだ。

 ルベロもわしの頼みは断らぬはず。聖堂で儀式を行い、護符を造ってくれるだろう。

 その儀式にはな、実際にザウロスと対峙し、ザウロスの怨念を受けた者の参加が必要なのだ。

 儀式の参加者としてふさわしいのは、領主マケラか、弓使いラモンか、おぬしじゃ。マケラはトンビ村の領主だから村を長期間離れることはできないだろう。すると、適任はおぬしかラモンになるだろう。

 二人で、遠いバクタまで行って、ルベロの儀式に参加し、呪禁の護符を貰い受けてきてほしい。

 その間、ザウロスの呪われた護符はわしが預かっておく。おぬしが呪禁の護符を手に入れたら、再びわしのもとに来るのじゃ。呪禁の護符を使って、その場で呪われた護符を燃やして始末する。……どうじゃ、やってくれるか」




 バクタといえば、遥か東の地だ。しかし、ザウロスの護符を始末するために必要な行程なのであれば、行くしかあるまい。


「……わかりました。行ってきます」



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