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11 ユキのパート その1




 アラームの音が鳴る前にユキは目を覚ました。いつもの事だ。朝の寝起きは良い方なのだ。


 ユキはベッドから出て、大きく伸びをしてから身支度にうつった。




 飯田橋駅から徒歩圏内の彼女のマンションから職場へは、地下鉄を二つ乗り継いで約三十分というところだ。

 彼女のマンションは、地球人類研究所に就職してから借りている部屋だ。

 3LDKの高級マンションで、家賃はだいぶ高い。

 同年代の女性が一人で借りるケースは少ないだろう。

 就職後の給料が驚くほど良く、かなりの金額を貯金に回してもまだ余る上、会社からさらに住宅手当が出ているので、こうした高級マンションを借りることができているのだ。




 ユキは最初、地球人類研究所の月給があまりにも高いので、何かいかがわしい仕事をさせられるのではないかとびくびくしていた。

 しかしそれは取り越し苦労だった。

 就職当時から彼女に任された業務は、カウンターでの受付業務のみ。

 残業もなく、定時で退社できる。

 多少退屈すぎる点を除けば、言う事なしの職場環境だった。




 他にあえて不満を挙げるとすれば、社員とのコミュニケーションにやや問題がある点だろう。

 IT開発課の面々は、皆一様に無口で無表情だった。

 仕事中、無駄口をほとんど聞かずに黙々と仕事をしている。

 このオフィスの責任者は針山だが、彼もまた無口だった。

 彼女から話しかければ、必要最小限の会話はするが、用件もなく針山の方から彼女に話しかけることは無い。

 彼女が職場で嫌われている、というわけではない。

 誰もが無駄口を聞かずに働く静かな職場環境なのである。




 しかし今は、退屈すぎる受付業務から、別の業務に異動となっている。


 高橋真一の管理である。

 現在の肩書きは“IT開発課 生体管理チーム主任”だ。


 生体管理とは、タカハシの身体の管理のことを指している。

 ユキは主治医である医師一人と、十名の看護師、四名の理学療法士からなるチームの責任者となっている。




 手早く身支度を済ませたユキは、マンションを出た。

 地下鉄を使って職場まで通勤する。

 途中のスターバックスでコーヒーとパンを買っていく。

 彼女の職場は六本木ヒルズ内だ。

 エレベータで高層階まであがり、地球人類研究所のフロアで降りる。


 東京都内が一望できる大きな窓。厚地のカーペットが足音を吸い込む。

 社内のBGMは、なぜかいつも一九八〇年代の映画音楽が流れている。社長の趣味なのだろうか? 


 通路には等間隔にドアが並んでいるが、ユキはその内の一つの、特に表札もついていないドアを開けた。

 ドアを開けた先は、窓もなく広い部屋だ。壁には額縁に入ったシュールな絵が飾られている。

 そして、向かって正面に電子ロックされたドアがある。

 ユキは、バッグからカードキーを取り出し、カードリーダーに読み込ませた。

 電子ロックのコンソール画面に“CALL YOUR NAME”とメッセージが表示される。

 それに合わせてユキは、「クリタニユキ」と自分の名前を名乗った。

 音声認識と、壁面に巧妙に隠されたカメラからの映像により、電子ロックはクリタニユキを認識し、ドアのロックを解除した。




 ユキはドアを開けて中に入る。


 ドアの向こうは、大きな窓から陽光がたっぷりと差し込む、明るく広いフロアだ。そして、そこにタカハシが眠っている。




 タカハシのベッドはフロアの真ん中より少し窓寄りに位置していた。

 高級介護ベッドだ。

 ベッドサイドには、看護師が常駐している。

 理学療法士がタカハシの右腕の曲げ伸ばしをゆっくりと行っている。




「おはようございます」看護師がユキに声をかけた。


「おはようございます。お疲れ様です。変わりはありませんか?」


「はい。変わりなしです。バイタル安定、トラブルなし。一日尿量は一八〇〇、夜間に排便一回ありました」




ユキはタカハシのベッドに近づき、タカハシの肩をちょっと叩いて声掛けた。

「タカハシさんおはようございます。今日もよろしくお願いします」




 無論、タカハシはユキの挨拶に反応することはない。

 彼は眠り続けているのだ。


 タカハシの鼻腔には、チューブが挿入されており、チューブの先端は胃まで通っている。

 栄養補給のためのチューブだ。

 タカハシはこのチューブから、一日三回、栄養を摂っている。


 そして、尿道にもカテーテルが挿入されていて、カテーテルチューブは排尿バッグに繋がっている。

 医師の指示のもと、複数の看護師によって食事と排泄を管理されているのだ。




 彼の頭髪は全て剃られていて、頭部にはヘッドセットが装着されている。

 ヘッドセットといっても、見た目には小学生が被るようなつばの無い体育帽のような形状と材質だ。内側に無数のセンサーがついているが、物自体はとても軽い。

 それはワイヤレスで動作し、アイランドのサーバーコンピュータと連携している。


 胸部にはタカハシの心電図波形や心拍、脈拍を計測するためのモニタ端子が取り付けられているが、これもワイヤレスで、モニターと繋がっている。




 頭にヘッドセット、鼻からチューブ、胸部にモニタ端子、尿道にカテーテル。

 以上がタカハシに取り付けられているチューブや器具類の全てだ。




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