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タバコ蹴りのコツ

トゥクトゥクが静子さんの家の庭(と行っても仕切りがないので、どこからが庭なのかわからない)にすべりこむと、オームが出迎えに出てきました。

トゥクトゥクに代金を払って帰します。


「オーム。静子さんは?」


「まだ帰ってないわ。夕食までまだちょっと間があるから、上って待ってて」


「じゃあ、上らせてもらおうか。。」


サンダルを脱いで上ろうとすると、タカが「ちょっと待ってください」


「ん?どうした?」


「師匠、今日はまだ稽古していないから、日が暮れるまでこの庭を借りて稽古しませんか?」


タカはよほどでない限り、毎日の稽古を欠かしません。


「おお、そうだな。じゃあ、そこらを借りて稽古しなさい」


「いや、今日はひとつ師匠に教えてもらいたいんです」


「え、何を?」


タカはバックの中から、タバコの箱を一箱取り出します


「これです。これ。タバコ蹴りを教えてください」


・・・ああ、なるほど。。


「でも、そんなの覚えてどうするのさ?」


「いや、例えばですよ・・ケンカに巻き込まれたときとかに、さっきみたいに相手のくわえているタバコを蹴り飛ばしたら、相手はひるむでしょう?」


・・・あいかわらず、そんなことを考えているのか。。


「タカ。稽古はケンカのためにやるもんじゃないだろう?」


「いや、違いますよ。ケンカにしないためにやるんです。さっきだって、それが出来たら相手を殴らなくても、もうかかってこなかったじゃないですか」


・・・まあ、たしかに考え様かなあ。。


「まあいいだろう。じゃあ、教えるけど百発百中にするのは難しいと思うぞ。僕だって3回に1回しか成功しないんだから」


「押忍。やりかたさえ教えてもらえば、百発百中になるように稽古します」


庭の足場の良い場所を探して、稽古にはいります。


「実際にくわえたタバコを蹴る前にフォームを覚えなきゃダメだ。いいか、僕の両手を見ろ。左手が相手の顔だこうやってタバコをくわえている」


私は握った左手の指を顔に見立てて、タバコを指にはさみます。


「顔を狙われてじっとしている奴はまずいない。こっちからこう蹴ると・・」


右手をしたから振り上げてタバコを狙います。


「相手はこう顔をそらす。だから、まっすぐに蹴り上げても当たらないんだ。


この蹴りはこういうふうに・・」今度は右手を弧を描くように振り上げます。


「カーブするように蹴って、相手の頭の真上まで蹴り上げる要領で蹴るんだ。前蹴りにちょっとだけ、回し蹴りを混ぜたような蹴り方だね。顔の前をこすりあげるように蹴って、頭の上に抜く・・俗に言う”三日月蹴り”だ」


タカは私の手の動きを熱心に見入ってます。


「実際に蹴るときは、相手の鼻に当てるくらいのつもりで蹴っていい加減かな。蹴る前に目標を見てアタマの中で蹴るラインを描いてから、そのラインに沿って蹴るんだ。この蹴りは蹴り足に力が入っていると失敗するぞ。軽く無造作に足を上げる感じで蹴るのがコツだ。それと大事なのは蹴るときにアタマの位置を変えないこと。目の位置が変わるから・・そうしたら照準も狂うぞ」


こんどは実際に蹴って見せます。


「こういうふうに・・まず無造作に膝を上げる・・軸足は軽く曲げた状態で安定させるんだ。そのまま一気に・・」


すっと弧を描くように足を振り上げます。


「この要領だ。膝を上げた時点で相手の動きを見て、蹴りのラインを微調整できたら、たいしたもんだけどね。まあ、まずは自分で決めたライン通りに蹴れるように稽古すること。わかった?」


「押忍。ありがとうございます!やってみます」


「うん。じゃあ、がんばれよ。あ、そうだ。あそこの木の枝の先っぽに葉っぱが付いてるじゃない。あれをタバコに見立てて蹴るといいよ」


そう言い残して私は家の高床下に行き、縁台のような椅子に座ってタカの稽古を見物します。ここは陰になっているし、風が通るので涼しいです。


しばらくすると、オームがコーラのペットボトルとコップを持ってやってきます。


「おお、ありがとう」


私はコップにコーラをついでもらい、喉を潤します。

オームは私の横に腰をおろし、一緒になってタカの稽古を見ています。


「ねえ、トミーはやらないの?」


「うん。なんか今日は疲れたし。タカは若いし熱心だね」


ふーん。。と言ってオームは私のほうを向きます。


「トミーも昔ここに来たときは、ああやって木の枝を蹴ってたのに」


・・・そうだったけ。。


「トミーに最初に会ったのが6年前よ。私がシズコの家に来て一年たったころ。あのころトミーは悩んでいて、シズコに相談したんでしょ?」


「ああ、そうだった。いろいろあって。。精神的にヤバい状態だったからね、静子さんにはずいぶん助けられた」


オームはちょっと拗ねたような顔をして・・


「覚えているわよ!トミーは忘れちゃったの?初めて私に会ったときのことよ」


ん?昨日、静子さんに炊きつけられたせいで、オーム、なんかその気になってないか??


「覚えているけど、オームはこんなちっちゃな子供だったぞ」


「10歳よ。そんなにちゃっちゃな子供じゃなかったわ。夕方になるとトミーがああやって木の枝を蹴飛ばしてたのを、私はここでずっと見てたのよ」


・・・そうだっけ??そうか。あのころはまだ僕も稽古してたんだなあ。。


「10歳は子供だよ」


「今年、16になるわ。もう子供じゃないでしょ?」


「16はまだ子供だ」


オームはちょっと考え込む。。


「じゃあ、いくつになったら私はオトナ?」


「んーーーー。。。18・・かな?」


すっと・・オームは立ち上がります。

そして私を見下ろしながら言いました。


「2年後ね。2年たったら、またここに来てね。私はオトナになってるから」


言い残すと、そのまま家の階段を上っていきました。


「師匠ーっ!だいぶ蹴りのフォームが固まってきたと思うんすけどねえ」


見るとタカは、まだ蹴りの稽古をしています。


「そうか。じゃあ、テストしてみよう。こっちへ来い」


「押忍!」


タカが走ってきます。


「師匠がタバコくわえてくれるんですか?」


「バカいうな。今日はじめて練習した技の実験台になれるかよ。まずはこれ」


手の指にタバコをはさんでかざします。

すると・・・パシン・・・と。タカは見事にそれを蹴飛ばしました。

恐るべきカンの良さです。


「む。やるな・・・次は動かすぞ。手をそらすから、蹴りの軌道に注意しろ」


もう一本のタバコをかざして、蹴りが飛んでくる瞬間、後にそらしますが。。


・・パシン・・これも見事に吹っ飛んでゆきます。


「驚いた。。タカ、お前・・すごい奴だなあ。僕のところじゃなくて、大きな道場とかジムに居れば、スター選手になれたかもしれないのに。惜しいなあ」


タカはうれしそうです。


「押忍。誉めてくれてありがとうございます。次はタバコくわえてください」


「・・・それはイヤだ。まだ、そこまで信用してないもん」


「ええー。。そんなあ。実地で練習してみたいっすよ」


「うん。もうちょっと練習して、これなら大丈夫と思ったら、この顔貸してやるから・・・な、今日はもう暗くなったし止めよう」


さすがにタバコ蹴りの実験台はイヤです。私も過去、ずいぶん人の顔を蹴飛ばしちゃいましたから。。


「ちくしょう。。どこかに的になってくれる奴はいないかなあ。。あ、師匠。静子さんのクルマだ。帰ってきましたよ」

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