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居酒屋にて

「おう、遠慮しないでなんでも頼んでくれよ。」


「はい、ご馳走になります」


私は酒は飲めませんが、居酒屋メニューが大好きなので本当に遠慮しないつもりです。


「おい!タカもどんどん食えよ」


「・・・はい・・」



酒の肴がテーブル一杯にならんだころ宮城さんが言いました。


「いやあ、今日はひさびさにいい組手をみせてもらったよ。しかしなんだな。冨井さん。冨井さんのあれ・・拳風・・というか・・ちょっと変わってるなあ」


「あ、そうですか」・・・よく意味がわからない・・・。


「いやね。なんかタカが技を出す前にもうすでに技を見切っているみたいでさ。反射神経が鋭いのかね?とにかく驚いたよ。でも面白かったな」


まさかヤマを張ってて、それがたまたま当たっただけとも言えず黙っておくことにしました。



「おい、タカよ。お前もボクシングやっていっぱしに強くなったつもりでもだ。こんな露店やってる一見頼りない兄ちゃんがもっと強かったりするんだよ。お前もいい勉強になったろうが」


宮城さんが説教しておりますが、私が負けてたらどう言うつもりだったんだろう?ん・・?頼りない兄ちゃんって??



タカも昼間のふてぶてしさはすっかりなりをひそめて、なにか神妙にしております。


しばらく何か思いつめたような顔をしておりましたが突然意を決したように口を開きました。


「あの。冨井さん。ちょっと聞いてもいいですか?」


「え?ああ、どうぞ」


「オレの回し蹴り・・・あれ、なんでかわされたのか分からないんです。スピードには自信があったし・・・いままでかわされたことなかったのに・・」


ああ、それで自信なくしてたわけか!


「タカくん、ボクシングはかなり本格的にやってるよね。でも蹴りは自己流なんじゃないの?ボクシングの動きは変化に富んでいて驚いたけど、それに比べると蹴りの方はずっと単調だったからかわせたんだよ。いつもああいうふうにまっすぐ踏み込むんじゃなくて変化をつけなきゃ。これはボクシングとおなじ理屈だよ」


「・・・・・・・」また何か考え込んでいます・・そして。


「冨井さん・・・お願いなんですが・・オレに空手を教えてくれませんか?もっと蹴りが上手くなりたいんです!」


「え?いや・・・僕はそんな教えるなんて・・・・」



「それがいい!」宮城さんが突然大声をあげます。


「いいかタカ。おまえは今日から冨井さんを師と仰いでだ、空手の技だけでなく人間として成長するように指導してもらえ。師匠のような立派な大人になるんだぞ」


・・・って、さっきは頼りない兄ちゃんて言ってたじゃない!


「いや、宮城さん、ちょっと待・・・・」


「タカ!おまえもう一度ちゃんとお願いしろ!」


「師匠!お願いします!」


「よし!師弟固めのサカズキだ!」


・・・いや、それなんか違う!



私は結局、なんちゃって空手家で、なにかの間違いで海外に行ったりした人間ですから、弟子をとるとか人に教えるなんて気はまったくありませんでした。


なのに何の因果か・・・突然火の玉小僧のような弟子が出来てしまったのです。


あとでタカのいない場所で宮城さんに言い含められました。


「タカって奴はね、あれで気がやさしくて真っ直ぐな性質のいい奴なんだ。ただ短気なのがなあ・・・今日もあの調子でさ。あんな事やってたらあいつ、いつか事件を起こすかケンカで大怪我するか・・下手すりゃ命落としたりな。そこんとこをあんた、冨井さんが上手く導いてやってくれよ。まあこれも何かの縁でさ」


「しかし、なんで僕なんですか?他の人でもいいでしょう?」


「冨井さんはタカの兄貴と同い年なんだ。いままでタカに指図できるのはその兄貴だけだったんだが、結婚して遠くへ行ってしまったからもうね。タカは誰の言うことも聞かなくなった。でもきっと冨井さんの言うことなら聞くと思うんだよ」


「はあ。そうでしょうか?」


「ああ、間違えない!あんたの言うことなら聞く」 


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