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静子さんとの会話

ジープから荷物を降ろし、オームに預けた静子さんはこちらに上ってきます。

長い足で大股に歩く姿が決まっています。

私たちが彼女を出迎えるような形になってしまいました。


「静子さん、どうもお久しぶりです」


静子さんはニッと笑うと・・・


「あらトミーちゃん。あなたひどく太ったわね」


・・・ひどく・・・は言いすぎだろう。。


静子さんは当時すでに50歳近かったと思います。


70年代にインドやネパールを旅していた、筋金入りのヒッピーです。

一度結婚して娘さんがひとりいますが、生来の放浪癖が災いして離婚。


日本では女だてらに建設現場で働いたり、トラックの運転手をしたりして暮らしていました。

あるときアジアの古布を使った、オリジナルの洋服を製作し百貨店の催事で販売したところ、これが大好評となり、現在はここチェンマイの地にファクトリーを構え、製作に励んでいるわけです。


「あら、そっちのかわいい少年は?」


静子さんはタカを見てたずねます。


「あ、いや・・もう少年てトシでも無いんですけどね。僕の弟子でタカといいます。タカ、静子さんに挨拶しなさい」


「押忍。タカです。よろしくお願いします」


「はい。こちらこそ。タカちゃんね。トミーちゃんにお弟子さんが出来たというウワサは聞いてたけど、タカちゃん・・師匠みたいに太っちゃダメよ」


・・・今回の旅はそればっかだ。。。


オームが作った昼食がちゃぶ台に並びます。

私とタカ、そして静子さんの3人が席に付き・・と言っても床だけど・・食事をいただくことになりました。


「オームもこっちに来て一緒に食べようよ」


私は声をかけてみました。

しかしオームはいそいそと動き回って席に付きません。


「オーム、若い男がふたりも家に来るなんて珍しいから、恥ずかしがってるのよ。。。かわいいわねえ」


静子さんが笑います。


静子さんはオームに缶ビールを三つ持ってこさせます。

私とタカに一本づつ手渡してから、缶を開けて旨そうに喉を鳴らします。


「ところでトミーちゃん、例のバンコクからの荷物だけど確かに預かったわ。適当に改造して売るけどいい?」


「はい。おまかせします。いや、本当に助かります」


それにしても・・・と、静子さんが続けます。


「トミーちゃんはまだ、中田とつるんでいるんだね。アタシは不思議でしょうがないのよ。中田はバンコクに巣食っている日本人の中でも、かなり曲者よ。どうしてトミーちゃんみたいな純粋な・・・というかバカ正直なコが、中田と長年付き合っていられるのか・・・不思議だわ」


そう言われると困ってしまうのですが、やはりこれはタカにも説明したように腐れ縁としか言いようがありません。


「で・・・トミーちゃん。トミーちゃんはこれから一体どうするの?」


・・・それが・・・決まってないんです。。


「ふーん。。じゃあまた、アジアを巡って今度は師弟コンビで暴れてみる?」


「いや・・静子さん。。実は僕、もう30歳過ぎたんですよね。もう少しなんと言うか・・地に足の着いた・・というか・・アジアで空手やってても将来が見えませんし・・・ちゃんとした仕事をして暮らしていこうかと。。。」


・・・言うや否や。


コーン・・と私の頭にビールの空き缶が。静子さんが投げたものです。


「ああーー。。情けない。たかが30ちょっと過ぎたくらいで。昔のアナタはそんなこと言うような腑抜けた野郎じゃなかったわ!体が太っただけじゃなくて心まで豚に成り下がったの?真っ黒に日焼けして、体中キズだらけでタイにやって来たトミーちゃんはどこに行ったわけ?」


鋭い目で睨みつける静子さん。真顔になると日本人ばなれした精悍な顔立ちはすごく迫力があります。


「そうは言いますけどね、僕だっていつまでも空手バックパッカーじゃいられないんです。何年も前に中川先生に与えられた任務だって、とっくに終わったんですよ。僕は僕の人生をちゃんとやり直したい。きちんとお嫁さんも貰って家庭だって持ちたいんですよ」


はあーっ・・・と静子さんは大きくため息をつきます。


「分かったわ。トミーちゃんもオトナになったということね。いいでしょう。そうなさい。トミーちゃん、お嫁さんを貰うのね?相手は決まっているの?」


「いえ・・これから探します」


「そう・・・・。」


静子さんはオームにビールをもっと持ってくるように指示します。

すぐにオームがビールを両手に抱えて運んできました。

オームが台所へ戻ろうとすると、その手を掴んで引きとめ・・私に向かって言います。


「トミーちゃん。じゃああなた、すぐに結婚しなさい。オームをお嫁に貰いなさい!」

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