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空手バックパッカー、ひさびさにハッタリ技を披露する

男は私たちに気がついたようで、ちらりとこちらを見ましたが、続けてサンドバッグにパンチを叩き込みます。


ボクシング風のパンチでパワーはありますが、おそらくボクシングを正式に習った人ではないでしょう。


いまどきちょっとした格闘技フアンなら、ボクシングの真似をするのは結構上手くやるものです。

しかし、サンドバッグを叩いているところを見れば、正式に習ったものか見よう見まねかは大体見当がつきます。


足を見るのがポイント。サンドバッグ・トレーニングは必ず動きながらやるものですが、物まねレベルだとパンチに気がとられて、足が止まってしまいます。

足を固定したままバッグを叩いていれば、それは素人と見て良いです。


男は何発か連続した左のボディアッパーから右のフックを叩き込み、一息ついてこちらに目を向けます。


素人パンチとは言え、確かに力はありそうですので、揉め事は避けたいです。なにしろ「外国で戦った場合、どんな卑怯な手を使っても勝たなきゃいけない」・・という中川先生の至上命令は解けたわけではありませんので。。


ここは穏やかに・・・スマイルが大事です。


「やあ!君、すごいね。いいパンチしてるじゃない」声をかけます。


「ふん。あんたにはさっきのプールでは負けたけどな。あれはオレが1本、全力で泳いだ後だったからな。最初からのレースなら負けてないぜ」


・・・負けん気の強そうな奴です。さらに続けて。。


「こんどはボクシングで勝負するかい?え、あんたならウエイトにハンデはなさそうだ。なんならここはタイだから、タイボクシング(ムエタイ)でも構わないぜ。どうする?」挑発してきます。


もちろん、やる気は全然ありません。が、しかし、彼の物言いは少々気に入らない。。。


「いや。今みたいな君のパンチを貰ったら、ケガをするよ。僕らはちょっとそのサンドバッグを叩いてみたかったんだ。いいかな?」


「・・・ふん。下手にサンドバッグを叩いたりしたら、それこそ怪我するぜ。気をつけることだな」


男はパンチンググローブを投げてよこします。

私は、それをタカに手渡しました。


「タカ。ちょっとやらせてもらいなさい」


「押忍」


グローブを着けるとタカは、サンドバッグに一礼し、素早い左の連打から、フットワークを使って左右に動きつつ、無数のパンチを叩き込みます。

ウィービング、ローリングを交えた上体の動きも非常に早い。


男の方に目をやると、表情が・・凍り付いています。私は腕時計でタイムを計りながら、3分経過したところでパンパンと手を叩いてストップをかけます。


「プハー!師匠。やっぱひさしぶりだからキツイわ。たった1ラウンドで、もうバテてるよ。。。ダメだなあ、もっと練習しないと」


タカは肩で息をしています。が、しかし・・・


「あ、あんたら・・ボクサーなのか?」


男は引きつった表情でたずねます。

こういう風に、相手の度肝を抜いた直後こそハッタリのかまし時であることを私は、以前の空手バックパッカー時代の経験で学んでいます。


「No!僕はカラテ・マスターのトミー。彼は弟子のタカだっ!」


「押忍っ!!」


男の顔から戦意は完全に消え、みるみる尊敬の表情に変わる。


「カラテ!あなたはカラテの先生か?オレはなんて間抜けなんだ。よりによってあなたのような人にボクシングの勝負を挑むなんて。トミー先生許してくれ」


・・・・ハッタリ大成功(笑)。


「オレはビルっていうんだ。カナダからやってきた。オレは田舎者だからカラテは見たことが有るけど、本物の日本のマスターの技を見たことが無いんだ。トミー先生、よかったらオレにカラテの妙技を何か見せてくれないか?」


このパターンも私は過去に何度も経験しております。

が、しかし・・・ここは屋内なので、割る石を拾うことも出来ない。


昔ならこういうときには、いきなり飛び上がって相手の顔の前で手のひらをパチンと蹴って見せたりしたものですが(これ、意外とインパクトあるんだ)体重が重くなった今、ヒザに負担のかかることは、あまりやりたくないし(情けねえ。。)


まあ、ちょうどサンドバッグもあることですから、これを使って私の数あるハッタリ技のひとつを披露することにしよう。。


「OK、ビル。じゃあ、このサンドバッグを動かないように固定してくれないか?あ、そんな押さえ方じゃダメだ。もっと強く、身体を使って絶対動かないようにしっかり支えてくれ。うん、それでいい」


ビルはサンドバッグを抱きかかえるようにして支えました。


「いいかいビル。カラテの修行を積んだ者は、わずか1インチの距離で強いパンチを打つことが出来るんだ。しっかり支えていろよ」


言うと私はサンドバッグの表面3cmほどのところに軽く握った拳を構えます。

息を大きく吸い込んで、ドーン!とサンドバッグを叩くと、ビルは大きく後方に吹っ飛びます。そして、そのまま床に転がる。。。


「おっと、大丈夫かビル!」


声をかけるとビルは床に倒れたまま、信じられないと言った表情でこちらを見ています。



数分後・・・私とタカはホテルのレストランで、ビルのおごりで飲み物をいただいておりました。


「トミー先生。今日はありがとう。カラテのマスターなら、水泳が速くてもあたりまえだ。なのにオレも負けん気だしてさ・・・恥ずかしいよ」


・・・いや、水泳は関係ないんだけど・・・まあ、いいや。


「オレも国に帰ったら、きっとカラテを習うよ。あなたたちのように、強くなりたいんだ」


「おお、そうか。がんばれよ!」


・・・ホテルの部屋。


「なるほど師匠。師匠は今までああやってアジアを渡り歩いてきたんですね」タカが言います。


「そうだよ。昔はあれをひとりでやってたんだから。結構大変だったんだぜ」


それにしても・・・とタカが言います。


「ビルにやって見せたあれ、あれはブルース・リーが元ネタでしょう?」


「わはは。。。知ってたの?そうだよブルース・リーのビデオ、何回もスロー再生して覚えたんだ」


そうです。あれは実は手品みたいなものでして(私の技はほとんどが手品なんだけど)ビルは単にサンドバッグの重さで吹っ飛んだだけなのです。


私がやったのはサンドバッグを手で押しただけ。

身体をサンドバッグにくっつけるように誘導したのがトリックです。


ちなみにブルース・リーはこれを、軽いパンチングミットでやっていましたが、この場合にはもっと全身を使って、体当たりの要領で打つ必要がありますので、もう少し難しくなります。。。


「まあ、ちょっといい運動したことだし、昼寝でもしてさ、日が暮れて涼しくなってから、街に繰り出そうや」


「押忍!」

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