宮城さんの提案
「待て待てえ!おまえら鎮まれえっ!」・・・・迫力ある声が。
この場所で最年長の宮城さんです。
宮城さんはこのときすでに40歳を越えていましたが本物の**流空手の三段で、若いころ、ある高名な先生と組んで道場破りをしてまわった逸話の持ち主です。
中肉中背ですが鍛えた体をしており、若い衆からも一目置かれておりました。
・・・助かった!これでなんとかおさまる
と思ったのですが。。
「おい、あんた。冨井さんだっけ。あんたがタカを助けようってのはいい度胸だが、そんなんじゃこいつらの面子が立たんだろうが」
・・・いや、度胸なんてそんなもん微塵もないっす。。
「あんたがそこまでタカを助けたいってんならだ。ここはひとつオレに考えがある」
・・・いや、別にムリに助けようなんて思ってないんですけど。。
「いまからあんたがタカと一本勝負をするってのはどうだ。結果がどうあれそれで全員こんどのことは水に流す。それでどうだ?」
「いえ、そんな勝負だなんて私は・・・・」ビビる私。
「ビビることはねえよ。これは稽古だ。稽古。あんたもちょっとは心得あんだろ?おい、みんな。それで文句は無いな!」
若い衆一斉に「はいっ!」
「おい、タカ。お前はどうだ」
「オレは別にいいっすよ」タカは殺気のこもった目で私を睨みつけます。
・・・この野郎、お前のせいでこうなったのに・・やる気まんまんじゃないか。。
「よし!じゃあオレが審判だ。手加減すんな。おもいきりやれ。いいな」と宮城さん。
・・・ふううっ。。なんでこうなる??
さて、他人のケンカにうっかり首を突っ込んでしまったためにえらい目にあっておりますが、ここで私はかつてスリランカに渡る直前、中川先生に言われたことを思い起こしておりました。
「冨井いいか。おまえはな、弱いんだから向こうに行っても絶対戦っちゃダメだよ。なんのかんの言って戦いを避けることだ。戦わなければ無敗なんだからな」
「押忍。そうします」
「しかしだ。万が一、勝負しなければならなくなったら・・・どんな卑怯な手を使っても絶対勝てよ!もしおまえがやって負けたら、そこに日本の空手が負けたという話が残ってしまう。そうなったらこれはおまえひとりの責任じゃすまんぞ。日本の空手全部に恥をかかす事になる。分かったか!」
「押忍。分かりました」
・・・・意外に責任重大なことに気づかされビビったものです。
が、しかしここは日本ですから、私がもしタカに負けたとしてもこれは私個人の負けです。
その点は気が楽だ。そう考えることにしました。
頭の中でさきほどの黒帯くんに対するタカの動きを反芻してみます。
私はタカより10cm以上身長が高いので、当然タカはさきほどと同じように私の懐に飛び込んでくるでしょう。
あのスピードでパンチをもらったら私も秒殺されてしまうのは明らかです。
さらにシミュレーションします。
私はとうていあのスピードにはついていけませんから最初にタカの攻撃にヤマを張る必要があります。
タカが飛び込んでくると同時に左のリード足を引いてスイッチして間合いをとる。
左手でタカの頭を抑え右手でタカの左手をつかんでパンチを殺しておいて・・・
そのまま後ろに巻き込んで投げる!
・・・・ヤマがはずれれば・・・負けです。
「おーい!準備はいいか。そろそろやれよ」宮城さんが急かします。
タカは腕をふったり首をまわしたりして準備満タンの様子。
「ようし・・・・始めいっ!」宮城さんの号令とともに!
予想どおり・・・タカが頭を振りながら飛び込んできます・・すごく速い!
私は左のリード足を引いてスイッチ!・・左手で頭を押さえに・・あ!
タカは私の動きに気づいたように前進をストップして、ジグザグなフットワークに切り替えます
・・・ヤマがはずれた!
次の瞬間・・・「痛うっつ!」右の内腿にするどい痛みが走る。。
タカの右のイン・ローキックです。
・・・こいつ・・・蹴りも使えるのかあ。。




