第2話 個性豊かなクラスメイト
「じゃあ、1番からよろしくー」
夏芽先生が教卓に手を置いて面倒くさそうに言う。この人何事にも面倒くさそうだな。
とまあ、自己紹介が始まるということでクラスメイトの顔ぐらいは何とか覚えたいところだ。人の顔をおぼえるのは苦手だが、とりあえず特徴的な奴から覚えていこう。
自己紹介タイムがはじまり、出席番号1番の人が席を立つ。
出席番号1番の人は女の人。腰まで伸びた長い黒髪と眠たげな緑の瞳が特徴的だ。背はすらっと高く、人の顔をおぼえるのが苦手な俺でもすぐに覚えられそうな美人だ。
「……蒼井瑞希です。前のクラスは2組です。部活は……なんでしたっけ? えーと、趣味……とは何なんでしょうか? よく分かりませんがよろしくお願いします」
今にも寝そうなほどぼんやりした話し方でかなりボケている発言をし、一礼して席に着いた。その若さにして老化が始まっているのだろうか……?
一発目から不思議ちゃんが来たせいか、みんな少し戸惑ったように拍手をした。
「市川風神です。前のクラスは4組で、部活はやっていません。趣味は映画鑑賞とかです。よろしくお願いします」
風神は無難に挨拶をし、一礼してから席に着いた。
周りの人たちは「あの子可愛くね?」やら「男でもいいから結婚したい」やら、風神に聞こえたら殴られそうなことをつぶやいていた。ちなみに、風神は華奢で可愛らしく見えても力はかなり強いので怒らせないほうが身のためだ。
「縁道寺龍希だ。前のクラスは2組で部活は剣道部。……よろしく」
180cm以上あるであろう高い背と短髪が特徴的なイケメンだ。蒼井さん同様、美形は顔が覚えやすい。縁道寺君は少しぶっきらぼうな話し方ではあるが悪い人ではなさそうだ。剣道部だけあって細いけどしっかり筋肉がついていそうな体系をしているので、きっと運動神経がいいのだろう。
「ちぃ~す! 尾崎修吾っす! 前のクラスは1組で、部活は帰宅部っす! SNSとかいろいろやってるから気軽に絡んでください☆ よろしくぅ!」
急にテンションが高くなり、最高にうざい挨拶をかましている。うん、とてもうざい。
尾崎君は明るい髪色で制服を着崩しており、見た目からチャラくて遊び人っぽい。あまり関わりたくないタイプの人間だ。イケメンではあるので、同じタイプの女子にはもてそうだ。
「やあ、僕は木野山広隆。前のクラスは1組。部活はサッカー部に所属しているよ。趣味はサッカー。よろしくね」
紳士的な台詞をドヤ顔で言う。外見は普通にかっこいいのが腹立つ。尾崎君とは違うタイプのうざさだ。
木野山君はこの学年の中ではちょっとした有名人だ。現に疎い俺でも名前を知っている。木野山君は良い意味で有名なわけではない。サッカー部に所属しているのだが、サッカーの才能が壊滅的で死ぬほど弱いということで有名なのだ。そして、本人はその自覚が無いのでさらに深刻である。
「鶴嶋鍵太です! 前のクラスは1組、部活はアニメ同好会! 夢はハーレム作ることです! 女子のみんなよろしく☆」
長身イケメンだと思っていたら思わぬダークホース。というか前回の1組濃いな。
鶴島君はさっきも言ったとおり、茶髪の長身で整った顔立ちをしているのだが机に美少女フィギュアが置いてあるのでかなりやばいオタクなのだろう。あと、ハーレム計画を立てている頭はなかなか残念な人みたいだ。
「藤堂裕也だ! 前のクラスも5組で陸上部だ! 好きな人は野崎……って言っちゃったぜ! はははははは! 」
隣のクラスまで聞こえそうな大きな声で公開告白して高らかに笑っている。うん、うるさい。
藤堂君は高3男子にしてはやや小柄ではあるものの、黙っていれば普通にもてそうだ。さっきから思っていたがこのクラス顔面偏差値高いな。性格がとても残念そうな人たちばかりだが。
「野崎秋葉です。前のクラスは5組で家庭科部です。趣味は料理です。よろしくお願いします。あと藤堂君は死んでください」
物腰柔らかそうな優しい笑顔で藤堂君を罵倒する。怖いけど仕方が無いことな気がしてくる。
野崎さんは肩にかかる長さの茶髪とパッチリした瞳が可愛らしいおしとやかな美人という印象だ。男子に密かにもてそうなタイプだ。藤堂君と2年生のときも同じクラスだしこの2人は何か闇がありそうだ。
個性的な人たちをどんどん覚えていき、何で2年間も同じ学校にいたのにこんな濃い人たちのことを知らなかったのだろうとぼんやり思っているうちに自分の番が回ってきた。
「えっと、冬樹雪斗です。前のクラスは4組で帰宅部です。趣味は……えー、テレビを見ることです。よろしくお願いします」
趣味が特に無いので適当に流す。個性豊かなクラスの人に比べるとひどく地味な自己紹介となった。が、これが本来普通の形だと思う。
その後は無難な自己紹介が続き、前半の濃さは何だったのだろうと思うほどすんなり終わっていく。今のところ人目で覚えたクラスメイトは蒼井さんに縁道寺君、尾崎君、木野山君、鶴嶋君、藤堂君、野崎さんといったところだろうか。風神は幼馴染なので知っているとして、クラスで顔を知っているのが8人というのは俺にしては優秀だ。
「じゃ、渡島で最後だな」
「あ、はい」
自己紹介の残り1人になったみたいで、出席番号最後の人が立つ。
「渡島愛羅です。前のクラスは2組で美術部です。趣味は絵を描くことです。よろしくお願いします」
金髪のふわふわした長い髪にリボンの髪飾り、大きな青い瞳に高校生とは思えない華奢で小柄な体系。見た目はフランス人形みたいに綺麗だが、話している口調が少し強いことから気が強い性格な感じがする。
覚えた人、1人追加だ。
「よーし、これで全員の自己紹介が終わったな。今日はこの後始業式があって、それから普通に授業あるから、だらけずに頑張れよー」
濃い自己紹介タイムは無事(?)終了し、HRも終わった。
2時間目は始業式ということでみんな席を立ち体育館へ向かい始める。俺も、体育館シューズを持って席を立ち、風神と共に体育館へ向かった。
「野崎ぃぃぃ! 一緒に行こうぜぇぇぇ!」
「うっさい話しかけんな死ね!」
「あ、そこの彼女連絡先教えて~。俺と一緒に遊ぼうぜ☆」
「ふふふ、みんな元気だな……。さぁて、僕も行くとするか」
「ああああ! ぱふぇちゃんとお別れするのつらいぃぃぃぃぃ!」
体育館に移動するだけだというのに変人たちはそれぞれ奇妙な行動に出ていた。ちなみに、鶴島君が言っているぱふぇちゃんはおそらく美少女フィギュアの名前だろう。フィギュアに頬ずりしながら叫んでいるなんとも気持ちが悪い状態だ。
「な、今年のクラスメイト濃いだろ?」
「……風神の言う通りだったわ」
真面目な雰囲気だと思っていたクラスは、変人の巣窟だった。
今年は充実した1年にしたいと思っていたが果たして大丈夫なのだろうか。