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第9話 追われて追いかけて

 藤堂君の破天荒な行動を見ていた5組の何人かはしばらく呆然としていたが、とりあえずみんな気を取り直して動き始めた。

 ドロチームがスタートしてから1分で警察チームがスタートするということだったので、警察チームの姿がちらほら見えるようになってきた。

 俺はとりあえず遊具に隠れながら周りの様子を見ている。

 成り行きで現在も鶴嶋君と共に行動中だ。

「いや~、それにしてもさっきの藤堂君にはびっくりしたよー」

「本当だね。さすがに飛び込んでいくとは思わなかった」

「うんうん。たとえ相手が嫌がろうとどんどん踏み込んでいく……うーん、愛だね!」

「だいぶ歪んだ愛だね……」

 鶴島君は先ほどの藤堂君を見て最初はびっくりしていたものの、しばらくしたらその行動は愛ゆえだといい始める。さすが変人、対応力は高い。

「それはそうと冬樹君。そろそろここも移動したほうがいいかもしれないね。向かいから木野山君が見えるよ」

 鶴嶋君が指をさした方向にはなぜかドヤ顔で優雅に歩いている木野山君がいた。手には青いはちまきが巻かれているので警察チームだ。なぜドヤ顔なのか分からないがとても腹が立つので見つかりたくない。

「今から移動したら見つからずにすむかな。もう少し奥に行こうか」

「そうだね」

 遊具の陰に隠れていたが周りを見渡しながら少し歩く。木野山君はこちらに気付いていない上、ゆっくりと歩いてきているのでつかまる心配はなさそうだ。ていうか警察チームなのに全然周り見てないなあの人。


「あ! ふゆぽんとつるやん発見!」

 なんとか逃げようと思っていたとき、特徴的なあだ名と常にハイテンションな声色が響き渡る。

 木野山君にばかり注目していて、別方向から尾崎君が来ていたことに気づかなかった。

「やばっ! 鶴嶋君、速く逃げよう!」

「冬樹君……ここは僕が食い止めるよ……!」

「いや食い止めなくていいから逃げろよ!」

 木野山君並みのドヤ顔で言う鶴嶋君。ここでかっこつけたところで後は捕まるだけなのでなんとか逃げて欲しいところだ。

「おや、冬樹君か……。これは僕の出番だね!」

 木野山君は尾崎君の声でようやく俺たちの存在に気づいたみたいで追いかけてきた。

 かっこつけていたせいで少しで遅れた鶴嶋君は完全に尾崎君のターゲットになった。足は尾崎君の方が速いので鶴嶋君は捕まる運命だろうな……。

 そして俺たちに気づいた木野山君は、尾崎君が鶴嶋君を追いかけているを確認すると俺を追いかけてきた。

 木野山君はサッカー部でセンスが絶望的だと聞いているが、足の速さまでは知らない。もしかしたら足は速いけど技術面が最悪ということもあるのではないだろうか。さっきまでは気づかれていなかったから大丈夫だと思っていたけど捕まってしまうかもしれない。


 しかし、心配したのもつかの間。意外と距離は縮まらない。

 そのうえ木野山君はすでに疲れている様子でどんどんペースが落ちている。

「はぁ……ふぃ……。い、意外と足が速いんだね、冬樹君……」

「普通に走ってるだけだよ!?」

「ふふ、謙遜しなくていいんだよ……。なんせ50m走9秒5の僕が追いつけないんだからね」

「高3男子にしてはコメントに困る遅さ!」

 だいたい平均ぐらいの足の速さである俺に追いつけない時点で相当だと思っていたが、思っていたよりも遅かった。

 その上体力もないみたいで、そんなに時間はたっていないのだが木野山君はその場に膝をついた。ものすごく息切れしている。

「ふふふ……冬樹君はただものじゃなかった……」

 いや、ただものですよ俺。

 そう心の中で思いながら、力尽きた木野山君を置いて更に足を進めた。


 ◆   ◇   ◆


 木野山君を振り払って再び遊具の陰に隠れる。

 遊具の陰から周りと見渡すと、警察チームと泥棒チームどちらもちらほら姿を見る。ドロケーが始まってから何分かたっているしもう何人か捕まっているだろう。

「あ、冬樹」

「うわっ!?」

 警察チームに見つかったと思い勢いよく立ち上がるが、髪につけている赤いはちまきが目に入りとりあえず安心する。

「びっくりした……。渡島さん泥棒チームだったんだ」

 声をかけてくれた主は渡島さん。渡島さんは俺の近くまで来ると遊具の陰に腰を下ろした。それに合わせて俺も再び腰を下ろす。

「うん。さっき木野山から逃げてきた。なんかもう死にそうだったけど」

「あ、木野山君まだ動けたんだ……」

 俺を追いかけた後に渡島さんを見かけたのだろう。俺の時すでにバテていたので渡島さんを捕まえることはできないだろう。現に出来ていないし。

「あいつほんとあれでよくサッカー部続けてるわよね……」

 何気にひどいことを言っているが正直これは否定できない。

「あはは……。そういえば、もう何人か捕まってるのかな?」

 とりあえず、これ以上木野山君の話題を続けると悪口しか出てこなさそうなので少々強引に話を変える。

「どうかしらね。さっき見渡した限りだとちょくちょく捕まっているみたいよ。さっき鶴嶋が尾崎に捕まっているの見かけたし」

 あ、やっぱり鶴嶋君捕まったんだ。そして渡島さんと俺たちは結構近く行動していたんだな……。

「知っている限りでは市川と瑞樹は警察チームだったわね。あと縁道寺はなんか気分悪いらしくてコテージの方で休んでるらしいわ」

「縁道寺君が? 大丈夫かな……」

「木野山とか他の個性強い男子達と同じ班だったらしくてあまりのテンションの違いに疲れたのでは女子達が言ってたわ」

「な、なんて不憫な……」

 5組の数少ない常識人であろう縁道寺君にとんでもない苦労をすでにかけている変人達が恐ろしい。

 まだ話したことはないけど心の中で縁道寺君の無事を祈る。

「それにしてもうちのクラスは変人が多いわね……」

 渡島さんもだいぶ個性的だとは思うが、言ったら怒られそうなので黙っておく。

「確かに皆キャラ濃いよね。この高校に入学して2年ぐらいたつけどこんなに個性的な人たちがいるの知ったの最近だよ……」

「あら、冬樹は変人共と今まで同じクラスになったことなかったの?」

「あんまりなかったかな……。あったとしてもあんまり周りに興味なかったからな~」

 何事も無難で地味に過ごせばいいと思っていたのは中学生からずっとだ。今まで表に出て何かをするなんて事全くなかったので今の段階でもだいぶ頑張っている方だと思う。

「ふーん。あんた案外変人たちと溶け込んでいるから顔なじみもいるのかと思ったわ」

「え、同類に思われてるの!?」

「そうじゃなくて、嫌そうな顔しながらもなんか相手に合わせられてるというか。ツッコミ担当みたいな感じ?」

 渡島さんは笑いながら言う。そんな風に見えていたとは知らなかった。

「それに変わってる人が多いのってうちのクラスだけではな……」


 ―ドサッ


 渡島さんが話している最中に、何かが倒れたような音がした。

「え、何?」

 慌てて遊具の陰から出てみるとすぐ近くで倒れている色素の薄い髪色の少年が目に入る。その少年は俺と渡島さんの姿を見ると力を振り絞って立ち上がり、どや顔をキメた。青白い顔なので全くキマってないが。

「ぜぇ……はぁ……ふふふ、ようやく見つけたよ2人とも……」

「木野山君……」

「まだあきらめてなかったのね……」

 先ほど俺を追いかけ、その後渡島さんを追いかけて2人とも捕まえられずに死んでいた木野山君がここまで来ていた。相変わらず息切れがすごい。そして、渡島さんのゴミでも見るかのようなジト目もすごい。

「ふふふ……この僕を、ここまで苦しめ、げほっ! 苦しめるとは……。でも、ここからが……勝負だよっ!」

『いやもう無理だろ!?』

 それでも追いかけてくる木野山君に、とりあえず早歩きで逃げる。

 この後木野山君は再び力尽き天に召されたことは言うまでもないだろう。



 ちなみに、俺は奇跡的に捕まることなくレクレーションは終了したが、遠足が終わり帰ると久々に運動したせいか筋肉痛に苦しめられることとなった。

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