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9/18

日曜日


 Q

  あなたにとって

  希望とはなんですか?

 A

  落とし穴の上の

  一万円札、でしょうか


 ◇◇◇


 翌日、日曜日。

 家の中の掃除と洗濯をする。出掛けることを考えて洗濯物は家の中で干す。

 インターホンが鳴って誰か来たことを告げる。

 モニターを見るとスーツ姿にコートの知らない女の人がマイクを持ってその後ろにテレビカメラを持った男の人がいる。

 なんだか相手をするのがめんどうそうなので、居留守にして掃除の続きを。

 何度かインターホンを鳴らして玄関の扉をノックして、諦めて帰っていった。

 ああいう仕事もたいへんだろうな。外は寒いのに。僕の同級生もあの人達の訪問を受けたのだろうか。


 掃除も終えて一息。朝食と昼食を合わせて10時半に食べる。

 まとめてしまえば作るのも後片付けも一緒にできるので、両親がいない日の休日は1日2食。

 昨日のカレーを温めなおして、バランスを考えて野菜炒めを作っていただきます。

 テレビを見ながら食事する。

 未だに捕まってないシルクハットの怪人の話題で盛り上がったあとに、人気のあるラーメン屋の特集が始まった。


 食事を終えて食器を洗っているとインターホンが鳴る。

 モニターを見るとくたびれた感じのおじさんがいる。

 モニターのスイッチを押して声をかける。

「どちら様ですか?」

「あー、こんにちわ。警察です」

 もう来たのか。警官の制服では無く黒いコートを羽織ったおじさんは、寒そうに身をすくめる。

「今、出ます。少しお待ちください」

 念のため服装確認。学生服で無くてもいいだろう。ジーパンに灰色のセーター。通学にも使っているいつものコートにマフラーで行ってきます。

 玄関を出て、

「お待たせしました」

 警察のおじさんに挨拶する。おじさんは、

「御家族の方は?」

「両親ともに出張中です」

 おじさんは、ふうん、と言って僕の家をじろじろと見る。共働きというのも珍しくはないと思うのだけど。

 念のためにおじさんに身分証、警察の証明、警察手帳を見せてもらう。

 中も見せてもらって表面だけの偽装品で無いことも見せてもらう。

「しっかりしてるね」

「だって警察手帳も警察官の制服もレプリカがネットで買える時代ですから」

 半端に田舎のせいかこの辺りではいわゆるオレオレ詐欺や宅急便の着払いの詐欺が多い。

 そして騙されてしまった人の話も多い。

 警戒して当然のことだと思うのだけど。


「じゃ、乗って。警察署まで行くから」

 家の前に止まっているのは黒いライトバン。窓もスモーク使用で中が見えない。

 後部座席の扉を開けて中に入ると見知った顔が手を上げて、

「やほー」

 と挨拶してくるので僕も片手を上げて、

「やほー」

 と返す。この挨拶いつから流行ってたっけ?

 中にいたのは僕と同じクラスの男子生徒だった。

 中山くんがいてその隣が空いてたのでそこに座る。中山くんは学校の制服だった。

「あれ、中山くん制服なんだ」

「制服着てんのは俺だけで、失敗した。俺も普通に私服で来れば良かった。警察署に行くからって考えすぎた」

「僕も少し迷った。でも結婚式でも葬式でも無いから私服でいいや、と」

「そうだよなー。俺もなんで日曜日に制服なんて着てしまったんだろ」

「一応、生徒手帳は持ってきたけどね」


 僕の後ろの席では同じクラスの男子3人が盛り上がってる。

「警察の人に連れられて警察署って、なんか連行される犯罪者の気分」

「こんなとこで未来の予行練習ができたってことか?」

「お前、警察に捕まるようなことするつもりか?」

「いや、俺じゃなくてお前が」

「俺を勝手に未来の犯罪者にすんな。お前こそなんかやらかして逮捕されんじゃ無いの?」

「逮捕されるんじゃ無くて逮捕するがわかもよ?」

「お前が刑事とか、なりたいのかよ?」

「公務員ってのはいいんじゃないの?」

「体力的にどうなんだよ」

「じゃあキャリアコースで」

「頭脳的にどうなんだよ」

「おい、それじゃ俺に取り柄が無いみたいじゃないか?」

 なんだかワイワイと盛り上がってる。いつもと違う状況は妙に気分を高揚させる。

 良くも悪くも。


「あのときは助かった。手伝ってくれて」

 中山くんが話かけてくる。

「あのときって?」

「高崎陽子のケガの手当てのとき」

 つい手を出してしまったときのことか。

「押さえるだけで止血したのは中山くんじゃないか。僕は応急手当の仕方なんて知らなかったし」

 ベルトで脇の下から腕を縛って、ボールペンでそのベルトをねじって血管を圧迫。左手の断面にもタオルで押さえて、太いマジックで高崎陽子の制服に腕を切断された時刻を書いていた。

 時刻からの逆算で失った血液量を計り、輸血の分量の目安になる、ということらしい。

「知識で知ってても、あんなに暴れるとは知らなかった。俺ひとりだったら無理だったよ」

「うん、死に物狂いというのか女の子一人の力でもあれは怖かった。高崎さんも命は助かったみたいだね。左手については、これからどうなるのかな」

「さぁなぁ、切れた腕があれば切断直後なら手術で繋がったのかも知れないけれど、あのシルクハットが持って行ったから。これから苦労すんのか」

 ある日いきなり左手が無くなる。想像して見てもたいへんだし、実際のところは僕の想像では追いつかない苦労がありそうだ。


 中山くんと話してると警察署に着いた。

 警察署前にはマスコミという感じの人達がいて、なるほど窓にスモークの入ってる自動車で迎えに来るわけだ。

 運転席と後部座席の境にあるカーテンも閉めて、フロントガラスからも中が見えないようになった。

 後部座席にいる僕達からも、外の様子は解らなくなったが、それでも外がガヤガヤ騒がしい。

「うわ、緊張してきた」

 中山くんがポツリと言う。僕らがなにかしたわけでなくても、この雰囲気に飲まれたらなんだか悪いことをしたような気分になる。

 気の弱い人ならこれでついうっかり『私がやりました』と言って冤罪のもとになるんだろうな。


 警察署の中に入り一人づつ順番に取調室に。

 僕の番が来て部屋の中に入る。

 テレビの刑事ドラマとは違って明るく清潔な部屋の中。

「そこに座ってください」

 そう言った女の人は、なんだか不機嫌だった。日曜日に仕事で忙しい、それも謎のシルクハットの男が急に仕事を増やしたから。

 お疲れさまです、と心のなかで呟いて女の人の正面の椅子に座る。

 事情聴取は簡単なものだった。

 僕の前にも何人か事情聴取しているわけで、そこで聞いたことがすでに書類に書かれている。

 僕はその項目を読み上げる女の人にひとつづつ「はい、そうです」と言うだけのものだった。

 一ヶ所だけ「あ、それは」と口にしたら、

「それは、なんですか?」

 と強い調子で聞き返された。

 もう、細かい項目のつけ足しとか確認とかしたくない、というのが解ってしまったので僕も、

「いえ、なんでもないです。すみません」

 と言っておいた。

 事件のあったそのときに生徒の誰がどこに座っていたか、なんて細かいことはこの事件にも関係無いからわざわざ訂正することも無いだろう。

「あなたのクラスでは、男子と女子の仲が悪くて男子と女子は会話をしたことが無い。間違い無いですか?」

「はい、そうです」

「そのために、高崎陽子のいる女子グループが一人の女子生徒にイタズラをしていたことにも、男子は気がつかなかった。あなたもそうですか?」

「はい、そうです」

 これを繰り返し続けて、質問が『あなたが犯人ですか?』になったら『はい、そうです』と言わないように気をつけないと。


 ひととおり終わったのか女の人は黙って書類を確認する。

 ふむ、とひとつ呟いて、

「最後に、4月の女子の体操服盗難事件をきっかけにクラスの男女の仲が悪くなった、ということですが。どうして、同じクラスの同級生と仲良くできないのですか?」

 それは僕が聞きたい。同じ地域の同年代を一ヶ所に集めて、どうすればみんなを仲良くできるのか。

 それにこの質問は事件となんの関係があるんだろう?

 ついでに僕が聞きたいことも聞いてみようかな?

「あの、聞いてもいいですか?」

「なにをですか?」

「あなたはこの警察署の職員と仲良くしていますか? この警察署で働く人達、全員と友達とまではいかなくても、友好的な関係を作れていますか?」

 女の人は眉を寄せて、とても不機嫌な顔になってしまった。

 しまった。言わなくてもいいことを言ってしまったか。地雷だったか。

 しばらくお互いに黙ったまま。沈黙から視線をテーブルに落とす。

 どうも、中学生に余計なことを言われるのが嫌いな大人のようだ。誰もが佳介さんのように人の話を聞いてくれる大人では無い、ということを再確認した。

 僕もまだまだ甘い。こういうときは一目で相手の分析をして相手の望むトークを選択して相手の記憶に残らないようにこの場を離れる。それが余計な敵を作らない秘訣だというのに。

 順調そうだったから、と気が緩んでしまったかな?


 女の人はなにか言おうと口を開いて、すぐに閉じて、それから、

「これで事情聴取は終わりです。ご協力ありがとうございました」

 僕は、はい、と返事をして椅子から立って一礼して部屋から出た。

 最後の最後で背中からイヤな汗をかいた。

 ふぅ、緊張した。

 念のために家に帰るまでは注意をしておこう。


 他の同級生の事情聴取が終わるまで、警察署の中の自販機で買ったお茶を飲みながら待つ。

 帰りも同じライトバンで、行きと同じメンバーで家まで送ってもらうことに。

 こうして僕の初めての事情聴取は終わった。

 あれ、初めてじゃ無かったか? 以前にも事情聴取されたことあったか。

 保育園のころ、だったかな。警察になにか聞かれたことって。


 今回は最後の僕の質問で少し怒らせてしまったみたいだけど、それ以外は問題なし、だろうか。

 僕が夜の散歩で佳介さんと会ってることは、聞かれなかったし気がつかれてもいない、ということでいいのかな。

 あの神社に上がる石段の前では、誰かに見られていないかどうかを確認してから上がるようにしてはいるけれど。


 今日は疲れた。体が疲れたというよりは神経が疲れた。妙な疲労感。

 今日は夜の散歩はやめて、早めに寝るとしようかな。

 晩ご飯は何にしよう。


 

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