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後ろの姉

作者: 東春

オカダという男から聴いた話である。


オカダが小学校に入る前くらいの記憶なので

曖昧な点もあるのでと濁した。

近所にミノルという男の子が住んでいた。

ミノルは病弱であまり外には出て来なかった。

時折、暖かい日には公園で遊ぶ姿を見た。

オカダは優しい奴なので、ミノルを不敏に思い一緒に遊んであげたそうだ。

ミノルには姉がいた。

背丈はそれほど変わらないが、いつもミノルに優しくして、面倒を見ているようだった。

ミノルが疲れた時は、手を引いて歩いた。

ミノルが転んで膝を擦りむくと、泣き止むまで膝を撫でていた。

子供心にも羨ましい光景だったとオカダが言う


ある日気づいた。

ミノルにはもう一人の姉がいることに。

いつも付いて来る姉よりも少し大きい姉は

遠くから見守っているようだった。

二人に近づくことは無かったが、その存在感はちょっと異様だったと。

オカダは溜息を吐いて話を続けた。


神社で縁日の露店が並んだ夏の夜。

オカダは家族と来ていた。

ミノルは母親に綿アメを買ってもらいご機嫌だった。いつもの様に、その後に小さい姉がいて

少し離れたところに大きい姉がいる。

普通の家族に思えた。

いつも後ろにいる優しい姉。

そして、その後ろで見守る大きい姉。

二人の姉。


縁日は盛況で人出が多くなり混雑し始めた。

そして、ミノルは居なくなった。

ミノルの母親は大騒ぎして探している。

オカダの家族や近所の人達で捜索する相談までしていた。

ところが、数時間後にひょっこりとミノルが

歩いているのを発見された。

皆んなが安心したのだが、発見された場所が子供一人では到底歩いていける場所ではなかった

街外れの閉鎖された病院の玄関前だった。

もしや、誘拐事件かと騒がれたが不審人物も目撃されていないので、一件落着となった。

ミノルは「大きいお姉ちゃんと行った」と弁解したが母親は相手にせず、もう心配ないからと

言い聞かせていた。


オカダは思った。

大きいお姉ちゃんは、居ない人なのだと

ミノルやオカダには見えるが、大人達にその存在を感じることはできないのだと。


オカダとミノルは小学校に入学した

ミノルも少しずつではあるが元気になっていた

オカダは父親の転勤で引越しすることになった

夏休みの終わり、ミノルにお別れを告げた

ミノルも寂しそうだった。

ミノルの小さい姉も寂しそうに俯いていた

その後ろで大きい姉は笑っていた


20年後の話である

オカダもサラリーマンとなり出張ばかりで疲れていた

出張先で要件を済ませて、ホテルへ行こうとして

ふと気付いたこの土地は子供の頃住んでいた街であると、ミノルのことを思い出して懐かしくなり、記憶を頼りにミノルの自宅へと向かった。

自宅には、母親がいたのだが肝心のミノルは

不在であった、東北の大学に入りそのまま就職もその地でしたので、盆暮くらいしか帰ってこないのだと母親は愚痴をこぼした。


子供の頃の記憶なので、曖昧だが一緒に遊んだことや、縁日での迷子事件などを笑話にした

オカダは、そう言えば お姉さんはどうしてますか? と尋ねた。

ミノルの母親はキョトンとしている

「え、誰のことですか?」

オカダは不味いと思った、大きいお姉ちゃんのことは誰にも言ってないのだから無理もない

オカダは慌てて、訂正した。

「いや〜 あのミノル君と同じ背丈の優しいお姉ちゃんのことですよ、いつもミノルの手を引いて歩いたもんですよ」


ミノルの母親は顔面蒼白となり、こう告げた

「ミノルはひとりっ子ですよ」

「姉なんていませんよ!」


オカダは声にならない悲鳴を上げていた。




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