その二「声をきかせて」
「声をきかせて」
声をきかせて
あなたの声を
まだわたしが
忘れる前に
声をきかせて
わたしの声を
絶望の淵で
わたしがまだわたしである時に
声をきかせて
今の声でなく
前の声を
あれだけ愛しいと思えた
わたし自身の
声をきかせて
「泣きたくなるよ」
泣きたくなるよ
自分の顔で
泣きたくなるよ
自分の顔見て
泣きたくなるよ
今の私
涙が出たよ
自分の顔で
「枯れていく花」
光を浴びて
あれだけ輝いていたのに
ひとひらひとひら
枯れ落ちていく花
そこに確かにあったのに
人の心から
ぬぐいさられていく
まるで私のように
昔の姿を忘れ去られていく今の私のように
花も感じているのだろうか
一枚落ちるたびに
寂しいと
忘れないでほしいと
感じているだろうか
私のように
枯れゆく花は
「あなたはだあれ?」
あなたはだあれ?
と、
誰かが呟く
あなたはだあれ?
と、
誰かが笑う
あなたはだあれ?
あなたはだあれ?
あなたはだあれ?
こだまする
その言葉を言っているのは鏡を見たわたし自身
「病気のなかで」
病気のなかで
どんな言葉も
虚しく感じていた頃
イライラして人に当たったりした頃
自宅の留守番電話にいれていた自分の声を
夫が録音して
聴かせてくれた
聴いた声は
たどたどしく
ろれつのまわらない声
それでも
一生懸命伝えようと
声を出していた
一音一音
吐き出すように
それは
魂からの声のように
聴こえた
涙が出た
とまらなかった
ああ、ここまで頑張れたなら、
これからもきっと頑張れる
苦しいときに思い出す声
大丈夫
病気のなかで励まされたのは
わたし自身の声だった
「これからは」
これからは
今の顔がわたしになる
今の顔が
これからのわたし
こんにちは
これからのわたし
よろしくね
これからの顔