第2章〈機械じかけの金糸雀〉⑶
手違いで別の話がここに記載されていたのを修正しました。
体が軽い、追い風に乗ってぐんぐんと加速する。
思い切り前傾姿勢になり、自身の肉体を地を這う矢と化して砂漠を一気に駆け抜ける。
眼前の砂埃が晴れ、前方を走る人間の顔が見える。
女の子!?
その容姿は余りにも場違いだった、この凶悪な不毛の地を渡っているようには見えないほど肌は白く、人形のように可憐な手足と、陽に照らされて金色の稲穂のようにかがやく髪が余りにも眩しかった。
その少女は走るのを諦めたのか、振り向いて銀色のケースをその場に置き、腰に灰色の筒のような物を構える。
『銃ーーアンダーの人間か』
旧世代人類の武器の歴史において、魔法誕生までの間、数百年間もの間、主役として活躍してきた武器。
魔術によって強化された祝福礼装を使う騎士が世界の覇権を握ってからは、めっきりとその姿を見ることはは無くなり、今では魔力を持たない人間達、すなわちアンダーの人間達が僅かに使用するぐらいだと聞いている。
それを見た遠くの二つの人影の片方から眩く輝く矢が放たれる。
閃光のようにきらめくそれは、必中の精度を持って標的へと襲いかかる。
ーーあの娘、やられる!
アーチャーの放った矢は、たとえ弓主の元を離れてもその操作受け続ける、標的が高速で移動しようと狙いを続けるその矢は、正に不可避の一撃となるのだ。
その瞬間、少女の手元から紅い火花が巻き起こる。
それは如何なる神技であろうか、目に捉えることすら困難な3本の閃光は、彼女の放った弾丸によって全て叩き落される。
それだけではない、彼女は一瞬のうちに返す刀でアーチャーへの反撃まで行っていた。
不可避であれば、無くしてしまえばいい。
理屈は単純だが、行うとなればそれは常人のなし得る技ではない。
たとえナイトクラスの剣技を持ったとしても、全てを斬り落とすのは生半可なことではないからだ。
容易くそれを成し遂げたのは、彼女もまた人ならざる者であるという証であった。
だが、それは騎士とて同じこと、彼女に接近しつつある騎士に反応し激しい銃撃を浴びせるが、うち放った銃弾はナイトの纏う凶悪なまでの装甲によって弾かれる。
強烈な衝撃によって動きを止めることはできているが、弾が切れれば最後、その可憐な肉体は一撃の元に切り裂かれるだろう。
その時、自分の体を突き動かしたのは一体何だったのだろうか、見知らぬ少女を救おうという英雄譚の一編のような思いか、あるいは、ただ単にアンダーの人間というだけで騎士に追われることになった彼女に自分を重ね合わせたか、それとも騎士そのものが自身の脅威となり得るからか。
それともまた別の、人が人であるが故の理屈無き行動か。
ナイフを腰から取り出し、己の脚が爆ぜるように大地を蹴り上げ、その肉体を天空へと舞い上げる。ナイトの意識は完全に少女へと向いており、己の肉体はナイトにとって認知することが出来ない存在と化していた。
すなわちそれこそがアサシンの真髄、不可視の状態からの不可避の一撃、戦場によって観測されることがなく、鋼魔大戦中においても、ついに最後まで記録されることのなかった文字通り必殺の一撃である。
鉄壁を誇るナイトの装甲とはいえ、それが守れるのはあくまで装甲がある部分だけであり、完全な意識外から放たれる一撃は、その装甲の縫い目をなんの困難も無く打ち抜いた。
一撃、時が止まったかのように感じる程長い一瞬の後、ナイトはその場に崩れ落ちた。
彼女から見れば、突然ナイトの首にナイフが生えたように見えただろう。
驚きのあまりか、口をポカンと開けたまま、こちらをじっと見ている。
どうするべきか、勢いで助けてしまったのはいいが、流石に余りにも唐突すぎる。
一旦気配遮断を解いてから話しかけるか……
そんなことを考えていると、彼女の口から驚くべき言葉が飛び出した。
「あなたは……誰?」